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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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84/112

13.5-5

 食事を終え、外に出ると、そこには木下がいた。

 汗をかいていないのを見ると、どうやらたった今着いたらしい。


「あ、鉄明さん。さっき砥成さんに出会いましたよ。親父さんの具合について聞かれましたが……。そうそう。具合なら良くなってるのでもうすぐ退院しますよ」


「そうか」


 近くに止めたあった車の助手席のドアを開く。


「歩いて帰るからいい」


「ダメですよ。この暑さは人のせいじゃないんですから。自然の暑さには逆らわないほうがいいですって。それに五時間目の授業もあるんですから。ささ、乗って乗って」


「……はあ」


 渋々陸島はその車に乗り込む。

 続いて木下も運転席に着く。


「砥成さん乗せてけば良かったんじゃないのか?」


「あの人でしたら自分の車に乗って行きましたよ」


「そうか」


 エンジンのかかった車は、そのまま学校の方へと向かう。

 外は相変わらず夏の暑さでギラギラと眩しく、そしてここ数年で最も暑い日々が続いていた。とはいっても毎年上がる気温のせいで常に熱さは上がり続ける一方である。


「ああ、水分補給はしてくださいね。どのみち必要でしょうから」


「ああ、そうだな」


「そういえば他のウォーロックの人達はどうです?今度、蛇島さんと鴉田さんの二人を案内しようと思ってます」


「……知らん。話してない」


 陸島の脳裏に浮かぶのは眼鏡を掛けた男子とツンとした髪型の男子。

 そのうち、後者の男子についてつい最近決闘にて戦ったのを思い出す。


「もう、鉄明さん。鴉田さんに関しては先日決闘したじゃありませんか。どうでした?」


「あいつか……」


 鴉田春一。

 陸島鉄明と先日決闘を行った風のウォーロック。

 使う魔術もさることながら、特徴的だったのは自身の技術と魔術道具を組み合わせて完成させたレールカノン二式は他人に無関心な陸島の脳裏でも否応なしに残りレベルの代物であった。


「随分面倒なモノ作りやがって……」


「私も後から確認したのですが……あれは電磁投射砲でも言うべきでしょうか?魔術と技術の組み合わせは今に始まったわけじゃないですが、いきなりああいうのを作れるとは驚きですよ」


「実用性があるなら悪くはない。だがあれだけの重量をもって戦いに臨めるか?」


「一人じゃなければ大丈夫でしょう。一発で戦局を変えられえるのであれば尚更です」


 陸島と話している時の木下はどこか楽しそうだった。


「電磁投射砲でもライフルでもなんでもいいが、作れたとしても実用的じゃなきゃ意味ないだろ」


「おや?映像を見たところ、鉄明さん大分苦戦してたようですが?」


「最初だけな。ドローン落としてからはこっちのペース。近接武器もあったようだがなんかあっさり折れたな」


「ああ、確かに。あれは惜しかったですね。……そういえば」


 楽しそうな口調から一転、木下は陸島の方を向く。

 車は交差点にて止まっていた。


「鉄明さん、何か体に不調は?あの時の決闘で何かありませんでしたか?」


「ねえよ」


「本当ですか?あんな風になって変になってないって――」


「大丈夫だって言ってんだろ」


「……何かおかしいと思ったら五番街の病院へ向かってください。魔術には魔術ですから」


「そうだな。青になったぞ」


 信号が青になったのを見て木下は車を進める。

 そして車は学校の校門を抜ける。


「あれは……え!?」


 木下は何かに気付き、素っ頓狂な声を上げる。

 彼の視線の先には昇降口近くであおむけで倒れている鴉田の姿が。


「あれ、もしかして鴉田さん!?」


「なんだ……敵襲か?」


「いえそんなはずは」


 車を近くに止め、慌てて駆け寄る木下。


「あ……どうも」


「だ、大丈夫ですか?」


「ははは……すみません。失敗しました」


「何があったんです!?」


 深刻な顔つきで彼から状況を聞く木下。

 傷ついて倒れる鴉田の口より詳細は語られる。


「ナンパ……むずいっすね」


「え」


 なんということでしょうか。

 負傷の原因はナンパでした。


「な、ナンパってあのナンパですか?」


「ええ。魔女見習いとはいえ、ここまでとは……がく」


「あ、ちょっとしっかりしてください!鉄明さん、保健室に!!」


「……ああ、どうしてこんなめんどくせえのがいるんだ」


 外の暑さもあってか静かに切れた。

 馬鹿さ加減というのは時に人をイラつかせる。

 







「……それでよー。俺がじゃあ他の女子と行くわつって隣のクラスの女子にちょっと声を掛けたんよ。そしたら外崎さんが詰め寄ってきて何やってんだって。で、俺がやきもち焼くなよって笑ったらボッコボコにされたんよ」


「へー大変だったねー」


 生徒たちが帰りだす放課後の教室。

 ボコボコにされて傷跡の残る鴉田のトークを軽やかに聞き流しながら、鼠川は魔術書を読んでいた。目をそこから離さずに鴉田の話を聞いていたのである。


「外崎さんのあの動き軽やかでさー。ひっぱたかれてる合間にも思わずキレイダナーって思ったりして。でもさ、痛いものは痛い。じゃあやり返すか?それはノーだ。だって相手は女子だ。そんな乱暴はだーめ。だから堪える。そして何がいけなかったのかを反省するんだ。これが大事。鼠川はそんなことしないと思っているけど、念のためな」


「そんなに喋って疲れないの?」


「余裕余裕。将来はもっと喋る立場になるかもしんないからな」


「ああ、そうなの?」


 鼠川は鴉田について思い返す。

 大企業、ベルウィンググループの役員の息子であるということを。


(でも役員の息子だからってそんな簡単に高い地位に行くものなのかな?)


「人類の性癖の変化レポートとかを語ったりな!」


「公衆の面前でそんなもの語らなくていいから!」


 思わず目を鴉田に向けた。


「そういや今日も蛇島は修行か。ご苦労なこった」


「鴉田君は何かしないの?」


「考案中」


「そうなんだ。あのレールガン……でいいの?あれはどうなったの?」


「回収されたままだな。あと今後何か作るときは連絡入れてほしいってさ」


「だろうね。凄かったもん」


 褒める鼠川の言葉に強烈などや顔で返す鴉田。

 その顔は『ああ、褒めなきゃよかった』と鼠川に思わせるレベルのものである。


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