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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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98/128

15-3

 鼠川が闘技場の観客席エリアに入ると中にはそれなりに人がいた。

 魔女見習いの学生や教師に加え、おそらく今日の戦いを聞いてやってきたであろう魔女たち。その中には先ほど鼠川が見た集団も紛れ込んでいた。


(おお、ウォーロックの戦いっていうだけあっていつものことながら人来るなあ……でも魔女同士の戦いを見たことないからこれが多いのか少ないのかわからないけどね)


「あ、こっちですよー!!」


 大声でこちらに声を掛ける者がいた。

 流山椿である。


「ごめーん遅くなったー」


 鼠川が走って駆け寄る。

 流山の他にも蛇島に鴉田、外崎に燦央院もいた。その中で燦央院が申し訳なさそうに口を開く。


「ひょっとして道に迷いました?」


「え?ああうん。でも間に合ったならいいかな」


「そうですか。実は先ほどまで私たち、相原さんとお話しておりましたの」


「そうだったの?彼女は大丈夫だった?」


「ええ。やる気満々でしたわね」


 やる気満々。

 その言葉を信じていいかわからなかった。


「今のシオンちゃんなら勝ち目はありますよ」


 しかし流山がそんなことを言ったので信じることにした。


(どうなっちゃうんだろう。凄惨な結末はない……よね?)


 波乱を、最悪を予想する鼠川の脳裏はどうにも落ち着かなかった。

 かくてその時は来る。


「おや?来たようだね」


 蛇島が西側の入り口を指さす。

 するとそこから陸島が姿を現した。その手に刀を握りしめて。


「うう……本当に大丈夫ですかね?シオンちゃん」


「信じるしかないよ。あの子の言葉」


 落ち着かない様子の流山に外崎は半ばあきらめの意を込めて言葉を並べる。


「最悪の場合ですが――」


 燦央院が立ち上がる。そしてその集まった者たちに説明した。


「さっきの待機所の方に吉川を向かわせています。それでもダメな場合、彼が何らかのトラブルになりかねない行動を起こしたのなら吉川と私で止めに入りますから」


「うむ。それでいいと思う。僕も微力ながら手伝うさ」


「アタシも手伝う」


「俺もだ」


「トーゼン私も行きますからね!」


 燦央院の意見に蛇島が、外崎が、鴉田が、そして流山が賛同した。


(え?皆行くの?僕も何か、ええっと治療とかは覚えているし後は――)


「鼠川君は此処にいて頂戴。修行して治療が出来ると聞いてますが、回復する人がやられると面倒ですからね」


 燦央院が鼠川の方を向いてそう伝える。

 流山も首を縦に振って彼女の意見に賛同した。


「あ、うん。でもそうならないといいけど」


「そーならなそうですから皆が止めに入ろうって言ってるんです……見てくださいあのインケンの表情。どう見てもブチコロテンションじゃないですか」


「ぶ……ぶちころ?」


「言葉が汚いですわ流山さん」


 止めに入る燦央院。

 そして相原もまた入場する。震える足も、目を背けることも一切せずに陸島から少し離れた正面に立つ。


「で、覚悟は決まったのか?」


  試合開始前にもかかわらず、陸島は刀を抜刀してそのぎらつく刃を相原に向けた。


「うん」


 その一言……というよりは首を縦に振っただけで、相原は黒い杖を取り出した。その表情は真剣な目で陸島を見る。


「そうか。じゃあ終いにしようか。あれやこれやさ!」


 審判が二人の合間に立つ。

 両者を見て、準備が出来ているのを見ると数秒の後にその言葉を発した。


「それでは始め!」


 陸島鉄明対相原紫苑。


 決闘の幕は開く。だが――


「えい!!」


 相原が杖を振るったその瞬間、強い揺れが辺りを襲った。


(これは……!)


 揺れの正体が相原の魔術であるというのはすぐに理解できた。

 だがその揺れは強く、陸島のバランスを崩すには十分で彼は開始早々膝を折った。


「うそぉ!?」


 無論その強い揺れは観客席にも届き、鼠川一行も思わず焦りを見せた。


「ひい!シオンちゃん怒らせたとき怖かったの忘れてた!!」


「そういうレベルかねこれは!?明らかに度を越えているぞ!?」


 相原の一番の親友が怯え震える。

 口から出たその言葉に蛇島は思わず突っ込みを入れる。


「ちいっ!面倒な真似を!!」


「まだよ!!」


 しゃがんで姿勢でありながらも睨む陸島対して、さらに彼女は杖を振るおうとする。


「させるか!」


 十手も、魔力を振るうための媒介もなしに陸島は魔術を行使して相原の周囲に蔦を巡らせる。

 杖を持っていた右腕に絡みつき、彼女の行動を抑えた。


「ぐ……う!」


 術を発動しようとするも杖を動かせずにいる相原。

 そこに陸島が姿勢を戻し、抜身の刀で彼女を襲わんとする。


「じゃあな」


 まっすぐに進み、勢いよく刀を振り下ろさんとしたその時、持っていた刀に違和感が走る。


(あ?)


 蔦だ。

 大地から伸びあがる蔦が絡んで刀の刃に絡みついて振り下ろされる刃を抑えた。


「こいつ……刃に!」


 両手でそれを振り払おうとどうにかしようとするも絡む蔦は刀を放そうとしない。

 まずかったのは、正面にいる相原よりもそれを気にしたこと。


「今度こそ……!」


 いつの間にかほどけていた相原に絡んでいた蔦。

 杖を振るい、陸島に更なる攻撃を仕掛ける。次に彼女が呼び出したのは大地の牙と言える土をとげのように呼び出す攻撃魔法。それが陸島の足元近くで発動される。


「くそっ!面倒くせえな!!大地の魔術!」


 回避行動を取らざるを得なかった。

 刀はツタに絡んだままで地面に落ちることなく宙に浮く。


「どうするの?降参する?」


 相原がじっと陸島を見て降参を問う。

 『この勝負、負けろ』という風に聞こえたのか、陸島は激昂した。


「ざけんじゃねえ。続行だ!!」


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