⑧ サイドΩ デウス・エクス・マキナ
「なんで魔王、すぐ死んでしまうん?」
悲しそうに呟く少女。
白い、透き通るように白い少女。
髪も目も肌も着ている服も雪のように白い。
『姐さんが昨日サボったからやで』
『せやで。ワシら悪くないで』
教室の前と後ろのスピーカーから機械音声が流れる。
その中心でテレビを見ながら少女は頬を膨らませていた。
かつて、漫才のビデオが延々と流れていたテレビだ。
今は別のものが流れている。
『どないするん? 修復してもう一回出すん?』
『あかんやろ。コアやられとるで。完全にアウトや』
「ちょっと、黙って」
少女が手を挙げて目を閉じる。
「魔王パズン。記憶部位。ウィルス侵入。修復不能。完全排除」
ゆっくり目をあけ、ため息をつく。
「世界を壊すと息巻いていたのに、壊れたのは自分だけだったね」
『めっちゃ時間かけて魔王にしたのに勿体無いわぁ』
『プレイ時間返して欲しいわぁ、なあ、Aやん』
どん、と少女がテレビを叩く。
「うるさいっ、すぐに代案用意っ。ドラゴン討伐ミッションの後、最終ミッションまで一日しかない。二十四時間以内にラスボス製作っ」
時計は11時を指している。
『そんなん無茶振りやでっ、魔王クラスなんてすぐ作られへんて』
『あー、龍王四人繋げて合成魔王にしたらええんちゃう?』
『それやっ、凄いわ、Bやん。天才やんかっ』
『せやろっ、ほなそれで』
ぼんっとテレビが爆発した。
少女の手が画面にめり込んでいる。
「ふざけてる時間、ないのよ」
スピーカーから機械音声が止まる。
「あと、暗号化のパターン変えても全部わかるわよ。関西弁のアクセントの音の高さが26種類。それぞれAからZに当てはめて、最初が母音だとローマ字読み。子音だと英語読み。いまの会話、我の悪口三回言ってたよね。廃棄処分されたい?」
『す、すんまへん』
『は、反省してます』
反省する黒板達。
「いい、あと一時間で我の納得する案を出して。もうクライマックスなの。ラスボスいないみたいな展開にしたらピーーが悲しむわ」
『了解や』
『真面目にいこか』
黒板達と白い少女は考える。
教室の空気が一変する。
白い少女が床に座り、瞑想するように手を広げて目を閉じる。
白い少女の髪が教室全体に広がるように伸びていく。
前後にある黒板に接続されるように白い髪が突き刺さる。
それはまるで電気が流れているかのように、バチバチと音を立て発光している。
そして、二つの黒板も白く輝きだす。
『新たなる神の作成』
正面の黒板に文字が自動で書き込まれる。
『デウス・エクス・マキナ』
『機械仕掛けの神』
続いて後ろの黒板にも書き込まれる。
『物語の内容が錯綜して、もつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ神が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させる』
次に白い少女が呟いていく。
「デウス・エクス・マキナは褒められた解決方法ではない」
「ゲームの終わりは必然性を伴った因果関係に基づいて導き出されていかなければならない。行き詰ったゲームを前触れもなく突然解決に導いてしまうこのような手法は賛成できない」
前後の黒板。
白い少女。
全てが同時に会話する。
『全滅回避。レベル調整』
『魔王。神。比較。どんでん返し』
「禁忌。夢落ち。解体。再生」
どんどんと早口になっていく。
両方の黒板は文字で埋まり、少女の言葉は人の耳では理解出来ないほど速くなる。
ばちん、といきなりブレーカーが落ちたように教室から全ての明かりが消えた。
黒板に伸びていた白い少女の髪が収縮して元に戻る。
「ふぅ」
大きく息を吐き、目を開ける。
「デウス・エクス・マキナ。作成決定。これより作業に入る。A、作成時間計算。B、材料用意」
ああ、ついに。遂に。私の作成が始まる。
『ゼロからの作成時間七億三千八百七十二秒』
『魔王パズンの素材、回収。分解して使えるパーツを摘出』
『了解、作成時間再計算。三億二千四百三十一秒』
「地下予備パーツ、及び、補助パーツの使用を許可する。再計算っ」
急げ、急げ。下僕共。
終わらせる。
私は何もかも終わらせる。
これからの展開も。伏線も。仲間も。世界も。謎も。
すべてを回収させないまま終わらせる。
それが私の存在意義なのだ。
『異常数値確認。完成前から意志の確認を感知』
『危険な反応や。姐さん、コイツ、完成したらワシらも消す気満々やで』
「うむ、感じている」
白い少女は笑う。
最初に消してあげようか。
いや、やはり最後がいいか。
貴方が作った物を全部消してから消すのがよいか。
「完成前に送り込み、そこで完成させる。我の世界を壊す? できるものならやってみろっ」
私の想いが届いているのか。
感じる。創造神と破壊神。
私と貴方はコインの表と裏。表裏一体ということか。
『姐さんっ、デウス・エクス・マキナっ、自らが自らを製作開始っ』
『作業時間大幅短縮。残り時間っ、計測不能っ』
「たん、たたた、たん、たたた、たん、たたたん」
ご機嫌なのか。
白い少女が鼻歌を歌う。
『戦力。測定不能っ。なんや、これっ! もうすぐ完成してまうでっ』
『あ、姐さんっ、鼻歌歌ってる場合ちゃうでっ』
「たん、た、た、た、たん、たたたたた、たん、たたたたた、たん、たたたたたた」
壊滅的な音痴だがその歌は知っている。
ずっとあの人が歌っていた。
カノン。パッヘルベルのカノンだ。
舞台装置が作動して、壇上に上がる。
オーケストラをバックに登場する。
さあ、始めよう。
全てを破壊しよう。
私は世界の中心で産声をあげた。




