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⑦ 魔王崩壊

 

 その光景に息を飲む。

 まさか、魔王に勝てるとは思わなかった。

 満身創痍。

 こちらもただではすまなかった。

 四人ともポイントはギリギリ。

 もう再生は出来ない。


 目の前に高く積み上げられた机と椅子の塔。

 その中心に絡まって身動き一つ取れない魔王。


「マジか。これマジなのか」


 信じられないのは魔王も同じだった。

 椅子と机がまるで知恵の輪のように魔王の身体に絡まっている。

 腕、足、胴体、頭、翼、ツノ、一部分すら動かせないほど絡みに絡まっている。

 吊るされた操り人形のような格好で呆然としている。


『パズルリング完成。脱出確率。ゼロパーセント』


「うん」


 マリアが開いて、中からアキラが出てくる。

 マリアが余っている椅子を取ってきて、魔王の正面に

 置く、そこにアキラが静かに座る。


「作戦完了」


「はぅ」


 アキラのセリフと共にシズクが倒れこむ。

 ダメージを負ったのかと心配するが、その必要はなかった。


「超かっこいい」


 目がハートマークになっている。


 だが、無理もない。

 アキラの作戦は凄まじいの一言だった。

 第二形態の魔王の攻撃は素早く、机や椅子のガードをすり抜けて、一撃で致命傷を与えていく。

 その際、アキラは携帯で仲間や自らを再生させながら、椅子や机を魔王にぶつける。

 ゆっくりした攻撃。まるでダメージを与えていない攻撃。しかし、椅子や机は纏わりつくように魔王の身体に付着する。

 意に介せずとそのまま攻撃をする魔王。

 異変に気がついた時にはすでに遅かった。


 身の回りに椅子や机を浮かばせたのは、俺達をガード

 する為ではなかった。

 最初から魔王の動きを封じるために浮遊させていたのだ。


「ぐ、お、お、お」


 魔王の力でも全く動かない。

 机と椅子にある無数の足は絶妙に絡み合い、力では変形されない為、外れない。


『第二形態になりパーツが増えた為、拘束パータンが四十八増えました』


「と、いうことだ。残念魔王」


「舐めるなっ、俺はまだもう一つ変身を残しているっ」


 魔王の野獣の目が紅く光る。

 更なる変形で拘束を解こうとする。


「いっ、ぎゃ、がががががっ」


 魔王が悲鳴をあげる。

 肉が食い込み、血が出るが椅子や机はビクとも動かない。


「無理だ。大きくなろうが小さくなろうが、肉体が変化したら弾け飛ぶ」


 座ったまま、魔王の目玉を右手で掴む。


「ここでなければ勝てなかった。悪いが始末する」


 ぐしゃりと右目を潰す。緑色の血が飛び散った。


「ちっ、まぁ、いいか。こっちにこれて楽しかった。お前の事は覚えておくぞ」


 片目を潰され、始末されるとわかっても余裕たっぷりの魔王。

 だが、次のアキラの言葉で絶句する。


「それは無理だ。お前の記憶ごとデリートする」


「......っ、なっ、にっ?」


 マリアがアキラに何かを手渡す。


『ギ、ギ、ギギ』


 小さな機械仕掛けの虫。デザインはゴキブリだろうか。不気味な銀色の足がもぞもぞと動いている。


「このゲームはすでに何十回、何百回と繰り返されている。カムイはクリアの報酬で記憶やレベルをそのままにやり直してるみたいだが、他の者は全てリセットされて一からやり直している」


 魔王はアキラに世界の仕組みを解き明かしていると言っていた。

 どこまでアキラは知っているのか。


「作り直された者たちの記憶は完全に消えるはずだったのだろう。だが、そこにバグが生じる。ほんの少し、残りカスのような記憶がこびりつくように残っていく」


 残穢。アキラにも俺と同じように、たまに映像が見えているのか。


「そして、たまにお前のようにすべての記憶を失わない者もいる。何故か。ほんの少し残る記憶の箇所。そこに記憶を圧縮させて保存している。そうする事によって次回もすべての記憶を引き継いでいる。だが、そこが破壊されたら」


『ギー、ギー』


 アキラの手の中の機械虫が嫌な音を立てて鳴いている。


「次から記憶は残らない」


 アキラがえぐりとった右目の穴に機械虫を入れる。


「ま、まてっ、それはっ」


 魔王が初めて焦った顔をする。

 肉体が崩壊するのも構わずに変形する。

 ぶちぶちと腕や足がちぎれていく。


「機械虫はお前の記憶すべてを喰らう。ここまでだ」


「や、やめろっ! 貴様っ、俺はっ、壊さなければならないっ、世界をっ、このゲームをっ」


 もがきながら崩壊していく魔王。


「あっ、あっ、消えるっ、記憶がっ、俺の、オイラのっ、世界のっ、あっ、あっ、記憶がっ、絶対記憶がっ」


 原型はもう留めていない。

 机や椅子の隙間から、肉の塊がチューブのように押し出されていく。


『ギチギチギチギチ』


 何かを噛む音が肉の内部から聞こえてくる。


「馬鹿なっ、こんなところでっ、魔王の力を得たっ、時間を超えたっ、次元も超えたっ、ここまでやって来たっ、あと少しっ、あと少しで奴らに届くのにっ、あっ、あっ、消えるのかっ、嘘だっ」


 爆ぜる。

 臨界点に達している。


「団長っ、オイラはっ!」


 魔王が爆発する。

 閃光で教室が覆われ、一瞬、何も見えなくなる。


『緊急ミッションが完了しました』


 ミッションの終わりが宣告される。


 何事もなかったかのように机と椅子は元通りになっていた。





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