13-5
「いずれにせよだ。僕たちはどうにかして陸島に追いつかなければならない。そうだろ?」
蛇島の言葉に周囲は首を縦に振って納得する。
その時だった。
「オーイエー……嗚呼、君がこーいしくて~」
「何この歌!?」
一同の視線は鼠川……のスマホに向けられる。
「あんたまさか……」
「ああ、うん。ごめん。鴉田君とメッセージのやり取りしてたら何か送られてきたからなんだろうと思って再生しちゃった」
思春期真っ盛りボーイの熱烈な歌が周囲の空気を絶対零度にまで引き下げる。
元凶となってしまった鼠川はとても申し訳なさそうにしていた。
「……見舞いに行くのやめる?」
「やめとけ。多分これ、こないともう一曲送り付けられてくるぞ」
「ええ……」
鴉田の指摘に鼠川はあり得ないという顔でどんよりとした雰囲気を溢れさせる。
「行っておいで。アタシの代わりに」
外崎が鼠川に指示する。
要するに彼女は行きたくないのだ。パートナーなのに。
「ああうん。何故アルヴァレの曲なのかは置いといて……これはちょっとヤバイかもね」
「一発引っぱたきたいけど、アイツなら喜びそうだし蛇島が思いっきりグーパンしといて」
「僕が!?まあいいが」
「いいの!?……でもいいか」
鼠川は驚くが外崎に同調。
彼の謎のテンションにどうやら呆れていたらしい。
「あら貴方たち集まっていたのね」
その場に近づいてきたのは燦央院。
昼休みの合間に打ち合わせを終えて戻ってきた。
「あ、燦央院さん。もう仕事やってるの?」
相原は心配そうな目で彼女を見ていた。
彼女からは燦央院が陸島との決闘で受けた傷は思ったより深く見えていた為である。
「大丈夫よ相原さん。家が家ですからかかりつけの医者……というか魔女もいますし」
「凄いですねー……スケールが違うというか」
「それを言うなら流山さんもでしょ。関東封魔忍者連合のトップの娘さんなのに」
「な、なんだねその凄そうな組織の名前は?」
「ああ、えっと――」
流山は簡単に説明した。
関東封魔忍者連合。それは忍者の家系に連なる魔女や眷属が集う組織。現在、流山椿の母はその組織のリーダーを務めているのだという。
「はあ……凄いななんだか」
「そのせいでみっちりしごかれましたけどね。まあ今となっちゃいい思い出ですよ」
「陸島も陸島で竹月組にゆかりあるものだとは思いませんでしたけどね」
「……燦央院さん今なんと?」
「橘樹の家の人間ですわ、彼。しかも養子。只者ではないと思っておりましたがまさかね」
竹月組という単語に固まり、今度は橘樹の家の人間と聞いて流山は驚愕の声を上げた。
「嘘でしょ……竹月組って。っていうか橘樹の家の人間ってマジですか!?」
「マジですわよ。知らなかったんですか?」
「知らなかったも何も……あー木下さんにもう少し聞けばよかった!シオンちゃん知ってました?!」
「ええと……前に一回聞いたの。木下さんから。陸島君。幼いころに引き取られたって。それで……色々あって――」
話を研ぎらせたのは昼休み終わりのチャイム。
生徒たちが一斉に教室に戻る。
「話はまた今度ね」
「いいですよ全然それで!」
魔女、魔術師見習いである以前に彼らは学生。
学校の授業もしっかりと受けるものなのだ。
「で、どうなんだい?佐倉さんよ」
「機関の調査結果じゃ特に問題なしって結果が帰ってきてますね」
校長室に設置された来客者用のソファーに座りながら一人の老婆が校長室の椅子に座っている校長先生こと佐倉京香に話を聞きだしていた。陸島について。彼が精霊憑きであるかどうかを。
「問題なしって……機関の連中はミスでもしたんじゃないのか?ありゃどうみても精霊か何か危ないものに憑かれているよ?」
老婆の名前は二川トメ。
玉之江島で魔術道具の取引をしている者である。
「そこは気になりますね。調査用の魔術道具をかいくぐるというのは精霊にはできるわけないのですから」
「精霊を調査する魔術道具っていやあ……『マニトの首』とかか?」
「ええ。それを使って調査したみたいですよ」
「あれで?確かに精霊をあぶりだす道具だけど。首から噴き出す悪意の本流を当てて精霊を当人から引きずり出すっていう……そんなもんで精霊が出てくるもんかね?」
「貴方だって仕入れたことあるでしょ?不気味だなんだって言いながら。四十年位前に」
昔話をしつつ二人の老婆は入れたての緑茶を飲む。
「ああ仕入れたよ。あれはねえ、本来は精霊を引きずり出して当人を危険から遠ざけるっていう狙いがあるのよ。後は精霊をはがして弱体化とかそういう使い方もあるっちゃあるわね。実際に使ったことはないけどさ」
「機関の方々は大地の精霊を陸島君から引きはがすか確認するかで使ったみたいで。どうやらシロみたいで精霊憑きじゃないってことは証明されちゃったみたいですよ」
「証明されちゃったって……じゃあアレは一体何だったんだい!?」
二川の声は急に荒くなる。
「あたしはモニター越しで見たよ。あのオールバックの坊やが急におかしくなったのを。ありゃあ何かに憑かれているようだった。精霊に憑かれているで説明がつくはずなのに……じゃあ一体何だって言うんだい!?」
「二川さん落ち着いて。血圧が上がりますよ」
「ほっといてくれ。毎年の健康診断はこれでも三十年ずっとA判定だよ」
「それはすごいですね。で、その変容なんですがね。彼はウォーロックです。だから我々の知らない何かがある。機関は今その線で調べていますよ」
「本当かい?あたしは鉄の精霊に憑りつかれたんじゃないかって思ってるよ」
鉄の精霊。
二川の口からその単語が出た時、校長の動きは止まる。それとは逆に二川はさらに話を続ける。
「昔から、鉄の精霊は血にまみれているっていうじゃないか。それならマニトの首によるあぶり出しが効かないだろ?」
「なるほど。それはあり得るかもしれませんね」
校長は納得するそぶりを見せる。
「あの坊やにそれが憑いているとしたら、近々機関も動くだろうね。捕獲か処刑かでさ」
「それは困りますね。彼だってまだ十五なのに」
「仕方ないさ。鉄の精霊は危険だからね」
鉄の精霊は血にまみれている。
昔から魔女の合間で言われている言葉。
古来より人間は鉄を使った武器や兵器を作り続けてきた。そうして世界中の鉄は人間の血を常に浴びることになる。怒りや悲しみとともに。それらは鉄から精霊へと伝わり、やがてその魔術も呪われるようになってしまった。振るった人間に怨念が憑き、そして最終的には死に至らしめるという呪いが。




