夜鳥の力
時間は戻る。
3人は外に出ていた。
時間帯的な為にか参拝客はおらず、この時間帯を見計らって改めて調査と結界の確認を行っていた。
現れだした問題の量は少ない方だろう。しかしその内容が不規則過ぎて何処から解決していいのか、が分かりにくい状況だ。
無論、夜鳥を倒すのが第一なのだが、その裏で黒い狩衣の謎の悪鬼などが動き出さないという可能性もないわけではない。
一真がため息を付こうとした時だった。
ビクリとその体が反応する。
最初は間違えかと思ったがそれは違う。
「これは!!!」
一真の危険信号が一気に赤に染まる。
突然の出来事に自身も驚きを隠せない。
「ヤバイ!!!!」
「ど、どうしたの?」
突然あわてだす一真を見て何事かと香澄は感じている
「来てる!!」
「来てるとは・・・・・まさか!!」
「ええ!!!夜鳥がここに近づいています!!!」
その一言を聞いた瞬間全員の緊張度が一気に跳ね上がった。
一真もまさか、敵陣直接乗り込んでくるとは思わなかった。何かしらの小細工を仕掛けてくるのだと思っていた。
しかも、一真が幾重にも張り巡らせた探知の神術が無反応だ。
気づけたのは夜鳥がごり押しで結界を破りに来てからだ。
「とりあえず!!栄吉さん」
「分かっとる!!」
一真が指示を出す前に栄吉は動き始めていた。
「香澄も栄吉さんと一緒に境内の結界の奥にいろ!!!」
「う、うん」
素早く指示を出すと一真は入り口まで走り出す。
粉塵が立ち込める場所は入口の鳥居のある場所だ。
一真の目がより一層鋭くなる。
「ふん!!」
腹に力を込めそれを声にしてあらわす。すると一真を包み込むように炎がまとわりつ。轟々と燃える中で一真は右手を顔の前まで持ってくると一気に炎を振り払う。
そこに現れた姿は先程のラフな姿ではなく、大きくアレンジが入った衣褌の姿だ。
次元をずらす結界はすでに、夜鳥が防御結界を攻撃した時にすでに自動展開している。
煙の中に一つの影が浮かんでくる。ゆっくりと大きくなる影。
するとその粉塵を吸い込むように風の流れが変わる。
ボッ!!
という鈍い音とともに噴出されたのは風の刃だ。
一直線に一真を襲ってくる。しかし一真はその鋭い眼光に全く揺らぎを見せることなく、ごみでも払うかのようにその風の刃を上空に吹き飛ばしたのだ。
雲がはじけ飛んだ。
大きさはとても小さい。小指の幅以下だ。しかしそれは遠近感があるからであり実際は人の何千倍もの大きさの穴が開いているのだ。
それほどの威力。それを難なく跳ね返す一真も恐ろしいが、躊躇なく打ち込んできたその人物も異常としか言いようがない。
もし、結界をはっていない状況なら、あの雲はキレイに両断されていたことだろう。前の戦いで夜鳥が放った暴風が空を覆う雲を消滅させた様に。
これがこの結界の効果だ。
次元を今の位地からずらし、神の戦いで起きる被害レベルを抑える役割。そして結界を解いたときには何もなかったように元通りになる。
しかし実際には世界が神に合わせて、ある一定空間を現世から切り離し、レベルアップしただけのこと。
この空間ですら、あり得ない現象を叩き起こす。
この攻撃すら序の口以下のあいさつ程度。
神や悪鬼が結界外で戦えば、天災が現世を覆い尽くすだろう。
先の一撃で粉塵は消え去った。そこに現れたのは黒い着物を身にまとい乱れきった銀髪を腰まで伸ばした一人の男。夜鳥だ。
「挨拶がてらにしては少し派手だったか?加具土命よ・・・」
「てめぇ・・・・・ふざけてんじゃねーぞ・・・・」
タイミングが悪いことに一真の後ろには移動をしていた栄吉と香澄がいる。
もし、もしも結界が出来ていなかったら三人を巻き込み、空に存在する風の刃よりも恐ろしい一撃がこの周囲を巻き込んでいただろう。
さらに一真の両手に炎が何かを包むかのように生まれている。それが消えた後に現れたのは一振りの刀と剣だ。
「フッ・・・・」
空気が張り詰める。
ピシリとどこかで何かがはじける音がする。
ピシリピシリピシリと立て続けにその音はなる。そしてついに、バキリという乾いた大きな音が鳴る。
土の塊だ。神社の地面の乾いた土がヒビを作りついに割れたのだ。
一真が右手の刀に力を込める。するとまるでマグマのよう炎が巻き付く。
まるで竜のようにうごめく炎が一真の2つの刃にやどる。
「ほう・・・・・・・」
感心するような態度をとりながらも夜鳥の表情は笑いを崩さない。
ゆっくりと、右手に黒い霧のようなものが集まる。そこに現れたのは一振りの剣だ。しかし一向に構えをとろうともしない。
ダン!!
そんなことなどお構いなし一真は切りかかる。一真にとっては夜鳥を倒し、今回の事件の全貌を理解しなければならない。
ボウ!!と刀の刃が炎で形成される。その長さは一真の刀の四倍くらいだ。
ここで一つ確認。
日本神道には多くの神がいる。その一人一人には象徴すべき力がある。
加具土たる一真は炎をつかさどる神だ。
雷、風、そして炎は神の自然的な力の中でも最も攻撃的な面を持つ。
誰にも追いつけない速度で全てを断ち切る雷
何処までも広がり全てを破壊する風
止まることなく全てを燃やし尽くす炎
その力の象徴にして火の初原神、加具土、一真の攻撃力は天津神、国津神の中でもトップクラスだ。
それにも関わらずだ。
一真の一太刀を難なく回避する。
そのことに一真も驚きを隠せずにいる。
さっきも言ったが、雷、風、炎はその力は巨大だ。つまり神の反対に位置する悪鬼にもそれは該当するわけで、夜鳥の力は風だ。
その攻撃力ももちろん高いし、一真だって前の戦いで実感している。
それでも、だ。
一真の攻撃は前の戦いで当たっていたのだ。にも関わらずその一撃を余裕の表情で回避したのだ。
「加具土よ。本気で来い・・・」
「!!」
ゾワリ、と夜鳥の体から何かがあらわている。どす黒い、纏わりつくかなのような重い霧。それは悪鬼の怨念。
一瞬だが、一真は恐怖を感じる。そこに見えるのは限りを知らない怨念にも見える。
「今度はこちらからだ・・・・」
ドロリと
まるで液体絵の具のように夜鳥の姿が消える。
「!!」
気づけば夜鳥はすでに自身の目の前にきている。
完璧に反応が遅れている。
心に生まれた隙を夜鳥は見逃さない。
間に合わない!!
完全に隙をを突かれた今、刀で防ぐことも回避も不可能だった。
振り下ろされる一太刀に対して、一真は覚悟を決める。
「・・・・!?」
それを見て夜鳥の顔色も少しだがこわばる。
一真の全身から紅蓮の炎が噴き出した。
ドガン!!!
それは爆発音だ。
モクモクと二人を隠すように爆発の煙が覆う。
その爆発を起こした本人である一真はいち早く煙の中から飛び出し、神社の屋根に音もなく着地する。
「・・・・・」
無言だ。息も切らしていない。しかしその体に無数の出血が見れる。
「自爆覚悟・・・か。そうとう余裕がなかったようだな・・・本来なら先程の技も自身の体に神力を流し、自身の技に対するダメージをゼロにしたうえでもっと強大爆発で襲うのなのだろう?」
世鳥は自らの風の力で煙を一瞬にして吹き飛ばす。
所々で柱や木々が切れている。
もし一真が、すぐさま離れなかったら今の傷では済まなかっただろう。
「ちっ・・・」
表れた夜鳥の姿に一真は舌打ちをする。
確実に当てたにもかかわらず、世鳥のダメージは少ない。
(こりゃ・・・・・・一体・・・)
何度も言うが一真の使う力は炎だ。よってその力で爆発だって起せてしまう。
もちろん自身の炎でダメージを負うことなどない。同族系の神や悪鬼の攻撃でも大したダメージにはならないだろう。しかしそれはあくまで炎であって爆発の際に発生するもう一つのエネルギーは一真も対象のうちになる。
衝撃だ。爆発の際に起こる衝撃。
例え小さな衝撃でも神の起こす、エネルギーの力は人間世界で発生するエネルギーとでは格が違うといってもいい。
まとめてしまえば、人間と神の差の分だけ、引き起こされるエネルギーの格は比例して上がる。
今回は出来なかったが、一真は自身が巻き込まれないようにする必要もあるわけだった。
しかし夜鳥は一真の爆発の炎プラス衝撃のダメージがなければならないのにそのダメージ量は一目瞭然。明らかに一真のほうが高いのだ。
それが一真にとっては腑に落ちない。前の戦いでは確実にダメージとして表れていたものがたった1日で全く効かなくなっているのだ。
(単純に奴の力が上がった・・・・て言うには納得できるが、何故こんなに一気にレベルアップをしてんだよ)
「貴様はそのことを知る必要はない」
夜鳥が右手をこちらに向けている。
「!!?」
心を読まれた。それほどまでに自分が思っている以上の焦りが顔に現れているのか。しかしそんなことを思考した瞬間にすぐさま右手に意識は切り替わる。
「な!??」
その手からあふれ出てきたのは夜鳥の風の力だ。
竜のようにうねりながら迫りくる、竜巻。それを自身の炎の壁で防ごうとするがガリガリとまるで削り取るように食い込んでくる。
一瞬にして一真の足を屋根からはなし、肉を抉り取るかのように一真を巻き込み、神社の本殿を破壊してく。
バキバキバキ!!!
という木々の折れる音が連続してなり続ける。
「あ・・・ぐ・・・!!」
辛うじて、竜のごとき竜巻を一真はそらすことには成功した。しかしあくまで辛うじてだ。ほぼもろに食らったといっても過言ではない。左手の刀は風にさらわれ、どこかに行ってしまい、倒れそうな体を剣一本で支えている。
周りを見ると、なんという有様か・・・・・
本殿はその原型をとどめておらず、柱一本すらまともに立っていない。結界が貼ってある本殿をいとも簡単に破るだけではなくその柱も一つ残らず粉々にして吹き飛ばしたのだ。
(なんださっきの!?奴の邪気なんて全く手になんか集まっていなかったのに)
「倒せているとは思っていない。しかし俺に戦いを挑むのは・・・・・もう無理だなぁ・・・・・」
数メートル先にいる夜鳥。
見下したような態度で、余裕の表情で勝利宣言をする。
そんな夜鳥に対して一真は満身創痍の体を無理やりにでも動かそうとするが、その一歩がまるで、像を引っ張るかのように重い。
「そもそも、ただでさえ、お前はここ周辺の場所に何十か所も俺を見つけ出すための網を張り巡らせている。それに加え出雲の各場所の封印の式の準備やこの神社の結界、さらに体調が万全でないのは神力の流れからでもわかる」
問題点を上げる教師のような口調で夜鳥は語る。
「いくら攻撃力の高い炎の神、その中でも炎の始まりの神といっても、そんな状態のお前が俺に勝とうとするのは無理があるんだよ。」
一真の状態に反応してか、炎で作った結界も解け始める。
ものの5秒で、完全に一真の結界は強制的に解除されてしまった。
しーんとした空気に変わった気がする。
耳栓をはずしたかのように空間の雰囲気が変わる。
「結界は解けたな・・・・ということは次元の隔たりもなくなったということだ。」
「一真!!」
結界の外にいた二人は突然現れた二人に驚きを感じる。いや明確にはその戦局にだ。
だれだって仲間がやられるということは想像しないだろう。至極まっとうな考えからくる驚きだ。
「一君!!」
香澄が一直線に一真に近づいてきた。
「来るな!!!」
しかしその一括で香澄の動きはぴたりと止まる。
「で、でも」
「いいから・・・・来るんじゃない・・・!!」
「家具土の言うとおりだぞ小娘。今は気分がいい。見逃してやらんこともないがお前らが動けばここにいるもの全員残らず殺すぞ?」
ニヤリと笑う笑みに香澄の顔が青ざめる。一瞬にして顔から汗が流れだしてくる。足もプルプルと震えている。
そんな様子を見た夜鳥は、鼻で笑うとすぐさ興味をほかに移す。
「さて仕上げだ。」
そうつぶやくと、夜鳥は社務所のほうにてを向ける。
次の瞬間、神社を襲ったものと同じような風が社務所を襲ったのだ。
綺麗に社務所だけを粉々に砕いた。
一真の背中に嫌なものが走る。
「響!!」
そうだ。社務所には響と羽島京子がいる。羽島京子なら持ちこたえるかもしれない。しかし響はただの人だ。あんなのを食らえば即死は免れない。
「そう、あわてるな」
にやりと笑みを浮かべ、左手を一振りし、社務所に舞い上がった土煙を一蹴する。するとそこには響が宙にフワフワと浮いているではないか。
ゆっくりと響の体は夜鳥に近づく。
「クソ!!」
なんとか、体を動かおうとするが一真の体は前に行こうとはしない。
「動け!!この野郎!!」
そんな姿を見て夜鳥はため息を付き憐れむようにしていう。
「貴様もだ加具土。貴様が少しでも動いて、反撃してこようものなら全員を殺すぞ。」
「・・・・クソ!!」
そんな中でも響の体は止まることなくゆっくりと夜鳥に近づく。
誰もがあきらめかけた時だった。
不意に響の動きがとまったのだ。
それに驚いているのは一真や栄吉香澄だけではない。夜鳥さえも不思議に思っている。
「あれは・・・手?」
香澄の一言に全員の視線が響の右足に集まる。
そこには一つの手が響の動きを止めていた。真っ白で陶器のような手だ。
「あれって京子さんの・・・」
香澄がそう口を開いたときだ。崩れ去った社務所のがれきの中で羽島京子は頭から血を流しながらも響の足を掴み夜鳥の方へ行くのを止めていたのだ。
「ダメです・・・・もう絶対・・・・・傷つけさせるわけには行かない!!私は守れなかった!!だけど今度こそ!!今度こそ絶対!!」
羽島京子の手になお力がこもる。
それを見た夜鳥はまるでゴキブリでも見るかのような目だった。
「離せ、ゴミ」
「嫌です!!」
冷酷に告げるその一言。しかしその一言に全くひるむ様子はない。
それを聞いた夜鳥はゴキリと左手の関節を鳴らすと
「離せ」
「嫌です!!私は絶対に話しません!!その為には私は・・!!」
その言葉を言い終わる前に世夜鳥の左手から生まれた細い竜巻、いうなれば竜巻の槍は彼女の肩を貫き、強引にその手を離させたのだ。
夜鳥の左手はまだ羽島京子のほうを見ている。
「死んでいろ」
その言い切ると、夜鳥の左手からいくつもの竜巻が連続で作り出され彼女に向かう。
その旅に彼女の体は宙に舞い地面にたたきつけられる。
誰もが呆然とするしかない。その光景は目を離すことすら許さなかった。
すでにその手は響から離れており、止まることなく響は進んでいる。
それでもなお彼女は、
「絶対に・・・」
夜鳥の眉がつり上がった。
その左手にさらに巨大な力が生み出される。
もはや無言
いうだけ無駄と判断したのか、夜鳥は今までで一番大きな竜巻を彼女に向けて撃つ。的確に彼女だけを狙って、
「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
香澄がそう叫ぶが夜鳥が止まることなどない。放たれた一撃は何の奇跡も起こることもなく彼女を消滅させるには十分すぎるほどの力が炸裂した。
その風はもともとあった神社の結界すら破り進んでいく。
幸運にも結界によってその起動がそれ、周りには全く被害はなかった。
しかし・・・・
「京子さん・・・・」
香澄の手がぶらりと力をなくす。
「ゴミはゴミらしくしていればいいものを・・・」
そう吐き捨てた時にはすでに響の体は夜鳥の前。
「さぁいよいよだ・・・・」
夜鳥は響の胸倉をつかむとグイと持ち上げる。
「貴様の血・・・・貰うぞ・・・」
グチュリと何とも不愉快な音とともに、響の心臓を夜鳥の腕が貫く。
「な・・・・・ぁ・・・・」
さっきから音が聞こえない気がする。
羽島京子が世鳥に攻撃を受けてからずっとだ。
一真の耳には何も届いていなかった。夜鳥は響の心臓を貫き高笑いをしている。そして、何かを言っているようだが今の一真にその言葉を聞き取ることはできなかった。
ただ、わかること。
響の血は奪われたということ。
さらにそれだけでなく神塚響本人も死んでしまったということだ。




