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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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83/102

13.5-4

「食事をしながらでよいのですが……時に学校生活はどうですか?」


「学校生活ですか?」


 刀の話の続きかと思ったら予想外の話題を振られ、陸島はしばし固まった。

 しかし砥成がうな重を食べるのを見てもしかしたら食事の合間、うな重を食べ終えるまでは違う話題にしたいのだろうと考え、陸島は砥成の問いに答える。


「特段、不満はありませんよ」


「そうですか。女学生の皆さんは、魔女見習いの方達はどうです?年相応に振舞っていますか?それとも来たる日に備えて訓練に励んでいますか?」


「年相応がどういったものかはわかりませんが……来たる日というのは?」


「組織や悪い連中と戦う時ですよ」


 砥成の顔に曇りが出始める。


「この島に住んでいる魔女達は若いうちに経験を積み、そして本土で悪しき者たちと戦う運命を背負うのが多い。その中で命を落とすことも多いのです。かつて高校生の身で戦いに身を投じた一人の少女がいました。彼女は学年の中では優秀で高校を出たら機関直属の部隊にスカウトされる可能性もありました。国家の魔女となればそれはそれ相応の地位と実力があるとされます。それほどまでに彼女は優秀でした」


「……殺された、と?」


「はい」


 完全にうな重を食べる手が止まった。

 陸島もつられて手を止める。


「刀を見て思い出したのです。彼女も刀を振るっていたと。しかし戦いの中で組織の魔女に、おそらくはドレッサー・ドレッドに殺されたのではと思われるのですが……」


「ドレッサー・ドレッド……!」


 陸島はその名称に聞き覚え、というよりは見覚えがあった。

 以前、燦央院百合香に依頼した資料の中にその名称があったからだ。


「組織の魔女の中でも上位の集団でしたっけ?」


「ええ。ご存じなのですか?」


「少しだけですが」


 砥成は驚いていた。

 何分組織の情報というのはそうそう広まるものではなく、陸島のようなまだ来訪してから一年もたっていないような魔術師が知っていたことは驚きに値するのである。


「ドレッサー・ドレッド。恐怖の化粧師。あるいは血染めの化粧人と呼ばれる連中ですよね?」


「はい。ルージュ・ネガを筆頭に組織の中でも指折りの戦闘集団。個人で動くことが多いですが、その戦力は組織の半分を占めていると言われています」


「その組織の中で仮面を使うものに心当たりは?」


「仮面……ですか?うーん……私自身、表舞台にに出ることはないのわからないのですが聞いたことはないですね」


「ありがとうございます」


 砥成の回答を陸島は心の内で咀嚼する。


(仮面の存在はいない……?ではあの日だけ仮面をつけて襲撃をした?どういうことだ?それに意味があるとしたら顔がばれたらまずい――)


――敵は機関にあり


 冷たい風が吹いたように脳内を駆けたその言葉が陸島をぞっとさせる。


(待て待て。早合点にもほどがある。もしそうなら裏切り者がいるということになる。それはない。アイツらが死んだ日、みんな喪に服していた。第一俺を殺していないのはおかしい。落ち着け)


「どうかしましたか?」


「ああいえ。ところで刀についてお伺いしたいのですが。何か気になることがあるとかで」


「ええ。あの刀、祖父が打った刀にしては随分変わってるなと」


「変わっている?」


「はい」


 砥成は鍛冶師としての見解を陸島に説明した。

 その間、陸島の目つきは真剣だった。


「祖父の刀の特徴ですが、基本は丈夫であることでした。刀に丈夫もあるものかと思われるかもしれませんが刀は折れてしまえばそれでおしまい。そこで祖父は刀の刃を丈夫になるように製造を行っていました。刃に厚みを持たせてたりしてたんですよ。で、陸島さんの持ってる刀ですが見ていると不思議なもので。薄く、丈夫で切れ味もある。祖父が作った刀にはこんなデザインあったのかと疑問に思えるくらい方針とは違っているので。もし、祖父が生きていれば聞けたのですが数年前にこの世を去りましたので……」


 砥成は刀の不思議さを語った。


「そうそう。刀の方は今日持ってきております。あ、そういえば刃が刃なのか軽いですね」


 祖父製造の刀にしては随分攻撃的なつくりであることと、重さの軽さ。

 陸島は砥成の疑問に対する追求の姿勢の良さを感じとりながら食事を終える。


「なるほど。流石に経年によって変化……ってのは、なさそうですね」


「ええ。祖父の刀は火事場近くの倉庫に丁重に保存されていますがそのどれとも違う感触を持っています。陸島さんは何か聞いておりませんか?」


「すみません。やはり特には」


「そうですか。刀の方はお渡ししましょう」


 砥成は自分の椅子近くに立てかけていた竹刀ケースに入った刀を陸島に両手で渡す。

 それを陸島は両手で受け取る。


「ありがとうございます。手入れは自分でもやるのですが、やはり専門の者にしてもらうのが一番ですね」


「仕事ですから。調査を依頼した機関の人達には調査結果をお送りしますが、もしかしたら何か呼び出しがあるかもしれません」


「依頼……?」


 食後のいっぱいとして熱い緑茶を飲んでいた陸島の動きが止まる。

 少し間を置いて砥成は詳細を語る。


「今回の調査は機関に頼まれたのです。祖父は先ほども申した通り既にこの世を去っているので。それで私が祖父が持っていた刀を調べ、比較して何か変な個所はないか調べたのですよ。調査結果として、祖父にしては珍しい造りであると返す他ありませんが」


「わかりました。それで今日気になって刀の詳細を私に聞きに来たと」


「ええ。最初は陸島さんが刀の手入れをお願いしたいとの事でしたが、機関の方たちに頼まれて調査することに思ってませんでした。機関が何を思っているのかはわかりません。もしかしたら祖父のこの刀、何か秘密があるかもしれませんが……正直今の段階ではわかりかねます」


「そうですか。呪われているいう事は?」


「ははは……さすがにそれはないでしょう」


 運ばれてきたお茶に手を付けながら笑って砥成は答える。


「もしそうであれば機関が預かったままにしているはずです。でもこっちに来た。ということは機関でも謎が解けなかったと考えるのが妥当でしょうね」


「機関でもって……この国で大きな魔女管理組織ですよね?」


「ええ。それでもわからないこともある。知ろうとしたくても。貴方はここ百年以上見かけられなかったウォーロックだ。そのことを忘れないでください」


「あ……はい」


 自らの存在の貴重さにはっとなって気づく。


「では、刀はお返ししたのでこれで失礼します」


「はい。ありがとうございました」


 席を立ち、店から去っていく砥成は最後に陸島の方を向いてにこやかに挨拶をして店の戸をゆっくりと閉めた。


(ウォーロック……か。あの仮面の魔女が仮に俺を狙っていたとしたら?なぜ殺さなかった?何が狙いなんだ……?)


 一人残って考える。

 一人になったあの日の夜の惨劇を。

 一人で生きていくことを誓った出来事の原因を。


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