13-3
「あれ?流山さんたちは今日お弁当なんだね」
教室に入り込んで来たのは鼠川淳吾、そして蛇島光。
「おや、外崎さんも一緒か」
「あんたこそ燦央院さんとは離れてるの珍しいね」
蛇島を見る外崎の目は意外なものを見る目をしていた。
「そうか?意外と離れているが」
「へえ?ベタベタくっついているイメージだよ。修行とかでさ」
「まあ一理ある。今日は燦央院さんは何か吉川さんと仕事があると言って昼は別になったのさ」
「なるほど。あのお嬢様も大変だ。退院したと思えば仕事に振り回されるの、大変だねえ」
「……ああ。そうだな」
外崎の言葉に蛇島は渋い顔を浮かべる。
燦央院は退院してから蛇島の稽古に付き合いつつ、仕事として家の部下たちの報告の確認や指示などを一部請け負っていた。
「怪我も完全に治っているのかわからないというのに……本当に彼女には頭が上がらないよ」
「じゃあ強くなってあげな。それが一番の恩返しになる」
「ああ、そうするさ。陸島を思いっきりぶん殴ってやるさ」
決意と共に笑う蛇島。
対照的にうつむいて暗くなる相原。それに気づいた流山が彼女に話しかける。
「シオンちゃん、しょうがないですよ。アイツもこの島に来て、結構やらかしてる。それは事実です。たとえ何があっても過去は変わらない。暴れたり毒吐いて他人を傷つけた事実は変えられませんよ」
「うん……そうだね」
「あ、別に相原さんが悪いわけじゃない。陸島がすべて悪いんだ。君は悪くないぞ」
蛇島の注釈に相原はどう反応していいのかわからなかった。
(確かに二人の言うように陸島君は結構やらかしているというか……誰とも手を取ろうとしない。というより仲良くしようとしない。木下さんの意見も絡めるとやっぱり過去の出来事がトラウマなのかな……)
これまでの陸島鉄明の行動を振り返る。
四月、彼を最初に見た時は学ランを着ていたことからどこか印象に残っていた。この島では男子高校生などいるはずもないから。それもあってかそうでないのか、彼女にとっては陸島は印象に残る人物であった。その姿を、顔を見た時に何かを感じ取っていた。運命か否か。その時の彼女には知る由もなかった。やがて彼は魔女の世界でも珍しいウォーロックという存在であると知り、そして流れで相原は彼のパートナーを務めることになった。大地の魔女として彼を導かんとするがために。だがそうはならなかった。
(あの日の夜、初めて見た時に何か不思議に感じたのは男子高校生だったからとかじゃなくて……なんて言えばいいんだろう。ただ気になったんだ。本当に。それから最初に事件が起こって――)
思い出したのはあの日の出来事、そして事件。
その日の夜、相原は陸島と一緒に食事をしようとして流山と萩野と一緒に男子寮に向かった。でも彼はひどく荒れて怒り出した。静かに食事をしたくてそれを邪魔したのがいけなかったのだろうと相原は推察する。偶然、校長先生が来てくれてその場は収まって食事を共にしたが、彼は終始不機嫌だった。
やがて食事を終えて流山と別れてから近くのコンビニに買い物に萩野と行った。その時に逆奈義未来とその一派に出会った。
(萩野さんが私を逃がそうとしてそれで怪我をして私は仕方なく彼女たちと車に乗って山に向かった。あそこまで行けば私の大地の魔法で逃げられるって確信があったから。その時に陸島君が来たの。後になって知ったけど、日課にしてる稽古があったみたい)
その時の陸島と言えば相原紫苑の心に深く刺さるものがあった。
不気味な衝動に駆られた悪魔の如き形相。そして切り落とされる逆奈義未来の腕。何より印象に残ったのその時彼が振るった鉄の魔法。
(鉄の魔法……あの後調べてみたけどやっぱりあれは危険な魔法だって。でも陸島君はあれを使って見せた。その後は普通に刀を振るって……それで逆奈義さんが大けがをした)
あの日の夜の事件は本当に偶然だったのか?
それは相原にとって知る由もなかった。
(それからは魔法について教えようとしたけど、全部一人でやるって言ってて。難しいと思っていたのに。私も最初は大地の魔法って使うの難しくて、でも陸島君はあっさりと使いこなしてた。ただ才能があるだけじゃなくて、何かが彼にはあって強い野心の下地になっていた。力を求めた彼はその力が本当に使えるのかどうかを確かめるために魔女同士で行われる決闘をやるようになった)
魔女決闘。
それは古くから玉之江島に存在する決闘で魔女同士が何かを賭けたり、何かを決めたりするときに使っていた儀式のようなもの。これ以外の目的として力試しや純粋に技術をぶつけ合うというのもあった。
(ツバキちゃんが最初の相手だった。本当に驚いたの。まさか一か月近くであそこまで戦えるなんて。ツバキちゃんも最初から全力だったのか、大きな蛙……大蒲の術で彼を圧倒しようとした。でも彼の魔術と戦闘技術の前にツバキちゃんは倒れた。あの時の陸島君は怖かった。ツバキちゃんを……殺そうとしてた)
刀を手に持って無表情で斬りかかろうとした陸島の姿を思い出す。
自分の親友を手にかけようとしているその姿に彼女は恐怖を覚えた。
(周りが止めてなかったら陸島君は殺そうとしてたのかな……)
浮かぶ最悪の光景に相原は震えた。
そうはならなかったのが救いではある。




