表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/111

⑨ 記憶

 

 魔王との戦闘がまるで嘘であったかのように、教室は元どおりになる。

 だが、それが現実であったことがすぐにわかる。


『たららたったたー』


 レベルアップ音が鳴り響く。


『ハジメ君のレベルが20から31に上がりました。HPが110 攻撃が22 守備が11 速さが22 UPしました。ポイント交換のリストが増えました』


 大幅なレベルアップ。

 だが、魔王を倒したのはアキラだけの筈だ。

 アリスとルカにも同じことが起きているようだ。

 皆がアキラに注目する。


「携帯をハッキングした時にパーティーを組んでいたんだ。そのほうが再生しやすかったから」


 面倒くさそうに説明する。


「もう、解除している。人と連むのは好きじゃない」


 今にもロッカーに帰りそうなアキラ。

 シズクが寂しそうな顔をしている。


「一つだけ、教えてくれないか。記憶。リセットされてもすべての記憶を残すことが出来るのか?」


 聞きたいことは山程ある。

 だが、それが一番大事な事に思えた。

 そうだ。このゲーム。始まった時から俺は記憶喪失だ。

 全ての鍵は記憶にあるのではないか。


「無理だ。魔王の記憶圧縮はスキルによるものだろう。俺達がリセットされたら、残る記憶はごく僅かだ」


 アキラが自分の頭を指差す。


「俺達の脳には21グラムのチップが埋め込まれている。そこには核と呼ばれる全てのデータが入っているが、ここに来てからの記憶は含まれない。リセットされるとチップは回収され、そこからまた再生される」


 ここに来てからの記憶。

 そうだ。俺以外は以前の記憶が存在している。

 なら、俺のデータは?

 俺にはチップ自体が存在しないのか?


「チップには1グラムだけ、空洞がある。ポケット。そこに記憶のカスが溜まる。容量はごく僅かだ。詰め込んでも普通なら人の記憶は全部入らない」


「アキラ、君はそこにかなりの記憶を残していないのか?」


 世界の仕組みを理解する。

 それは一周だけで出来るとは到底思えない。

 記憶を圧縮する技術をアキラは持っているのではないか。

 だが、予想を大きく上回る答えが返ってくる。


「俺のチップには残りカスすらない。完全に記憶を排除している。1グラムのポケットにはマリアのデータを圧縮して詰め込んでいる」


 携帯機械、マリアを見る。

 ただ静かにアキラのそばで佇んでいる。


「人の記憶は圧縮出来ないがマリアの記憶は圧縮可能だ。携帯とチップを連動し、マリアはそのまま記憶を引き継ぐ。俺の記憶はリセットされてもマリアが全てを覚えてくれている。毎回、優しく俺に教えてくれるんだ」


「それでいいのか? マリアを愛した記憶が毎回消えてしまっても構わないのか?」


 理解が出来ない。それは一体、どのような愛なのか。


「リセットされる度に何度も新しくマリアに恋をする。浪漫が溢れてるじゃないか」


 アキラがマリアの手を取り、そこにキスをする。

 背後でシズクがハンカチを噛んで悔しがっている。


「だから、俺はゲームクリアには興味がない。お前であろうが、カムイであろうが、どちらが残ろうがどうでもいい」


 やはり、アキラは世界の仕組みをかなり知り尽くしている。俺がゲームを作ったことも知っているのだろう。


「なら、どうして協力して魔王を倒してくれたんだ? リセットされても問題ないなら、倒さなくてもいいだろう」


 カムイやラス、その他のメンバーは緊急ミッションが始まってから部屋から出てこない。

 これまでにない異質なミッション。

 皆が危険を避ける中、アキラだけが教室にやって来た。


「俺の目的はマリアと共にこのゲームを永遠に続けることだ。魔王はゲーム盤をひっくり返し、壊そうとしていた。だから排除した」


 ゲームを壊す?

 可能なのか、そんな事が。

 何かが引っかかる。

 この世界がゲームだとしたら、破壊されたら俺達はどうなる?


「私も一つ、聞いていいか?」


 アリスがここで初めて質問する。


「ダメだ。女性と話すとマリアが嫉妬する」


 アリスが真面目な顔のまま固まる。

 シズクが当然よ、自分でも話せないのよ、舐めんなじゃないわよ、新参者が、という顔をしている。


 ちょい、ちょいとアリスに手招きされたので近づく。

 耳元でゴニョゴニョと囁かれる。

 何故かルカも近寄ってきてそれを聞こうとする。

 ナニコレ。少し照れる。


「あ、えっと、この世界がゲームだとしたら機械仕掛けなんだろう? 機械をそんなに信じていいのか?」


 アリスに言われたセリフをそのまま言う。


「マリアが俺を裏切ることはない」


『マリアは嘘をつきません』


 魔王との戦闘の時にも同じようなセリフを言っていた。

 やはり、違和感がある。

 ほとんど喋らないマリア。

 だが、嘘という言葉には過剰に反応する。


 機械仕掛けの世界。

 携帯機械マリア。

 ポイントで携帯を進化させたマリアは本当にアキラの味方なのか?

 そこに、何者も介入していないのか?


 マリアが此方を見て目が合う。


 映像が流れる。

 なんだ。

 まさかマリアとの恋愛もあったというのか。

 違う。アリスやルカと違い、心臓の鼓動は変わらない。


 教室。ここよりも大きな教室。黒板には三年S組と書かれている。


 二つの黒板に挟まれた教室の中央で漫才のビデオが流れている。


 そのすぐ側で白い少女が鼻歌を歌っている。

 カノン。パッヘルベルのカノンだ。


 ばつんっ、といきなり接続が切れたように映像が消える。


 マリアを再び見る。

 表情が全くない能面な機械の顔が笑ったように感じた。


 そして、その刹那。


『三年A組ーーっ、黒板先生ーーっ!!』


 突如、スピーカーが鳴り響いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ