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⑥ 機械仕掛けの世界

 

 突進してきた魔王の攻撃をアキラが防いだ。

 ルカやアリスが全く防げなかった攻撃をだ。


 机だった。

 側にあった机を盾にして、魔王の攻撃を防いだのだ。


「これはっ、不可侵物質かっ」


 リリンがアイの机にファイアーボールを打ち込んだ事を思い出す。

 あの時、机には傷一つつかなかった。

 魔王の攻撃ですら、まったくの無傷だ。


「グラビティ オペレーション」


 携帯機械マリアの中でアキラが呟く。

 指はまるでパソコンを叩くような仕草を取っている。

 無数の机と椅子が教室を舞う。


「ゼロ ダウン」


 宙に浮いていたすべての机と椅子が魔王に降り注ぐ。


「はっ」


 魔王は笑って立っている。


「やるじゃねえか」


 教室の中心に机と椅子の山が積み上がる。

 埃にまみれ、魔王の姿が見えなくなる。


「マリア、三人の携帯をハック」


『ハイ、マスター』


 シズク、アリス、ルカの携帯が持ち主のポケットから出てきて宙に浮かぶ。


 アキラが目に見えない程のスピードで空中を指で叩いている。


「な、何をしている」


 死んだ三人の携帯で何をしようとしているのか。

 アキラはこちらを見ない。

 ひたすら見えないパソコンを叩く動作をしている。


「ここでの死の概念は曖昧だ。脳死。心停止。対光反射の消失。全て確認しているとは思わない。活動を停止して暫くしたら存在事態がここから消えるだけだ」


「まさか、まだ三人は」


 死体は消えていない。

 まだ、間に合うのか?

 椅子や机がゴトゴトと動き始める。


「ポイントが残っていれば再生できる」


『ハック完了。操作出来ます』


 バラバラになったルカとアリス。

 その姿がまるで何事も無かったように再生される。

 シズクの首も戻っていた。


「ルカっ、アリスっ」


 まさか、まさかっ。

 泣き崩れそうになるのを必死に押さえる。


「ハジメっ、アリスっ」


「ルカっ、ハジメっ」


 三人で抱き合う。

 暖かい。生きている。生きているっ。


「アキラっ」


 シズクも復活してアキラに駆け寄る。


「アキラ、アキラっ、ありがとう、私っ」


 抱きつこうとするシズクを避けるアキラ。

 べちゃ、と床に倒れるシズク。

 それでも顔は笑っている。


 マリアの中にいてアキラの表情は分からない。

 だが、多分、いつもと全く同じ無表情なのだろう。


「あ、ありがとう」


 感謝の言葉が自然に出る。


「助かった、感謝する」


 ルカとアリスも頭を下げる。


「勘違いするな。勝率を少しでも上げるためにしただけだ。ポイントがなくなったら次はない。......来るぞ」


 ぼんっ、山になっていた机と椅子が弾け飛ぶ。教室の壁や天井に当たって跳ね返る。


「はっはっはー」


 魔王は笑っている。


「いいねっ、お前いいよっ、雑魚などと言って悪かったっ」


 俺を指差して言う。


「そこにいる出来損ないより、よほど主人公しているぞっ。この世界の仕組み、解き明かしているなっ」


「半分程だ。機械仕掛けの世界。ワールドオブクロックワーク。裏技やバグ技は存在する」


 魔王の言葉が胸に刺さる。

 そうだ。俺は完全に諦めていた。

 あまりにも絶望的な力にどうしようもないと諦めたのだ。

 可能性はある。

 ほんの、ほんの小さなものでも、確かに存在する。


 散らばっていた机や椅子が再び宙に舞う。

 それはアキラやシズク、ルカ、アリス、そして俺の周りを浮遊する。


「あん、防御のつもりか。そんなもんで二度も俺の攻撃が防げると思っているのか?」


 そう言いながら魔王は実に嬉しそうだ。

 強者の余裕か。隙を突くとすれば、相手が油断をしまくっているというところだ。


「作戦プラン、パズルリング実行。マリア、勝率計算」


『作戦プラン。パズルリング。計算。再生回数。シズク残3。ルカ残2。アリス残2。マスター残4。ハジメ残不明。敵。初速度。315......』


 アリスとルカは後二回再生出来るのか。

 いや、次があるとは思わないほうがいい。

 二度とあの光景は見たくない。


『結論。38パーセントの確率で、我々は勝利出来ます』


 高いのか、低いのか。

 いやゼロパーセントと俺は思っていた。

 この魔王に三割以上で勝てる作戦があること事態、奇跡的だ。


「はっ、なんだ、その確率。本気でそんなもん信じてんのか」


 魔王が笑って、マリア イン アキラを睨む。


「いいぜ、たが、これでも確率は変わらないか?」


 魔王の身体が変形する。

 獣気が溢れる。

 身体がさらに大きくなり、筋肉が増量されていく。

 全身から黒い毛が生えて、こめかみから巨大な牛のようなツノが突き破るように現れる。

 鋭かった八重歯は口からはみ出してキバになり、背中からは黒いコウモリのような翼が生える。

 手と足からは爪が伸び、異様な長さになっている。


「第二形態だ。こうなったらもう、止まらんぞ」


 獣化した魔王の重圧に潰れそうになる。

 だが、アキラはそれを飄々と受け止める。


「漫画のような設定だ。恥ずかしくないのか?」


「ちょっ、おまっ、それ言っちゃダメだろっ」


 獣と化した魔王が泣きそうな顔になる。


 すみません。多分、そいつの設定、作ったの俺です。

 アキラの台詞に傷つく俺と魔王。


「マリア再計算」


『敵。第二形態。体積。5割増。速度。攻撃力。上昇度。不明。予測。約二倍から三倍......、再計算、完了しました』


「必要ねぇだろ、その計算。どうせゼロだからな」


 空気が歪む。

 魔王が攻撃体制に入ったのがわかる。


『結論。勝率は72パーセントに上昇。勝利濃厚です』


 プチンと何かが切れる音。


「その機械、冗談いうのか?」


『マリアは冗談を言いません』


「マリアが嘘を言うわけがないだろう」


 アキラとマリアが同時に言う。


 獣の咆哮が教室に響き渡り、戦闘が始まった。





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