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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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82/123

13.5-3

「時に相談なんですが」


「なんだい?」


 話を切り替えだした流山。彼女は鼠川に提案をする。


「二人でいる時、名前で呼ばせてくれませんか?こないだ他の人と話をする際に鼠川君の苗字言おうとしたら盛大に噛みまして……」


「ああ、痛いよね。噛むと」


 舌を噛んだ経験のある鼠川は流山の痛そうにしている顔を見て首を縦に振る。


「いいよ。別に」


「ありがとうございます。本当痛かったです……」


 廊下を歩く合間も屋上からの訓練の声と武器がぶつかる音が止む気配はなかった。

 降りて教室に戻る途中で鼠川は相原の後姿を目撃する。


「あ、相原さんだ」


「シオンちゃーん。今日はあのインケンとお話しできました?」


「あ、ツバキちゃん。あのね。今日はダメだったの」


「はあまったく。最近の若人ときたら、誰かに合わせれらないんですかね」


「いや君も若人だよ?」


 鼠川の素早い突っ込みに確かにと相原が首を縦に振る。


「で、なんて言われて追い払われたんですか?」


「それが……今日は木下さんに頼まれて?」


「木下さん?うわー。アイツとうとう部下を使って追っ払い始めましたか」


 ひきつった顔で流山は陸島の振るいを非難する。


「いやそうじゃなくて今日は予定があるみたいなの」


「予定?食事の誘いに食事をする予定があるって言って断ったんですか?」


「そんな言い方する人いるかなあ……?」


 どこかトリッキーな返しに鼠川は首を傾げる。

 なお、この返しを現実でやった人がいる模様。


「えっと……砥成さんっていう人と昼に何かお話があるって言ってて。それで私は今日学食でご飯食べてたの」


「え?言ってくれれば一緒にいたのにー!」


「ごめんごめん。鼠川君と最近ずっと一緒だったから邪魔かなって思って」


「そんなことないですよ~。鼠川含めて女子三人でランチタイムも悪くないですよ」


「ははは。面白いこと言うね流山さんは」


 とっさに挟まれたジョークをさらっと流して彼は笑う。


「っていうかそのトギナリさんって誰です?」


「鍛冶師だって。刀とか作ってる人だって陸島君言ってた」


「刀……あの妙な刀もですかね」


「妙?何かあったの?」


 相原がその言葉に不思議に思っていると流山が答える。


「いやあのインケンが持ってる刀、結構丈夫だなって思って。こないだの戦いも相手の武器をへし折ってましたし。何かあるんじゃないかなって。ひょっとしたら呪われたりして」


「だとしたら……陸島君が相原さんとかにひねくれてるのって、あの刀が原因ってこと?」


「多分違うと思う。陸島君、今日刀持ってないのに冷たかったし」


「シオンちゃんに冷たいのは最初からですか。鉄の魔術の呪いとかだったら……ああでも一回は土下座させたいなあ」


「土下座って……。ところで鉄の魔術の呪いって?そもそも鉄の魔術って何?僕何も知らないんだけど?」


「あ、ご存じなかったですか?説明とかしてなかったもんですから。えっと鉄の魔術というのはですね」


 

 流山は鼠川に鉄の魔術について説明する。

 かつては四つの属性と同じように振るわれていた魔術。しかし時代が進むにつれて魔術とは関係のない一般の者たちが世界中で鉄の武器を振るい、血にまみれていった鉄はやがて本来の魔術とは異なる魔術へとねじれ曲がり、振るうものに災いをもたらす魔術となったことを。


「血にまみれた……あ、確かに言えてるかも」


「ですです。刀に剣、銃も銃弾とか。世界的に見ても鉄を使った武器は数多あります。その結果、鉄の魔術そのものが呪われてしまった。精霊が汚れたともいわれてますが正確な真相はわかってません」


「もしそうだとしたら……以前の試合で陸島君がおかしくなってたのも精霊のせい?」


「だと思います。でもそうだとしたら校長先生とかが動いているはずですが……シオンちゃんは何か聞いてませんか?」


「え?ああえっと……わからないの。特段そういう話とかもないし」


 三人はしばらく陸島と鉄の精霊の繋がりの有無についてあれやこれや語っていた。

 しかして真相は未だわからずにいた。







「こんにちは陸島さん。今日は来ていただいてありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ。先日は自分で言っておきながら、急用のために席を外してしまって申し訳ございません」


 一方、陸島は昼休みを『ひらさき』にて過ごしていた。

 テーブルを挟んだ目の前には一人の中年の男性が座っていた。服装は紺色の和服テイストの作業着で頭にバンダナを巻いている。その男の名は砥成紘一。陸島が以前に会おうとしていた刀鍛冶である。会おうとした目的は刀のメンテナンスに加え、更なる武器の調達を考えていたためである。


「さて、送った資料の方ですが読んでいただけました?とはいっても簡易的なレポートですが」


「あ、はい。読ませていただきましたが……どういうことです?」


 陸島は目を細めた。

 それに対し砥成が説明を始める。


「まずあの刀は私の祖父が……先々代の砥成家当主が打ったもので間違いないでしょう。茎の箇所に文字が彫られいたので。あの刀は譲ってもらったのですか?」


「はい。と言うよりは私が持っているだけですので。目的のために」


「目的と言いますと?」


「あの刀の本来の持ち主は既にこの世を去っています。その元凶を見つけ、打ち取るためです」


「なるほど……敵討ちですか」


「はい」


 陸島はその間、表情を崩さずにいた。

 笑うことも、悲しく事もなくただ砥成の方をじっと見ていた。知らずにその目の内に強い怒りを宿して。


「さて、本題に入りましょう。刀の方を私が握って実際に振るって見たり手入れをしてみたのですが……何かが変なんですよね」


「違和感ですか。レポートによれば重みがあるとかで。祖父の刀とはそんなに離れているのですか?」


「ええ」


 会話の途中で店員によってテーブルの上に陸島が頼んだざるそばが置かれる。砥成は『午後の授業もあるのでもう食べちゃってください』と言って頭を下げた。陸島はそれに首を縦に振って食事を始める。そして次にうな重がテーブルに届く。砥成もテーブルの上に置かれたうな重を食べ始める。


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