14-5
その日の夜。女子寮。
相原と流山の部屋。
「シオンちゃーん?私に隠していることありますよね?」
相原が部屋に入るや否や、流山が目を細くしてじっと彼女を見つめる。ついでに頬を膨らませながら。
「え、ええっとツバキちゃん?」
「さあ、洗いざらい言うんです!でないと……」
じっくりと相原ににじり寄り、彼女の腰に手を当てる。
「こうです!こちょこちょ……」
「アハハ!やめ、やめてツバキちゃあはは!!」
笑う相原の止めてほしいという声を少し無視したのち、流山は彼女から離れる。
「さあ、今度こそ言うんです。でないと今度は凄いのいきますよ?」
「す、すごいの……?」
凄いのについては正直予想がつかなかった。
相原は先ほどの流山の細い目つきから自分がやろうとしていることについてどこかからか知っているのだと気づき、流山に目を向ける。その目にはどこか憂いがあった。
「どこで知ったの?」
「三田川さんです。今日鼠川君と修行を終えて男子寮の近くを通った時に三田川さんに出会った時です!どうして決闘なんて申し込んだんですか!?」
「それは……」
ぷるぷると震える流山に相原はこう答える。
「陸島君を止めるためよ」
「止めるって何でですか?」
「……いなくなりそうだから」
俯いたまま、相原は話を続ける。
「彼はもう高いところにいる。だけどこのままだといけない。そう思ったの。私も三田川さんに聞いたの。陸島君、本当は以前の本土の任務で活躍してたって。それで私も修行を少し多めにやって、決闘の準備をすることにしたの」
「決闘で止められますか?」
流山のその言葉はいつもの明るいトーンではなく、重く暗いものがあった。
「止める。絶対に」
「……秘策はあるんですか?」
「秘策……になるかはわからないけど、魔術はあるわ。大地の魔術ならなおの事」
「百歩譲って勝ったとしても、陸島のヤツがシオンちゃんのいう事を聞いてくれるとは思えませんよ?ごねそうですよ?」
「やめるから」
「え?」
「パートナー。負けたらやめるって決めたの。もうだめなら放っておくしかない。嫌だけど……でももうこれ以外の方法がないの。いなくなるのは嫌。でもじっとしてそれが出来るわけじゃないの。自分から何かしないといけないの!」
胸の内を語る相原の目は涙が浮かぶ。
感情の高ぶりで彼女は声を震わせ、ぽたぽたと雫を落としていた。
「いやなの……お父さんもお母さんもいなくなったあの日。つらくて。幼くて弱かった私には何も出来なかった。だから今度はそうならないようにしたいの」
「……そこまで言うのなら止めようがないですね」
流山は近くにあった折りたたまれたタオルの一枚を相原の頬に当てて涙をぬぐった。ありがとうと言って彼女はタオルを受け取り、涙を自分で拭いだす。
「次の週末でしたっけ?勝たないといなくなるというより自分から死にますよ?あのインケン」
「……うん。負けないから」
「その意気ですよ」
相原の頭を撫でて、流山はほほ笑む。
かくして夜は更け、時は流れる。
「……あれ?ここは?」
周囲を見る。景色が違っている事に気づく。
見慣れた山道。前に進めば家のある場所。後ろは街の方角。
「俺はなんでここに?」
その道にいつの間にか突っ立っていたのは陸島。
「ああ、坊ちゃん。こっちです!」
手を振って声を掛ける者がいる。
黒のスーツにオールバックの男性。
「牙谷……?」
牙谷。彼は陸島にとってかけがえのない存在。さらにその両隣には若い坊主頭の男性と長い髪を一本にまとめたポニーテールの女性がそこにいた。
「坊ちゃん、こっちっすよ!」
「さ、車に乗って帰りましょ」
二番目に声を掛けてきたのは男性の爪島。最後に声を掛けたのは羽田。
「お前らどうしてここに?」
「どうしてって、ずっと待ってたんすよ?俺たちずっとね」
困惑する陸島の手を引っ張って、爪島は彼を車に乗せる。
「さ、親父さんと隼人坊ちゃんが待ってますから!」
車のエンジンが掛かって、山道を駆け抜けだす。
(ああ、懐かしいな。この雰囲気)
幼きの思い出。
運転席には爪島、助手席には羽田。並ぶ後部座席には陸島と牙谷。
(そうだ。こうやっていつもどこかに連れてってもらってた。海に、山に、大都会。冒険があったんだ。学校の帰りにも迎えに来てくれた。雨の日も雪の日も。俺が掃除で帰りが遅い時でも――)
運転席の向こうから見る風景は血に染まっていた。
「な――」
その時、何かが陸島を吹き飛ばした。
車の外に叩き出される彼は受け身を取ろうとするも体は動かず、地面に衝撃を受ける。
「うぐ……」
あの日の惨劇がまた繰り返される。
最初に射抜かれたのは爪島。遠くからの攻撃で地面に崩れ落ちて血の海を作った。そして叫ぶ彼女を落ち着かせて周囲を警戒する牙谷。震える自分。いつもの笑顔ではない真剣なその目が、光景が幼い自分にも異常だとわかる。
「羽田!後ろだ!」
次に狙われたのは羽田だった。細い小さな針のようなものが彼女の足を射抜き、声を漏らして地面に崩れるとそれは姿を現す。
「あ……ああ」
一瞬の攻撃に足を崩して見上げた先にいたのは、仮面を付けた何者かの姿。
黒色を基調とし、その仮面には無数のひし形が規則正しく並んでいた。さらに全身を漆黒のローブで覆い、羽田をじっと見降ろしている。
「動け羽田――」
牙谷の指示むなしく、仮面の者は刃を振るった。
広がる血しぶきにより、辺りの地面が紅く染まりだす。
「あ、ああ……」
すべては繰り返される。
現実でなくとも夢で。彼の前で。




