13.5-8
ガチャリと部屋のドアが開く。
「あ、シオンちゃんお帰りなさい」
流山が疲れている相原に声を掛けた。
女子寮にある相原紫苑と流山椿の共用部屋。
相原はその日、肩を落として部屋に入った。外はすでに夕日が落ちて夜を迎えている。
「シオンちゃん?大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。 もう少ししたら夕飯だから食べに行こ?」
「勿論です!ところであのインケンに何か言われませんでしたか?」
「え?ああうん、平気だよ」
苦笑いを浮かべる相原の表情に対し、メガネの奥から見つめてくる流山の瞳はその内を射抜こうとする。
「シオンちゃん。ひょっとしてお父さんの事で何か聞き出そうとしてました?」
「え?どうして?」
「最近、木下さんと父の謎について電話でやりとりしてたの知ってますよ?というか聞こえちゃいましたし」
「謎……か」
相原の父は十年前に亡くなったと母から聞かされていた。
死因は任務の最中の戦闘。それによって命を落としたのだという。
「どうしてお父さんの死を追っているのですか?復讐ですか?」
「お父さんについてわからないことがあるの」
「わからない……というと?」
「ええっと……亡くなったのは書類からして確かなの。でもお母さんが生きていた時にこう言っていたの」
――お父さんは遠いところに行ってしまったわ。でもね。いつか帰って来るって信じてるの。おかしいわよね。もういないのに
「これ……言葉の意味を考えたら、お父さん実は生きているんじゃないかって思うの」
「え?亡くなったって報告があったのにですか?」
「ええっとそうじゃなくて……お父さんが十年前の任務で命を落としたっていうのは書類で確認したの。でも……遺体が見つかってなくて、もしかしたらって。でも今日までいないってことはやっぱりかなって。あと、任務に関しては詳細が載ってなかったの。極秘任務みたいで」
「極秘任務……ですか」
流山は顔をしかめた。
「それ、よく閲覧できましたね」
「校長先生にお話ししたら、わかる範囲で資料作ってくれたの。先生も気になってるって言ってたから」
「校長先生が?そりゃあ一大事の匂いがしますね」
「うん。でも大分昔の事件みたいだからデータとか資料とか一部欠けてるみたいで……もしかしたら組織が忍び込んでデータを消したとかあるんじゃないかって」
相原の説明に流山はさらに顔を深くしかめる。
機関も完全ではない。
「うへー……怪しさマックスじゃないですかそれ。それならうちのお母さんに連絡してそっちからでも――」
「大丈夫。木下さんに連絡してる。そっちから調べてダメだったらツバキちゃんのお母さんに電話してみるから」
「了解です。それで木下さんからは何か?」
「まだ連絡待ち。もう少ししたら何かわかるかもしれないんだけど……」
グーとなるおなかの音。
発生源は流山椿のお腹。
「……ご飯にしようか。今日は確かビーフシチューだって」
「え、エヘヘ。ごめんね」
頬を赤く染める流山の頭を相原はそっと撫でた。
真相究明のためには食事も必要なのだ。
「で、今日はどうだったよ?蛇島さんよ?」
「いや……特段お前に話すことはない」
「ほう。この調子だと全裸さらした件は割と深く刺さったな」
「だから何で知ってるんだ貴様は!?」
「蛇島君。彼はそういう情報網を持っているんだよ……」
男子寮、ラウンジにて。
食事を終えた蛇島、鴉田、鼠川の三人は各々休憩を取っていた。
「前回もそうだがどういう情報網なんだ一体」
「吉川さん経由。実は俺、メッセージアプリでやり取りする中なんだぜ?羨ましいだろ?」
「あの人の……仕業、だったのか」
床に崩れる蛇島。
思わぬ抜け穴にただ愕然とするしかなかった。
「と言うかいつの間にその人と仲良くなったの?」
「連絡先交換しませんかってお話あったもんでな。すぐに俺は交換したぜ!」
(何故こいつに連絡先を教えたんだ……)
裏切られた気持ちであったが吉川の性格を振り返り、なんとなく見えてきた背景に彼は納得せざるを得なかった。
吉川のお転婆なその性格に。
「まさか今日のアレも吉川さんが……?考えすぎか?いやでも――」
「あ、そろそろいいかな?」
考え込む蛇島の横で鴉田はノートパソコンを開く。
「ん?何する気だ?」
「ドローンの遠隔操作。一部自動プログラム組んでてさ、それでここに戻ってくるようにしてんのさ」
「何故神はコイツに高等技術を与えたんだか……」
「この程度じゃ高等技術とは言えないね。本物はもっとすごいぞ。ぽちっとな」
鴉田の合図で三番街北に置かれたドローンが一機、空を飛んだ。
ドローンが見る光景はネット経由で送られて鴉田のパソコン画面に映る。
「おお……これは島の夜景か?」
「ああ、こうしてみると煌びやかっていうか……これでどうやって外界と隔離してるんだろうなって気になるぜ」
「早瀬先生が前に言ってたけど、結界か何か張っているんじゃなかった?それでレーダーとかで確認できないようになっていって」
「魔女のなせる業か」
ドローンはそのまま二番街を抜けようと空を駆ける。
「そういえば女子寮はこの近くだな」
「え?」
「……露天風呂あるらしいぞ?」
「ちょっと待てえェェェェェェ!」
鴉田の横で顔真っ赤にして大声で叫ぶ蛇島。
「なんだ一体?どうしたんだい?」
「白々しいわ!覗く気だろ貴様」
「ハハハ。そんなわけないだろ。ただ近くを通るだけだ」
「ダメだって!流山さん達に殺されるよ!?」
青ざめた表情で鴉田に突っかかる鼠川。
しかし鴉田は気にせず操作を続ける。
「カメラにうっかり映ってもモウマンタイ。なぜなら事故として――」
その時、ドローンの映像が一瞬で切れた。
パソコンの画面は暗闇を映すばかり。
「あれ?どうした?あれー?」
鴉田は何が起こったのかわからず、ただ混乱していた。
「まさか墜落したか?」
「墜落って……むしろ撃ち落されたんじゃ?」
「いやそんなはずはない。魔法とか見えなかったし」
三人が原因を考える中、近くにて何かが落ちるような音を耳にする。
「ん?なんだ?」
鴉田が立ち上がって、ラウンジのカーテンを開く。
するとそこには――
「こんばんは皆さん。これは何ですか?どういうつもりで女子寮の近くを通ろうとしていたのです?」
笑みを浮かべる校長の手にはドローンが掴まれていた。
しかもよく見れば握っている個所にはひびが入っている。
――アア、オワッタ
鼠川はこの日、人生の終わりを悟った。




