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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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97/123

15-2

「あれ?そういえば鼠川君は?」


 相原のその言葉に皆が周囲を見渡す。

 その時に蛇島が口を開く。


「ああそういえば手洗いに向かうと言っていたな。もしかしたら観客席の方に向かったのかもしれん。普段通りなら僕らはそっちに座ってる。こっちの控室に行こうなんて考えなかったもんだ」


「ツバキちゃん、今日一緒じゃなかったの?」


「修行の日じゃないので……これ謝った方が良いんですかね?」


 首をかしげる流山。

 そこで何かに気づく相原。


「皆がここにいるってことは陸島君は今、一人なの?」


「そうじゃないんですか?まあアイツの応援なんぞする物好きがどこにいるかは知りませんがね」


「もう。後で私が見に行ってくるね」


「待った。今日の決闘はアンタと陸島でしょ?」


 それまで静かだった外崎がツッコミを入れた。

 というかツッコミを入れるレベルだった。


「……あ、忘れてた」


――どうしよう、凄い不安


 一同は不安の波に包まれる。

 果たしてこの決闘、いかなる結末を迎えるのか。






 一方、時は少しだけさかのぼる。

 陸島は今日の決闘の舞台であるその場所に向かうと入り口から西側のゲートに向かって進んでいく。

 西側の待機所となるその場所に係りの者に挨拶をしてから入る。中には人の気配はなく、ただ一人の空間がそこで出来上がる。


(さて、刀は……と)


 布製の竹刀ケースの中に入れていた刀を取り出して鞘から抜刀する。

 砥成に見てもらい、調整をしてもらったその刃は室内の蛍光灯に照らされて輝いていた。


(いい輝きだ。前にあの人は違和感があると言っていたが……精霊が関係してるのか?)


 輝きの中に疑問を覚える陸島であったが、それをしまい込むように彼は刀を鞘に納める。


(もう少しで時間だ。終わったらどうするか。図書館で本探しも悪くない)


 決闘後の後の予定について考える。

 陸島は今日の決闘を無事に終える気分でいた。


「あ、もうこっちにいた」


 ドアが開いて、声がした。

 姿を見せたのはトパーズ・グラスの現リーダー、布塚と今は男子寮の管理人をしている三田川。


「二人ともどうしたんです?」


 陸島は目を細めて二人を見る。


「ああ、心配でね。この馬鹿に受けたダメージ実は残ってないかってさ」


「三田川さん、それはもう大丈夫ですって――」


「ケガさせたお前が言えた義理か?少し黙ってろ」


「……はい」


 三田川の威圧に縮こまる布塚に陸島は溜息を吐く。


「邪魔をしに来たんじゃないんですよね?」


 その言葉に反応したのは三田川。


「まさか。今日の決闘を見に来たのよ。何せパートナーの子と戦うんでしょ?いいの?」


「構いません。勝ってパートナーの件、切るつもりです」


 手に持った刀をぎゅっと握る。


「そう。じゃあ一つだけお節介。何かあったら介入するから。布塚が」


「え?私!?」


 寝耳に水が入ったような顔をして驚く布塚をよそに陸島は三田川の方を見る。

 その目に怒りを込めながら。


「それは自分が負けるからと?」


「そこまで言ってないわ。ただ貴方が鴉田君と決闘を終えてからあの子、結構勉強とかしたみたいよ?油断はできないわ」


「なるほど。秘策ありと?」


「多分ね。それと――」


 三田川は真剣な目で陸島を見る。


「もしあなたが勝ったのなら……審判が止めに入ったらそれに従いなさい。絶対に」


「ええ。構いませんよ。それまでは戦いますから」


「間違っても殺さないでよ?いくら疎ましかったからってそういうのはダメ。もしそうするなら――」


 黒く、鈍く輝く細い杖が陸島に突き付けられる。


「私が『全力』であなたを止める。いいわね?」


「いいですよ」


 陸島は笑って三田川の指示を了承した。

 その流れを見て布塚は『ええ……』と声を漏らす。


「あの、私からも一ついい?もしなにかヤバイことになったら私と三田川さんで止めに入るからね?」


「なんですそれ?まあいいですよ」


「お前は余計なことしそうだからいい。それより治療魔術の準備しときなさい」


「……はい」


 布塚、立つ瀬なし。

 そして時はその瞬間を運ぶのであった。







「うへー男子トイレ何でこんな遠いところにしかないの……」


 一方、遅れてやってきた鼠川は手洗いから戻る途中。

 東側の入り口から西側にある男子トイレまで歩き、そして戻る途中。

 距離にしてそこそこあったので、決闘開始の時刻が迫ってきたので慌てていた。


「こっちからだよね。皆待ってる……わけないか。今日の戦いの主役はあの二人だもんね」


 慌てる理由が少しずつ溶けていく感じがして、心のざわめきも静かになっていった。

 そんな時である。鼠川は入り口の方に視線を奪われた。


「あれは……」


 四人の黒スーツの女性、そしてその中心にはポニーテールで纏めたベージュのスーツを着た若い女性の姿。


(誰だろう?前に来た布塚さんのいたクランの人達かな?)


 不思議に思っているとその集団の一人がこちらに視線を向ける。

 そしてそれに呼応するように残りの者たちも鼠川に視線を向けた。


(え?何?なんなの!?)


 心臓の鼓動が否応なしに高鳴る。

 ベージュのスーツの女性が、こちらに近づいて話しかけてきた。


「ちょっと聞きたいんだけど。貴方が陸島?」


「え?いや違います。多分彼なら西側の方にいるかと」


「そう、ありがとう。そっち行くよ」


 彼女の声に従ってその集団は西の方へ進んでいった。


(……なんだったんだろう?陸島君の知り合いかな?)


 鼠川はその場でしばらく考え込んだ。

 そして時計に視線をやる。


「やば!もう始まるじゃん!」


 大慌てで観客席のある方へ向かう。

 まもなく決闘開始の号令は下る。


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