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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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93/102

14-4

(凄い……どんどん成長してる)


 黙々と修行に打ち込む彼の姿を見て相原は複雑な感情を浮かべる。

 混じる感情は片方に感心。片方に悲しみがあった。


――え?修行ですか?こっちは鼠川君と一緒ですよ。四六時中じゃないですけどね。彼の成長はちょっと遅いくらいかなと。でもひたむきに頑張る姿勢は見てて嬉しいです!


(ツバキちゃんはそう言ってたな。陸島君は一人でやりたがる。やっぱりそれって……誰も巻き込みたくないから?それとも――)


――邪魔。一人でやるからいい


 いつしか修行を一緒にやろうと陸島を誘った時に言われた言葉。

 誰も巻き込みたくないという優しい考えでそう言ったのか?という相原の考えを打ち砕くには十分だった。


(確かに今の陸島君は強い。でも……)


 言いようのない不安が相原に降りかかる。

 このままだと消えてしまう。そんな不安が。


「……なんださっきから」


 いつの間にか陸島が相原の前にいた。


「え?ああえっと……」


 心配そうに見ている者が目の前にいる。

 何か言いたいことがあった。でもそれを口にできなった。沈黙が流れる。


「邪魔したいのか?」


 声に怒りが含んでいる。

 威圧に対して彼女は一歩後ろに下がる。


「こらこら。そんな目くじらを立てるほどじゃないだろ?」


 間に割って入るのは萩野。

 顔は笑っていたが、合間に入る際の足に力がやや籠っていた。


「あ、萩野さん。えっと私……」


「今は下がろう。邪魔しちゃ悪いよ」


 彼女の肩に手を当てて、萩野はその場を去っていく。

 陸島は溜息を吐いて、その場を離れる。


「随分冷たいのね。彼女に――」


 離れた先で陸島が声の方がした方を向く。

 そこにいたのは黒のロングストレートをまっすぐに伸ばした一人の少女。名を鎖野芳子。


「ああ、邪魔されたくなくてな」


「あら。パートナーなのに?」


「……そもそもそのパートナーってなんなんだ?」


「そうねえ。私が聞いた限りだと――」


 鎖野は少し思い出すために間を置いてから話を始めた。


「元々パートナー制度ってのは厳密にはないわ。魔女同士が連携して一つの目標や目的に向かって進むための手法が制度として捉えられているだけ。他には高校から来た見習いの魔女が出来る魔女と手を組んで一緒に勉強するための手法という捉えられ方もあるわね」


「なるほど。風習だのそういうのが近いか」


「ええ。だからもし貴方が解消するといっても解消のための手続きなんてないわね。だけどパートナー相手にずっと冷たくしていればそれは解消される」


「じゃあそれでいい。それで解消だ」


「でもこの三か月近く、あの子は貴方の元を離れようとしていない。何故かしらね?」


 鎖野の目はじっと陸島を捉える。

 口元は優しく微笑んでいるように見える。


「知らん」


「私もね。でも一つ気になることがあるの。四月の逆奈義さんの件、あなた関わっているのではなくて?」


「……ほお。腐った趣味してる割には鋭いな」


「まあその通りね。その時の事で相原さん、貴方に何か負い目を感じているんじゃないのかしら?」


「負い目……?」


 四月の事件について陸島は思い返す。

 修行の場所にと出向いた先で相原が逆奈義家の連中に追われていたこと。そこに自分が通りかかって、偶然にも魔術が覚醒。そのまま相手を負傷させて追い出したこと。自分が気を失ったという事。


「……そういうことか」


「何か気付きを得られたのなら幸いだわ。それじゃあそろそろ終わりだし、先生の所に戻りましょ」


「ああ」


 鎖野とともに陸島は先生の所へ向かった。授業が終わったその日の放課後。校門近くにて。


「聞きたいことがあるんだが」


 校門の前にいた陸島は、通りかかる相原を待っていた。

 そして一人でいた彼女に声をかける。


「四月の件、覚えているか?」


「え……え?」


「あれだ。あの日の夜にクソガキが――」


「ま、まって。えと……ここでその話はだめ。だからえっと違う場所で……」


 混乱する彼女に首を傾けながらも陸島と相原は別の場所に移る。

 二人は図書館入り口近くに設置されたカフェにいた。図書館で借りた本を読むスペースとして設けられた場所であり、静かな図書館内とは違って本を読みつつ言葉にして感想を言いやすい場所でもある。

 クーラーの効いた室内には陸島たち以外にも数人の生徒や客が利用していた。


「それでお話って?」


 席についた相原の表情はどこか浮ついていた。

 それに苛立ったのか、陸島は拳を握る。


「あ……」


 そこで相原は自覚する。

 陸島が話したいことは自分の想像していた事とは違うことに。一気に表情が曇り、態度も縮こまる。


「話の内容は四月の件だ。あの日の夜についてだ」


「あ、うん。覚えてる。何が聞きたいの?」


「あの日の事でお前は俺に負い目を感じている。違うか?」


「……うん」


 しばしの沈黙の後、相原は首を縦に振って質問に答えた。


「ならそれはない。あの日に関しては俺がやったことだ」


「それは……どういう意味なの?」


「言葉のまんまだ。お前が何かを背負う意味にはならない」


 陸島の責任を感じなくていいというその言葉を聞いた時、相原は表情を明るくした。

 初めて彼が優しくしてくれた。そんな気がした。


「だからパートナーとやらは二度とやらなくて結構だ」


 が、直後に突き落とされる。

 結局いつもの陸島鉄明がそこにいた。


「ああそうだ。決闘の件は――」


「絶対に嫌」


「何がだ」


 嫌そうな顔を浮かべる陸島に相原は怒りに震えながらも答える。


「パートナー解消の件もあの日の事への責任を捨てることも。どっちも!」


「そうか。じゃあ今度の決闘はやるんだな?」


「やる。それで……勝って見せる。貴方に」


「やってみろ。俺を力でねじ伏せられるもんならな」


 席を最初に立ったのは陸島だった。

 歩くその足に力を込めて彼はその場を去った。


(大丈夫。絶対に貴方を一人にしない。させたらきっと大変なことになる……それだけは絶対に嫌なの)


 椅子に座ったまま両手をぎゅっと握って相原はしばらくそのままでいた。

 決闘の時は刻一刻と近づいていた。


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