51:試験結果
朝の校舎は、いつもより少しざわめいていた。
講堂前の掲示板に向かって生徒たちが集まり、数枚の白い用紙に吸い寄せられるように視線を注いでいる。
中間試験の結果。
その一枚には、今の自分の実力と「劇団の未来」が、すべて刻まれていた。
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1位紫堂エリカ
2位一ノ瀬ゆら
3位結城さら
5位橘颯真
…
13位綾小路澪
…
22位鷹宮あかり
23位神田麻琴
…
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掲示板の前、一番乗りで結果に目を通したのは紫堂エリカだった。掲示された紙に「第1位 紫堂エリカ」の文字を見つけても、彼女の表情は変わらない。
「当然よね」と、小さく息を吐く。
達成感ではなく、確認――エリカにとって1位は、取るべきものであり、失ってはならないものである。
背後から誰かが「やっぱりエリカ……」と小さく呟いたが、彼女は聞こえないふりをした。
その鋼のような背筋が、エリカという存在のすべてを物語っていた。
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2位の文字を見て、静かに微笑んだのは一ノ瀬ゆら。
「ふふ、またエリカさんには勝てなかったわ」
けれど、どこか悔しさを滲ませるその表情。
品のある立ち居振る舞いの中に、負けん気の強さが確かにあった。
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3位、結城さら。
さらはそっと口元を押さえていた。
ほっとしたような、それでいて自分に納得していないような、複雑な安堵の顔。
「……よかった」と呟いた声を、誰にも聞かれないように小さく。
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「5位か……まあ、こんなもんか」
橘颯真は笑っていたが、その笑顔の奥にある何かを、ひまりは見逃さなかった。
颯真は颯真なりに、自分がまだ本当のトップグループに届いていないことを痛感していた。彼女は自室に戻ったら、誰にも言わずストレッチの量を増やすつもりだった。
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13位、綾小路澪。
掲示板を見つめたまま、しばらく動けなかった。
以前は10位だった。
3つ落としたという事実よりも、自分の“中身の薄さ”を講師に見透かされたようで、胸の奥が冷たくなる。
周囲の視線が怖くはなかった。
けれど、彼女は自分自身から目をそらしたかった。
「もっと、深くなりたい……」
誰にも聞かれないように、心の中でそうつぶやいた。
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22位、鷹宮あかり。
「えっ……私、22番……?」
その瞬間、あかりの顔に驚きと喜びが混ざったような、くしゃっとした笑顔が広がった。まさか自分が、下から数えた方が早かった順位から、ここまで上がるとは思わなかった。
神田麻琴が「すごいじゃん!」と声をかけると、他の同期たちも口々に賞賛を送る。
「がんばってたもんね、あかり」
「声楽、すっごくよかったよ!」
「日舞、きれいだった!」
ひまりや大河が口々に褒める。さらも静かに微笑む。
でも――
(まだ、下半分……)
あかりはその数字の意味も、きちんと噛みしめていた。
ここから2年生になれば、成績順に1組と2組に分かれる。文化祭の配役にも大きく影響する。このままでは“主役の舞台”には立てない。
(もっと上に……行かなきゃ)
その瞳の奥には、静かに闘志が灯っていた。
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23位、神田麻琴。
麻琴は順位が上がったことに手ごたえを感じていた。補習も頑張った。でも、周りもみんな頑張っていた。
「……あたし、もっとできるようにならなきゃ」
そう小さく呟いた麻琴の肩を、大河が軽く叩く。
「まだまだこれからだろ」
その言葉に、麻琴は小さく笑った。
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掲示板を離れていく生徒たち。
誰もがそれぞれの想いを胸に抱いていた。誇らしさ、悔しさ、焦燥、希望。
この試験結果は、文化祭の配役に影響する。
誰もが主役の座を夢見る。けれど、その舞台の中心に立てるのは、ほんの一握り。
「ここからが本当の勝負ね」
誰かがそう呟いた言葉が、どこかで風に乗って消えていった。
そして、誰もがまた、自分の足で歩き出した。それぞれの、次の一歩へと。




