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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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78/112

13-6

「おーきたかー……ってあれ女子は?」


 放課後。

 鴉田の入院している病室に蛇島と鼠川が来訪する。鴉田はベッドの上に寝転んでおり、その手にはタブレット端末が握られていた。


「いないよ。昼間君が送った歌が原因でね。ああ、でも相原さんは陸島君の所に向かったよ」


「がーんだな。まあ相原さんに関しては納得できるっちゃできるがな」


「彼女は本当に献身的だ。それに引き換えあの陸島ときたら……」


 『はあ』と大きなため息を吐いて蛇島は陸島の態度に呆れる。


「で、君のケガの方はどうなんだね?」


「ああ、一週間かそこらで退院できるって話だ。痛みもだいぶ引いたよ」


「そうかそうか。陸島のヤツ、思ったより容赦なくやったな。それでも死んでないだけましか?」


「おいおい。俺が死ぬ可能性考慮してたってのかい?俺はそんなこと考えてないぞ?」


「そうだな。そういえば二川さんだったか?魔術道具の提供を君にしてくれた人物というのは」


「ああ。なんだ?超絶年上狙ってる?」


「もう一週間入院するか?」


 指をぽきぽき鳴らしながら蛇島は暴力をアピール。


「やめて!若い女子高生との甘ーいスクールライフが遠ざかるのは私耐えられないの!!」


「ならもう少し静かにしてろ」


「へーい」


 マイペース全開の鴉田に蛇島は額に右手を当てて俯いた。


(鴉田君のマイペースぶりは独特だなあ)


 静かにそのやり取りを聞いていた鼠川は作られた人形のように、にっこりと笑っていた。

 余談ですが、病院ではお静かに。


「そういえばアルヴァレを歌った?」


 蛇島は鴉田に問う。

 アルヴァレ。二十世紀から今日までで、約二十年以上の音楽活動をやっているバンド。

 彼らが出す楽曲は独特のセンスが輝き、今日までに老若男女問わず人気を集めているバンドだ。外崎菖蒲はこのバンドが好きであり、よくイヤホンでその曲を聴いている。


「ああ、外崎さんがよく聞いててさ。お気に入りが確か『ベスト・フィナーレ』だっけ?」


「あの疾走感が強い曲か?お前が歌ったのはそれか」


「そうそう。全然メッセージ返してくれなくてさ」


「いつかお前の身を締め付けなきゃいいけどな」


「心配ご無用。既に当該の動画はメッセアプリからは削除済みさ」


「行動が早いな貴様は。で、今まで何をしていたんだ?」


「動画見てた。いかがわしいの」


「みなまで言わんでもいい!」


「え~ほんとは気になるんでしょこのこの~」


「本題に入っていいか?」


 蛇島の声色が強くなったのを聞いて、鴉田は悪ふざけをやめた。

 しんと静かになったのを見計らって蛇島は口を開く。


「聞きたいことというのは陸島と決闘した際の話だ。終盤にアイツがおかしくなったというか……何か変になってなかったか?」


「変な風に?ああ……なってたと言えばなってたね。現に引っかかれたし」


「近くにいたお前なら何か感じなかったか?強い気配とか恐ろしい感じというか」


「感じたっちゃ感じたぞ。震えたしな。マジで寒気が走った。アイツの目もヤバイ感じでさ。こっちを見てないのに見てるというか。それでいてこっちに的確な攻撃仕掛けてくるもんだからさ。超怖かったよマジで」


 鴉田の説明に蛇島は眉を潜めた。


「そうか。実は外崎さんに頼まれてな。本人はさっきのお前の歌のせいで機嫌が悪いがもし向かうのなら私の代わりに聞いてほしいとの事だったからな」


「へえ、何で機嫌悪いんだ?」


「だからお前の歌だよ!」


「そんなー」


「……あの、一つ聞いてもいい?」


 二人の会話に恐る恐る鼠川が入り込む。


「鴉田君は何でそんなにちゃらんぽらんなの?」


「え?ちゃんぽんらんらん?」


「ちゃらんぽらん。ようはいい加減というかてきとーというか」


「そんなことないぞ。これでも将来はちゃんと考えている方だぞ」


「本当?じゃあ将来の夢は?」


「重婚してハーレム作る」


「そういうところだよ」


 鼠川は呆れた。

 なぜこの男はこんなにもネタに走る傾向があるのか?それがどうにも理解できなかった。


「そうでもしないと相手にしてもらえなかったとかか?」


 呆れる鼠川の横で蛇島が眼鏡を光らせながら鴉田に言った。


「まあ正解だ。俺の家……色々あってめんどいところでさ。小さい頃は特に二年生までは金持ちの家の人間ってのもあって周囲から距離を置かれてたよ」


「ほう。それで?」


「でさ。両親は仕事でほとんどいなくて代わりにおじいちゃんが相手してくれてた。ご飯とかも作ってくれた。工作の時も色々アドバイスもらったよ。んであるときじいちゃんに学校生活はどうだって聞かれた。俺は周囲から孤立してるって言いたくなかったからマイペースにやってるって言った。そしたらじいちゃんはこう言ったのさ」


「何と言ったんだ?」


 鴉田は真剣な目で祖父の言葉を語る。


「三つの事をやれって言われたんだ。一つ目に流行に敏感であれと。お笑いがいいって言ってた。あるじゃん流行のギャグとかさ。それを練習したりして周囲に溶け込もうとしてた。二つ目に足を速くしたよ。かけっこの練習と化してさ。これはあまり効き目なかったけど運動会の際に大いに役立って白組を優勝に導いたって思ってる。三つ目に下ネタを覚えた」


「急にひどくなったな」


 横で鼠川が噴き出していたが鴉田はそれを気にせずに話を続ける。


「いやいや。それがこれが一番効き目あったんよ」


「嘘だろ?」


「嘘じゃないよー。まあ時と場合考えてやれって話だから休み時間限定でそうした。それで男子からバカ受け。女子から冷たい目で見られた。それでも楽しかったよ。もしあれなかったら学校生活は地獄だったな」


「うーむ……君のおじいさんが会社の社長をやっていたとは思えんな。しかもあのベルウィンググループの」


「え?何で知ってんだ?ストーカーかお前?」


「違うわ馬鹿もん。二川さんからの情報だ」


「ああ。あの人なら年だし知ってるか。そうそう。昔ある会社の社長やっててさ。じいちゃんが社長やってた頃にな、社員が問題起こして……粉飾決算だったか?それが原因でやめたんだよ。その後は悠々自適に生活してるさ。俺の面倒見ながらね」


「君のご両親は何を?」


 質問に対し、鴉田は嫌なものを見る目で語る。


「その会社で二人とも役員やってるよ。海外にも行ってるし、めったに家に帰らない。だからじいちゃんが俺の親代わりさ」


「……なるほど。随分大変な環境にいるんだな」


「そうでもないぞ?ゲームもいろいろ買ってもらったし、工作だって色々やった。プログラミングに電子工作とかさ」


「君のおじいさんもそういうのに造詣があるのか?」


「まあな。元々、理系の大学出てるって話だからな。社長やりだしてからはその辺の知識はあまり振るえなかったって愚痴ってたなそういや」


「今はどうなんだ?」


「色々やってるよ。ロボットアーム開発とかさ」


「……なんだか遠い世界の話だ」


 空の向こうについて聞かされている気分になった蛇島。


「俺はその遠い世界の話とそこでの行いが好きさ。わくわくするぞ?機械ってのは」


「だろうな」


 蛇島はフッと笑う。


「あ、そろそろ時間だから帰ろ?」


 そう言ったのは鼠川。

 面会時間が終わりに差し掛かっていたのだ。


「よし、聞きたいことは聞けたからいい。じゃあ帰るぞ鼠川」


「うん。鴉田君もお大事にね」


「おう。ちゃっちゃと直してやるさ」


 去っていく二人をベッドの上から見送る鴉田。

 静かになった病室で一人ぽつんと残される。


「……勝ちたかったなあ」


 窓に向かって彼はぼやく。

 夕日が見え始めた頃だった。


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