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天翔の星  作者: 嵯峨野遼
第2章 天翔専門学校1年生
51/140

51:試験結果

 朝の校舎は、いつもより少しざわめいていた。

 講堂前の掲示板に向かって生徒たちが集まり、数枚の白い用紙に吸い寄せられるように視線を注いでいる。

 中間試験の結果。

 その一枚には、今の自分の実力と「劇団の未来」が、すべて刻まれていた。


1位紫堂エリカ

2位一ノ瀬ゆら

3位結城さら

5位橘颯真

13位綾小路澪

22位鷹宮あかり

23位神田麻琴


 掲示板の前、一番乗りで結果に目を通したのは紫堂エリカだった。掲示された紙に「第1位 紫堂エリカ」の文字を見つけても、彼女の表情は変わらない。


 「当然よね」と、小さく息を吐く。


 達成感ではなく、確認――エリカにとって1位は、取るべきものであり、失ってはならないものである。

 背後から誰かが「やっぱりエリカ……」と小さく呟いたが、彼女は聞こえないふりをした。

 その鋼のような背筋が、エリカという存在のすべてを物語っていた。


**


 2位の文字を見て、静かに微笑んだのは一ノ瀬ゆら。


 「ふふ、またエリカさんには勝てなかったわ」


 けれど、どこか悔しさを滲ませるその表情。

 品のある立ち居振る舞いの中に、負けん気の強さが確かにあった。


**


 3位、結城さら。


 さらはそっと口元を押さえていた。

 ほっとしたような、それでいて自分に納得していないような、複雑な安堵の顔。

 「……よかった」と呟いた声を、誰にも聞かれないように小さく。


**


 「5位か……まあ、こんなもんか」


 橘颯真は笑っていたが、その笑顔の奥にある何かを、ひまりは見逃さなかった。

 颯真は颯真なりに、自分がまだ本当のトップグループに届いていないことを痛感していた。彼女は自室に戻ったら、誰にも言わずストレッチの量を増やすつもりだった。


**


 13位、綾小路澪。


 掲示板を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 以前は10位だった。

 3つ落としたという事実よりも、自分の“中身の薄さ”を講師に見透かされたようで、胸の奥が冷たくなる。

 周囲の視線が怖くはなかった。

 けれど、彼女は自分自身から目をそらしたかった。


 「もっと、深くなりたい……」

 

 誰にも聞かれないように、心の中でそうつぶやいた。


**


 22位、鷹宮あかり。


 「えっ……私、22番……?」


 その瞬間、あかりの顔に驚きと喜びが混ざったような、くしゃっとした笑顔が広がった。まさか自分が、下から数えた方が早かった順位から、ここまで上がるとは思わなかった。

 神田麻琴が「すごいじゃん!」と声をかけると、他の同期たちも口々に賞賛を送る。


 「がんばってたもんね、あかり」

 「声楽、すっごくよかったよ!」

 「日舞、きれいだった!」


 ひまりや大河が口々に褒める。さらも静かに微笑む。


 でも――


(まだ、下半分……)


 あかりはその数字の意味も、きちんと噛みしめていた。

 ここから2年生になれば、成績順に1組と2組に分かれる。文化祭の配役にも大きく影響する。このままでは“主役の舞台”には立てない。


(もっと上に……行かなきゃ)


 その瞳の奥には、静かに闘志が灯っていた。


**


 23位、神田麻琴。


 麻琴は順位が上がったことに手ごたえを感じていた。補習も頑張った。でも、周りもみんな頑張っていた。


 「……あたし、もっとできるようにならなきゃ」


 そう小さく呟いた麻琴の肩を、大河が軽く叩く。


 「まだまだこれからだろ」


 その言葉に、麻琴は小さく笑った。


**


 掲示板を離れていく生徒たち。

 誰もがそれぞれの想いを胸に抱いていた。誇らしさ、悔しさ、焦燥、希望。


 この試験結果は、文化祭の配役に影響する。

 誰もが主役の座を夢見る。けれど、その舞台の中心に立てるのは、ほんの一握り。


 「ここからが本当の勝負ね」


 誰かがそう呟いた言葉が、どこかで風に乗って消えていった。

 そして、誰もがまた、自分の足で歩き出した。それぞれの、次の一歩へと。

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