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デスゲームに巻き込まれたようだけどこのゲーム作ったの俺でした  作者: 恋魂
四月十日 最後ミッション 無限回廊
102/111

⑪ 決着

 

 右手の存在だけを極限まで世界から消していた。

 その手に握られた爆裂玉ごとだ。

 以前、カムイのマスクを外した時の応用。

 ミスディレクション。

 一点集中でそこだけの存在を消すことでカムイの視覚を欺く。


 爆裂玉。

 10メートル四方に大爆発を起こすスキル玉が、カムイの顔面で爆発した。


 カムイの首から上が吹き飛んでいる。

 普通ならここで決着がつく。

 だがカムイはやはり普通ではなかった。


 狂気殺戮(バーサクモード)

 再びカムイの鎧が変形する。


 赤と青のチューブが頭の無くなった首から溢れでる。

 それがぐちゃぐちゃに混ざり合い頭の形になる。

 ジーク戦で見せた腕の再生。

 まさか、それが頭でも出来たとは。


「ヴルィゥヴヴヴヴヴヴッ」


 赤と青の頭の形をしただけの何かが雄叫びをあげる。


「は、ははっ」


 思わず笑ってしまう。

 どうやって倒せばいいのか。


 機械の髑髏マスクも再生され、全てが元どうりになるカムイ。

 一歩ずつ、踏みしめるように倒れている俺の方に歩いてくる。

 後はもうトドメを刺されるだけなのか。

 残っている手は一つもない。


「ヴッッヴルィゥっ」


 そのカムイが突然跪く。

 機械鎧から青い煙が噴出し、狂気殺戮モードが解除される。

 自ら解除した時と明らかに違う。

 オーバーヒートしたのか?

 地面に手をついたまま動かない。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 カムイが老人だったことを思い出す。

 無敵ではないのだ。

 諦めなければ、まだ、勝機は残っているのか。


「う、あ、ああぁあ」


 二本の剣を杖がわりにして、立ち上がる。

 力が入らない。

 身体の何処がおかしいかもわからない。

 もう、何もできないかもしれない。

 それでも足掻く。

 最後まで足掻き続ける。


 初めてカムイを見下ろす形になる。

 今、カムイの首を落とせば今度こそ勝てるのだろうか?


「本当に、本当に憎たらしい程に主人公なんだな」


 カムイが地面に手をついたまま話す。


「圧倒的実力差も跳ね返す。だが主人公が勝てるとは限らない」


 カムイが立ち上がる。

 手に銀の柄を握っている。

 そこから青いビーム状の光が放出される。

 以前見た時より、薄く、今にも消えそうだ。


「バッドエンドでも素晴らしい作品は多くある」


 カムイの力は尽きかけている。

 苦しそうな声。

 だが、何故だろう。カムイはこの状況を楽しんでいる気がした。


「悪いな」


 剣を抜く。

 一本は捨てる。

 二本を持てるほど余裕はなかった。


「俺はハッピーエンドが好きなんだ」


 そして、俺もこの状況が嫌いでなかった。

 カムイのように完璧なハッピーエンドは目指さない。

 ただ、もう一度会いに行く。


「最後だな」


「ああ、最後だな」


 対峙する。


 映像が頭に流れる。

 この世の終わりのような場所で何度もカムイと対峙している。


 百戦以上の戦いの記憶が、まるで超速早送りのように流れていく。

 身体を真っ二つにされる。

 胴体を切り裂かれる。

 バラバラに分解される。

 首を飛ばさせる。


 すべて敗北の記憶。

 相手はすべてカムイだった。


 これまでと同じでは負けるだろう。

 今までと違うことをしなければならない。


 ピシッと何かにヒビが入る音がする。


 絶対領域が崩れるのか。


「ハジメっ!」


 カムイが叫ぶと同時に機械鎧から白い煙が噴出する。

 それがあっという間に辺りを覆い、一切の視界を遮断する。

 最後の仕掛けか。

 全てが白く包まれる。


 背中に装備した盾を取り外す。

 何故、そうしたのか。

 無意識の中、アイがそっと俺を動かした気がした。


 取り外した盾を左腕に持ち、頭の上に持っていく。

 そこにカムイのサーベルが降ってくる。

 まるで見えていなかった。

 アイが守ってくれたのか。

 弾けるような音がして、盾が砕け散る。

 ぼんっ、と豪快に砕けた盾にはじかれ、カムイがバランスを崩す。

 だが、カムイはすぐに態勢を整え、サーベルに力を込める。

 命の炎のような青い光がサーベルを輝かせる。


 アイ。きっとまた会いにいく。


 砕け散った盾の破片がまるでスローモーションのようにゆっくりと降りかかる。

 アイの書いた相合傘の落書きが目に入る。


 最後の最後。

 全ての力を右手に込めた。


 カムイのサーベルが自分の首に迫っていた。

 避ける力は残していない。

 ただ全力でカムイに向かって剣を振り下ろす。


「頑張ったね、ハジメ」


 アイの声が聞こえた気がした。





 ガラガラと見えない何かが崩れていく。

 白い煙に包まれてハジメとカムイの戦いは見えなくなった。


「ハジメっ」


 見えない壁はもうそこにない。

 決着はついたのか。

 ハジメもカムイも満身創痍だった。


 草原を掻き分けて、ハジメを探す。

 見当たらない。


 どちらかが、いやどちらも倒れているのか。


「ハジっっっ」


 叫ぼうとして息を飲む。

 白い煙の中に人影が見えた。


 ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 息が詰まりそうになる。

 鼓動が早くなる。


 首を持っている。

 ハジメの首か。カムイの首か。

 煙に覆われ、シルエットがわからない。

 だが、駆け寄ることも出来ない。


 煙が少しずつ晴れていき、人影も近づいてくる。


 親父が死んだ時を思い出していた。

 あまりにも突然の死に頭がついていかなかった。

 その時と似たような感覚。

 呆然とそこに立ちすくむ。


 全身機械の姿を確認する。

 草原を一歩ずつ歩いている。

 右手にはハジメの首が握られていた。


 ゲームが終わる。

 ボク達は敗北した。






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