② サイドJ ヒデオ
狭い空間。
誰かに閉じ込められたのか。
真っ暗で何も見えない。
動こうと身体を動かすが壁に当たって動けない。
犯罪か何かに巻き込まれたのか?
「おーーい」
叫ぶ。
「誰か、いないのかーー」
返事はない。
正面の壁を肩で押す。
鈍い金属音がして何かがズレる。
そこから光が漏れ、薄っすらと景色が見える。
教室?
机と椅子が並んでいるのが隙間から見える。
「ここは、ロッカーか?」
ズレたのは扉のようだ。
力を込めて両手で押すと、軋きしむような音がして扉が開いた。
教室だ。
朝か昼だろうか。窓から陽が差し込み教室を明るく照らしている。
大きな黒板が正面にあり、その上にスピーカーと時計がある。時刻は八時を少し過ぎたぐらいだ。
椅子と机が20組以上並んでいて、そこに一人、少女が座っている。
自分の格好を見る。
高校の学生服。冬服だ。
朝、学校に行く準備をしていたことを思い出す。
だが、ここは自分の教室ではないし、学校に向かった記憶もない。
「あ、あの、こんにちわ」
少女がこちらに気づいて挨拶してくる。
車椅子に乗っていた。
病弱なのか、怪我をしているのか。
黒いおさげ髪の顔は少しやつれているように見える。
可愛いというよりはか弱い小動物をイメージさせる。
年は俺よりも少し下の中学生くらいだろうか。
少し大きいピンクのパジャマを着て、怯えた表情でこちらをジッと見ている。
「ああ、こんにちわ」
挨拶しながら状況を確認する。
誰が俺をここに連れてきたのか。
この少女とは考えにくい。
黒板に何か書かれているのを発見する。
右端に縦書きで 、
『四月九日 三年B組』
と書かれている。
そして真ん中に横書きで 、
『本日のイベント 転校生イベント』
『男子1名、女子1名』
『皆さん、仲良くしてください』
と書かれてあった。
四月九日? おかしい。確か今は冬だったはずだ。
「あの、わたし、何がなんだかわからなくて、ここは一体、どこなんでしょうか?」
少女の声には恐怖が溢れている。
「大丈夫。俺に任せて」
精一杯の笑顔で答える。
状況はまるでわからない。
だが、異常な状況なのはわかる。
最悪、今にもチェーンソーを持った殺人鬼が教室に入ってくるかもしれない。
「俺の名前はヒデオ。英雄と書いてヒデオと読むんだ」
「わ、わたしはカオリ。花を織ると書いてカオリ」
しゃがんで床に足をつき、目線をカオリと合わせる。
左手をカオリの肩に軽く置いて、右手で握り拳を作った。
「君を守る。俺は正義のヒーローだからな」
名前のこともあり、小さい頃から正義のヒーローに憧れていた。
どんな小さな悪も見逃さず、すべての悪に立ち向かう。
そんなヒーローになりたかった。
小学生の時はクラスでのイジメを無くす為、いじめっ子達と一人で戦った。
味方は一人もいなかった。
いつしかターゲットはいじめられていた子から自分に変わっていた。
それでもいいと思っていた。
正義を信じ、戦う。
その為には何を犠牲にしてもいい。
「ここに待機していてくれ。外を見てくる」
教室の扉に手をかける。
しかし、ピクリとも動かない。
鍵がかかっているのだろうか。
だがこの程度の扉など問題ではない。
正義を執行するため身体は鍛えている。空手、柔道、剣道を習い、高校ではラグビー部に所属している。
「はあぁあああぁ」
扉から下がって、全身に力を込める。
「うおりゃあああっ」
弾丸タックル。勢いよく肩から扉に衝突する。
ヒーローには必殺技が必要だ。
身長185センチ。体重120キロの俺の巨体に扉は軽々と吹っ飛んで......
「バカなっ」
吹っ飛んだのは俺のほうだった。
扉はビクともしない。
なんだ。まるで別の見えない壁に弾かれたようだった。
「だ、大丈夫ですかっ」
倒れ込んだ俺に車椅子を動かしてカオリが近づいて来る。
「大丈夫だ」
すぐに立ち上がる。肉体のダメージはない。
それよりも精神の方にダメージがある。
思ったよりも事態は深刻だ。
誘拐犯か何かなら、正義の力で解決しようとしていた。
だが、これは、この状況は......
「あ、あの机の上にわたしの名前が書いたプレートがあって、その中にこれがあったんですけど」
カオリの手に黒い携帯電話が握られている。
「電話は? 外に繋がらないのか?」
「ダメみたいです。変な表示が映るだけで」
携帯の画面を見ると、
『初期装備を選んでください』
という表示がされている。
ぞわっ、と背筋に冷たいものが走る。
教室を見渡して机の上を確認する。
カオリと書かれたプレート。
花が置いてある席が二つ。
リリンと書かれたプレート。
そして......。あった。
ビデオと書かれたプレートが黒板の目の前、一番前のど真ん中に置かれていた。
机の中を探すとカオリと同じような携帯電話が中に入っていた。
画面にも同じ文字。
『初期装備を選んでください』
そう書かれている。
この文章を知っている。
小学生の時、いじめられていたクラスメイト。
名前は思い出せない。
だが、そのクラスメイトはいつもノートに何かを書いていた。
「何を書いてるんだ?」
俺が聞いた時、そいつはノートを書きながら、振り向きもせず答えた。
「デスゲームの設定集」
ノートの中を思わず覗いてしまう。
『初期装備を選んでください』
その文字が目に入ったのを何故か今も覚えている。
「あの、ここは一体......」
カオリが青ざめた顔をしている。
俺の雰囲気から何かを察したのだろうか。
「大丈夫」
不安そうなカオリになんとかそう言う。
異様な世界に来たことがわかる。
だが、変わらない。
ここでも俺は正義を貫くだけだ。
携帯をタップして初期装備を選ぶ。
ロッカーから無機質な音が響き、武器が送られてきた。




