13.5-10
「ど、どうしてそう思うの?」
「いやあのアホウ……鴉田が言ってたんです。何か尋常じゃないものの気配を感じたと。それで文献をあさってたのですが、古代魔術文化論って本があって。それにこう書いてあったんです」
――かつて世界には鉄の魔術があった。それは魔女にも扱える時代があった。
だが時の歩みによって鉄の魔術は憎悪と叫び混ざる血に染まり、やがてその血によって呪われてしまった。それ以降、鉄の魔術を振るうことができるとされるのはその呪いに耐えられる者である。これは二種類いるとされていて、一つ目には鉄の精霊に憑かれた者。その者であれば憎悪や嘆きの中でも精霊の加護によって魔術を振るうことが可能であるとされる。もう一つはウォーロック。魔術師の中でも異端とされる存在であるが、一説によれば鉄の魔術による呪いに影響を受けないとされる。これはその特異性によるものであるが、いまだ研究資料の少ない説のため更なる調査が必要である
「確かこう書いてありました」
「よく覚えてたねツバキちゃん……」
すらすらと出てきた本の内容を口にする流山に相原は感心する。
「どや。んで仮にそうだとしたらやはり先生方や機関上層部は動いていると思うんですが……そうはなっていない……これは一体?」
「多分だけど……そんなに実害がないとか?」
「ええ?すでに一人えらい目にあっているというのに?」
「うん。逆奈義さんが大けがを負ったあの後、騒ぎの中で校長先生が来て彼を病院に運んだ。それからはずっと監視も何もなかった。多分あの時に何かされたんじゃないかって」
「ああ、封印ってことですか?なるほど。それなら大丈夫そうですね」
うんうんと頷く流山。
顔は納得していた。
「ところで他の三人はどうです?鼠川君たちとかは?」
「そういえば特に何も変なうわさは聞いてない。だから陸島君だけ何かあるのかも」
「過去の件と言いきっと隠された何かがあるはずです。竹月組の関係者でその組の中心の家の養子。これ絶対怪しいですよ」
「そう……だね」
――本来死んでたんだよ!!
叫ぶ彼の表情を思い返す。
自分には絶対に届かないその領域での惨劇。その結末が彼にどれだけの影響を与えたのか。
(五年前……何があったの?私はどうすれば彼を救えるの……?)
思い返す相原は無力感に苛まれていた。
パートナーとして隣にいる自分のふがいなさに。その時、机の隅に飾っていた写真に目をやる。
(お父さんやお母さんなら……どうしてたのかな?)
写真には幼き相原とその父、母がみんな笑って桜の木の下で映り込んでいた。
今は亡き二人に問うても、その答えは帰ってくることはない。無力感の波にただ苦しむばかり。
(……うん。だからこれしかないよね?)
魔術書の中の文字の海に目を移す。
その中にある術を一つ、また一つと理解を深めた先で相原は一つのプランを決行しようとしていた。
「さて皆さん、準備はよいですか?」
鴉田がドローンを飛ばした日より数日後。森の入り口にて。
炎天下の空の下で、四人のウォーロックが汗を流して並んで立っていた。
その正面で校長先生が笑みを浮かべていた。
「大丈夫です……ホントそろそろ始めてください」
「はい……あの、一体何で僕たちまで?」
「確かに。僕らは関係ないと思うのですが?」
鴉田、鼠川、鴉田はぎらぎらと輝く太陽の暑さの中で既に汗をぼたぼたと流していた。
その日、玉之江島の温度は優に三十七度を超えていた。
「ごめんなさいね。こういうのは多い人数でやるべきだと思ってますから」
不敵に笑う校長に三人は炎天下の中で寒気を覚え、ぞっとした。
(あれ?これもしかして僕ら共犯者扱い?)
鴉田のやらかしが飛び火したのではと鼠川は推測する。
(ちくしょー。まさかここまでやるかふつー。ていうかあっつーい)
熱さにふらつきかける鴉田。
一方で蛇島は毅然として立っていた。
「お前凄いな……蛇島」
「炎の魔術使いがこんな熱でやられてたまるか」
「お、おお。無理のない理屈ではあるな」
しかして蛇島も暑さにダメージを受けていたのは事実。
汗をぬぐって校長の方を向く。
「ところで校長先生。何故陸島までいるのですか?」
「ああ、私が読んだのですよ。いい修行があると」
「いい修行……ですか?」
「ええ」
校長は陸島の方を見る。
他の三人と同様で汗を流しているがとにかく静かにじっとして校長の方を見ていた。
「それで?この炎天下でじっとしていることが修行とでも言うのですか?」
「そんな地味な内容でよければそうしますよ?」
「待って!死ぬ!!流石に死ぬから!!」
鼠川は激しく突っ込んだ。
昨今の日本の夏はヤバイのだ!
「じゃあ何なんですか一体!?」
声を荒げる陸島。
彼もどうやらこの暑さの中でじっとするのは嫌らしい。
「はい。内容は単純です。鴉田君が持ってきてくれたドローン六機とこちらで追加した機体。これを落としてもらいます」
「は?それだけか?」
「ええ。陸島君は木々から弓を生成できましたよね?陸島君はそれを使ってください。弓は静音性に長けているので使いどころはあるでしょう。他の三人は魔術を飛ばして落としてごらんなさい。ああ、もちろん陸島君も弓以外の方法で落としたかったらそれで構いませんよ?」
「実戦演習のつもりか……いいぜ。やってやるよ」
陸島はにやりと笑った。
「そうそう。一番多く落とせたら、おいしいモンブランを御馳走しましょう。ひらさきの店長が作る必殺の衝撃絶品料理ですので」
「なんて?」
鼠川はその呼び方に首をひねる。
必殺の衝撃絶品料理。果たしていかなる味のモンブランなのか。
考えこむ前に校長のスマートフォンが音を鳴らす。
「それじゃあ準備もできたようですので、森に入って始めてくださいね」
合図とともに、森の上空にて複数のドローンが飛び交う。
「ああ、俺のドローン達が……」
「自業自得だろ馬鹿もん」
「なんでもいいから行こう。陸島君、走って森の中に入っていったよ」
「なにい!?アイツ甘党か!?べたな設定だなおい!」
「やかましい!とっとと行くぞ!」
三人は先行する陸島の後を追って森に入る。
それからはドローンを追いかけて魔術を振るっての訓練が続き、そして陸島が最後のドローンを落とす。
結局この日は陸島が三機落とし、そして勝者となった。
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