① サイドF ルカ その3
やってしまった。
ドロドロのぐちゃぐちゃにやってしまった。
横で裸のアリスとハジメが抱き合って寝息を立てている。
ハジメの顔はアリスの胸に挟まれて見えない。
アリスが優しくその頭を抱きしめている。
少し前ならハジメを殺していただろう。
だが、今はそんな二人を見て笑みが溢れている。
ハジメの身体と密着したあたりから、頭に映像が流れ込み、何が何だか分からなくなった。
三人でめちゃくちゃに絡み合い、何処と何処が繋がっているかもわからなくなった。
ハジメにまたがりながら、アリスともキスしていた。
自分の身体が浮いているような錯覚を何度も何度も感じていた。
昨日の夜、ポイントで取った布団を見る。
三人の体液と破瓜の血で見るも無残な姿になっている。
まさか、一日で駄目にしてしまうとは。
そして、初めてが3人プレイになるとは。
「まあ、いいか」
不思議と後悔はない。
アリスもハジメも見ていると心の底が暖かくなる。
それが愛と呼べるものなのか。恋愛に未熟なボクにはわからない。
だが、大切なものが一つから二つになるのは、そう悪いものではなかった。
二人を起こさないように静かに着替える。
「いっ」
声をあげそうになるのを無理矢理食い止める。
下着を着たときに、股に衝撃が走った。
やり過ぎた。まだ中にハジメの物がはいっていると錯覚してしまう。
二人は起きていない。
「うーん、アイ」
アリスの乳を揉みながらハジメが違う女の名前を呼ぶ。
踏み殺したい衝動を抑える。
大丈夫。こっちは二人がかりだ。いずれ逆転してやる。
部屋にある時計を見る。午前五時。
約束の時間だ。
そっと扉を開けて教室に入る。
「あら、ピッタリね」
オカマスナイパーのクリスが待っていた。
教室の中心の席。ラスの机の上に座っている。
迷彩服に長いライフル銃。顔に迷彩ペイント。
戦闘スタイルのクリスはふざけている時と雰囲気が違う。
「どうやら、ハジメちゃんの方につくようね」
クリスがため息をつきながら言う。
好感度を観れるクリスには隠しようがない。
バカンス中、アリスがカムイを探っていた時、ボクはクリスに接触していた。
アリスを死なせない為。
カムイやラスのパーティーに入れてもらうようにクリスと交渉していた。
「賢い選択じゃないわ」
「知っている。でも理屈じゃない」
クリスが長い金色のキセルを取り出し、口にくわえる。
パチンと指を鳴らすと火がついて煙が立ち昇る。
「死ぬわよ。大切なものはいくつも同時に持てないわ。一つですら零してしまうのに」
クリスも何かを無くしたのだろうか。
わかっている。下手をすればすべてを無くすだろう。
アリス。ハジメ。そして、ボクの命。
「それでもボクは行くよ。たとえすべてを失っても信じた方に着いて行く」
「若いわね。少し羨ましいわ」
コン、とキセルを机で叩く。
それが何かの合図だったのだろう。
扉の開く音。
強烈な殺気が教室に流れ込む。
背後に立つ存在。間違いなくA組リーダーのラスだろう。
振り向きたいが振り向けない。
振り向く前にボクの首が先に飛ぶだろう。
「こういう状況は考えてなかった?」
悲しさを含んだクリスの声。
「圧倒的な戦力差だったからな」
「獅子はか弱い兎相手でも油断しないわ」
終わる。だが、ただでは終わらない。
この状況も想定していた。
アリスがリザードマンロードの玉をポイントで三つの玉と変換していた。
隠密玉。変身玉。爆裂玉。
隠密玉と変身玉はアリスが使ったが爆裂玉はボクが貰っていた。
10メートル四方に大爆発を起こすスキル玉。
その玉を左手に隠し持っている。
ボクの首が飛ぶと同時に二人を巻き込んで自爆できる。
ボクの命で二人を倒せればハジメとアリスの生存確率はかなり上がる。
「一応、最後に聞くわ。こちら側に来ない?」
首筋がチリチリとひりつく。
死の恐怖。
だが、二つの大切な物は零さない。
ゆっくりと首を振る。
その首に殺気の塊が飛んできた。
その一秒はまるで何十時間にも感じられた。
首は繋がっている。
爆裂玉もまだ左手に握られている。
ラスの巨大化した剣はギリギリの所で止められていた。
剣とボクの間に男が立っている。
カムイだ。今まで姿を消してここにいたのか。
全身機械のその姿が変形している。
防御体型だろうか。剣を受け止めている右腕のパーツが巨大な盾のように広がっていた。
「カムイっ、何故っ」
「黙れ」
ラスの叫びにカムイは機械のマスクを通した低い声で答える。ラスが怒られた子供のようにビクッと身体を震わせる。
「お前の策略か、クリス」
「違うわ。ワタシは止めたわよ」
お手上げのポーズで天を仰ぐクリス。
「カムイっ、オレはお前の事をっ」
ガツンとカムイの拳がラスの頭に落ちる。
「ふぁ」
ラスが涙を目にいっぱい貯め。
「ふぁァあああアぁアアア」
大号泣した。
「すまんな、言い聞かせておく」
カムイがラスを脇に抱えて連れて行く。
「あ〜〜、うわぁ〜〜、あぁ〜〜」
泣きながら連れ去られるラス。
再び、クリスと二人きりになる。
「助かったわね。お互いに」
クリスが右手でピストルの形を作り、撃ち抜くポーズをする。
その先には爆裂玉が握ってあるボクの左手があった。
「知っていたのか?」
「自爆は定番だからね。爆発したらワタシが盾になっていたわ」
ボクと同じようにクリスにも譲れないものがある。
それはカムイか、ラスか、或いは両方か。
「愛する者の為に死ねるって幸せよね」
クリスがウインクして机から降りる。
ゆっくり歩き、横を通り過ぎる際にぼそりと呟く。
「次はない。覚悟しとけよ」
久し振りに聞く男言葉のクリスの声。
お互いに譲れないものがあるから争いは無くならない。
四月九日、最後の戦争は教室で開戦した。




