13.5-9
「説明を要求しましょうか?」
石像のようにじっと佇む校長の前で三人の男子が正座して固まっていた。
「な、なんで僕たちまで……?」
「今はじっとしてろ。このままだとやばいぞ」
「だな。校長先生、静かに怒ってる」
「いやお前のせいだよ!」
何故か冷静な鴉田に怒りを隠せずいた蛇島。
鼠川は終始震えていた。
「さて、これをどういった用途で使おうとしたのか説明を」
ギアが一段階上がる。
怒りのギアが。それが蛇島にはわかった。
「実はオートマチックドライブシステムの研究をしておりまして」
だがこの怒りに毅然と、冷静に立ち向かう男の姿があった。
鴉田春一。この騒動の中心である。
「オートマ……なんて?」
いきなりの横文字の羅列に対応できてなかったのか校長は思わず聞き返す。
先ほどまでの怒りはどこへやら、困惑の表情を見せていた。
「自動運転システムってご存じです?JavaとかC言語で組み立てられているプログラムですよ。今は車とかにインストールされている国もありまして、ドローンでも似たようなことが可能なんです。将来的には被災地に向けて複数の機体を動かすことで食料や薬品、小型の医療機材と言ったものを輸送することも可能で――」
「ああいいです。結構です」
淡々と説明を広げる鴉田の姿勢に校長が折れる。
しかもその表情はついて行けないと困惑していた。
(うそぉ!?効いてる?!)
その光景に蛇島は驚愕した。
鼠川も同じだった。
「なるほど。つまり貴方はドローンにプログラムを設定して特定の位置まで運ぶ技術を開発しようとしていたと?」
「はい。前回の決闘の際に武器や道具などをドローンに括り付けて送れないか検討したのです。重くない杖や結晶体なら運べますし、なんならドローンそのものになにか兵器を付けても――」
「ああいいですいいです。そこまで熱心に解説しなくて結構です」
校長の態度はさらに引き気味になった。
(凄いな鴉田君。あのカンカンに怒っていた校長先生の怒りを沈めたどころか逆に困惑まで追い込んじゃったよ……。前回の魔術道具売りのおばあさんの件と言い、こういう駆け引きが上手いのかな?)
鼠川は鴉田の機転の良さに内心感心していた。
「で、結論から言いますと夜間に飛ばすのはよくないですね」
困惑から今度は真剣な目で校長は三人を見る。
「流石に昼には目立つとは思います。しかし夜もちょっと騒ぎになりかねないので。今度そういう場所を設けましょう」
「え?いいんですか?」
「構いません。魔術だけでなく技術もいずれは必要になるでしょう。いずれはですが。それはそれとして――」
校長は机の上に置かれたひびの入ったドローンを見る。
「このドローン。まだありますよね?」
残念なことに校長の怒りは完全には消えていなかった。
すぐに怒りの相を浮かべる。ただし、その顔は笑っていた。
「え?!ああえっとありますけど……いくつ必要です?」
「全部です。貴方がこの島に持ち込んだのは確か十台。三台は以前の決闘で使用して……ここに一台あるから後六つありますよね?」
「……はい」
嘘は付けなかった。
というより嘘をついても得にならず、従った方がよいと判断しただけなのだが。
「ではドローン六機を明後日までに持ってきてください。そしたらそれでトレーニングをやりましょう」
「トレーニング?」
「ええ。鴉田君の持ってきたドローンを見て思ったのですが、これはいい練習材料になりそうです」
含みのある笑いを鴉田に向ける校長。
――お前が本当は何を企んでいたのか知っているぞ
そんなふうに語っている顔にも見え、鴉田はこの日どころか人生で一番恐怖した。
「さっきの何だったんだろ?」
「へ?何がです?」
夜が深くなった頃。パジャマに着替えた相原と流山の二人は自室でゆったりとした時間を過ごしていた。
「ほら、外のお風呂入っていた時に見えた光のような何か。UFOかも?」
「えー?宇宙人なんているわけないじゃないですか?SFやオカルトじゃないんですから~」
「でも私たち魔女だよ?オカルトといえばオカルトじゃない?」
「あ……確かに」
思わぬ気付きを得て固まる流山。
一方で机の上で魔術書を広げる相原。
「今日もお勉強ですか?」
「うん。夜はまだ、流石に出歩くわけにはいかないから。もっと実力を付けないと」
「ですねー。でも程ほどにしてくださいね。寝不足はお肌の敵ですよ」
相原の頬をそっと両手で包むように触れる流山。
「ん……もう。ツバキちゃんもほどほどにしないとね」
「お互い様ですね。ところで何の本読んでるんです?」
「大地の魔術の本だよ。陸島君に追いつくどころか超えないといけないから」
それまで朗らかな世界に刺しこむように声のトーンを抑える相原。
流山は彼女を見て疑問に思うことがった。
「あの……どうしても聞きたいんですけど、何故あのインケンにこだわるんです?萩野さんにでもパートナー交代って訳にはいかないんですか?」
「えっと……そうだね。そろそろ説明した方がいいよね?」
「え?いいんですか?何かあったとはいえ……本当に?」
驚く流山に意を決して相原は説明した。
四月の出来事を。彼と初めて会ったスーパーの帰り道。その数日後に逆奈義家に追われる自分。負傷した萩野。連れてかれた先に現れた陸島。暴走する彼が振るった凶刃とその結末。そのすべてを語った。
「さ、逆奈義未来の腕を切り落としたぁ!?」
「こ、声が大きいよツバキちゃん」
「ああごめんなさい。内緒でしたね」
「うん」
相原は顔を伏せた。
あの日の事件以来、逆奈義家は特段何かを仕掛けてきたことはない。だがいつかは自分に対し、もしくは陸島に対してなんらかの行動を起こすのではないと思うと心臓の鼓動が止まない時があるのだ。
「まさかあのインケンがシオンちゃんを窮地から救っていたとは……結果論とはいえども……というか私その日どうしてましたっけ?」
「ツバキちゃんはあの日、先に部屋に戻ってお母さんか誰かと連絡してなかった?」
「ああそうでした。クリーニングに出していた服、実家に置いたままでいつ取りに行くかで……あーもうやらかした!」
「しょうがないよ。相手の方が一枚上手だったんだから」
「でもあのインケン、そんなに強かったんですか?いくら強いとはいえ逆奈義家の取り巻きがいる中でそんな芸当できるはずが……」
当時について問う流山に相原は困惑した。
あの日の陸島についてどう説明していいのかわからなかったのだ。
「……ひょっとしてアイツ、鉄の精霊に憑かれてません?」
「え?」
的の中心を射るような回答に思わず相原は声が出てしまう。




