③ 恋愛相関図
頬を何かが舐めている。
荒い息遣いを感じ、目を覚ます。
デカイ犬が横にいて驚いて目を覚ます。
ハイド。ルカのペットの犬がそこにいた。
ボルゾイ特有の細長い顔でこちらを見ている。
その後ろにはルカが立っている。
競泳水着の上から白いシャツを着ていて少しエロい。
「なんでゲロ吐いて寝てるの? 酔っ払い?」
「いや、ちょっと、カムイと喧嘩した」
答えて椅子に座る。
まだ腹はズキズキと痛む。
ポイントを使って回復はしない。
戒めとしてこの痛みは残しておく。
「少し、話したいのだが、いいかな」
ルカがそう言って隣の席に座ってくる。
なんだ。不機嫌なのか。顔が強張っている。
「アリスの顔に泣いた後があった。お前、何かしてないだろうな」
正確にはなにもしていない。
なにもしていないのだが、例えようのない後ろめたさがある。
「な、なにもしていない」
どもってしまった。
ルカのほうを見れない。
舐め回すような視線を感じる。
「グルルルル」
足元でハイドが唸っている。
ヤバイ、超怖い。
「特訓イベントの時、言ったよね。君が何を探っていても構わない」
ルカの顔が正面に来る。
笑みがある。だが、笑っていない。
「でもボクの邪魔をしたら潰っ、うっ、わぁ」
いきなり、ルカが視界から消える。
いつのまにかやって来たアリスがルカの首をホールドして、そのまま引きずっていた。
「ちょ、アリス。何っ、離してっ」
「離さんっ、何を話しているっ。余計な事をするな」
ジタバタと絡み合う二人。
ハイドが大人しく見守っている。
「アリスがアイツにエロい事でもされたんじゃないかと心配してるんだよっ、部屋に戻ってきてから変だから」
「え、エロい事などされていないっ」
教室の床で揉みくちゃになっている。
白いドレスを着ているアリスの服がめくれ、色々見てはいけない部位が見えてしまう。そうか、下も白なのか。
「だったらなんで顔赤いのっ、そんな表情のアリス見たことないよっ、何があったか事細かく教えてっ、黒板に400文字以内で文章にして解説してっ」
「できるかっ! バカっ!」
何をやっているんだろう。
関わらないほうがいい。
無視して黒板を見ていると声をかけられる。
「いきなりモテモテね、ハジメちゃん」
存在には気がついていたが、あえて無視していた男が話しかけてきた。
オカマスナイパーのクリス。
なぜかスケスケのピンクのネグリジェを着ている。
つっこまない。俺はつっこまない。
「本当に何をしたのか気になるわぁ。朴念仁で男にまるで興味なかったアリスちゃんが乙女になってるじゃない」
「何もしていないし、何も見えない、聞こえない」
完全無視を決め込もうとしていたが、クリスは話すのをやめてくれない。
「けどアリスちゃんが惚れるのもわかるわぁ、少し見ない間に変わったわ、ハジメちゃん。幼さの残るハジメちゃんも可愛かったけど今の渋くなったハジメちゃん、たまらなくそそるわぁ」
くねくねと動くクリス。
たまらなく暗殺したい。
「でもまだダメよ。まだまだワタシの心はカムイちゃんのものなの。カムイちゃんが♡四つで、ハジメちゃんが♡三つね」
なんだ、その単位。
クリスはノートを取り出してメモしている。
ポイントで交換したのだろう。自分が書いているノートと同じ大学ノート。
その表紙に恋愛相関図と書かれている。
「やだ、見ちゃダメよ、ハジメちゃん」
見たくない。さっきからガン無視しているだろう。
お願いだから消えてくれ。
「ルカっ、いい加減離れろっ。怒るぞっ」
「やだっ、説明するまで離さないっ」
後方ではまだルカとアリスが揉めている。
「ちなみにルカからアリスへの好感度は♡四つ。アリスからハジメちゃんへの好感度は♡五つよ」
「なんだ、その適当な単位」
思わず答えてしまう。
「適当じゃないわよ。ワタシのスキル、ラブ観察は正確に誰が誰をどれだけ好きか感知できるのよ。ちなみに♡五つだと何をされても許されるレベルよ。ハジメちゃん、あの巨乳揉み放題よ、コングラッチュレーション」
本当にそんなスキルを取っているのか?
クリスなら取りそうで怖い。
「なんだよっ、アリスっ、アイツに何をされてもいいのかっ」
「ち、違うっ、クリスの嘘だっ、わ、私がそんな、ハジメに、バカ、バカなっ、バカ、バカ、バカっ」
クリスの言葉にさらに揉める二人。
「でもアレね。ハジメちゃんには心に決めた人がいるのね。♡六つ。最高レベルね。その人のためだけに生きていくレベルよ」
クリスのこのスキル。本物のようだ。
「ああっ、アリス、泣いてるのかっ、ごめん、締め付けすぎたかっ、しっかりしてくれ」
ショックを受けたアリスがうなだれている。悪くない。俺はまったく悪くない。
「まったく、罪な男ね、ハジメちゃんは。ワタシも一途な人ばっかり好きになるから困るわぁ」
気になるワードがでる。
カムイにもいるのか。俺がアイを愛しているように自分の命を捨ててでも守りたい人物が。
その考えは悪だった。
カムイが愛する者を人質にすれば、勝つ確率が遥かに上がる。
だが、そんな卑怯なことをしてアイは喜ぶだろうか。
何故か、笑顔でゴーサインを出すアイのイメージが浮ぶ。
ごめん、アイ。
心の中で誤りながらクリスに聞く。
カムイを倒すためにはなりふり構っていられない。
「カムイ、アイツにも好きな奴がいるのか?」
「ええ、このクラスにいるわよ。意外ね。ハジメちゃんも恋バナに興味あるのね」
カムイの弱点しか興味ないが黙ってうなづく。
「もうすぐ九時ね。朝食の時間だからクラスのみんなが出てくるわね。わかったわ、自己紹介ついでに教えてあげる」
黒板の前に立ちチョークを持つクリス。
「このクラスの恋愛相関図をっ」
恐るべき恋愛講座が始まった。




