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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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13-1 激闘の果てに

――俺が酷く怒り狂った時があった。心無い言葉というやつだ。俺を笑ったんじゃない。俺の家族を笑ったからだ。だから目いっぱい殴った。殴られた。その果てに薄汚い口の持ち主がようやく動かなくなって、しばらくしてそいつがまだ謝っていないことを理解したとき起こすためにまた殴った。誰かが止めに入るまでずっとそうしてた。その時に理解した。どうしようもないヤツがこの世の中にはいるんだって


 陸島鉄明の意識が次に現実に灯ったのは彼がベッドの上にいた時だった。


「あれ?ここは……」


 布団の温もりを感じつつ視界には白い天井が広がる。

 病院であると理解すると、彼は勢いよく体を起こす。


「決闘はどうなった!?」


 周囲を見渡す。

 病室の中には自分以外の人間はおらず、彼の問いに静寂が帰ってくるばかり。窓の方を見ると日の光が差していた。ベッド近くに置かれていた自分のスマートフォンで状況を確認する。


(これは……決闘から一日経過してるのか。今は朝の八時……じゃなくて――)


 苛立ちながらスマートフォンの画面を乱雑に操作し、昨日の決闘に関しての情報をせかせかと探る。


――心配はいらぬ。お前の勝ちだ


「……そうかい」


 陸島にとってその邂逅の仕方は既に慣れていた。

 しかし、突如として響く脳内の声にはいまだに慣れないのか心臓の鼓動が強く脈打つ。

 その時だった。昨日の決闘の記憶が滝のように流れ込んできたのは。


「……どういうことだ」


――どういうことだ……とは?


「何故あの時邪魔をした」


 あの時というのは陸島が鴉田のドローン突撃による攻撃で倒れた時だ。

 その際、陸島に憑きし者は陸島を乗っ取って彼を操って鴉田との戦いに決着をつけたのだ。


「何を考えているんだお前は?」


 誰もいない空間に叫ぶ。

 普通に見れば異常だが、彼は正常である。


――我も彼奴の力をを図りたいと思った。そしてお前にとってここは通過点だ。全てはお前の懇願である復讐の為にお前に力を貸した。それだけだ


「少なくともあの時、お前の力なぞなくとも勝ててたぞ俺は!」


――わかってはいる。しかし今お前の必要なのはお前に力を継承することだ


「継承?何を考えてる?」


――心配はいらん。鉄の精霊である我ならば、大地の魔術も使える。お前は復讐を望む魔術師である。それを胸に刻みながら生きていけ。


「何……精霊だと?」


 精霊。

 それは魔術において大きな存在。

 陸島の知っている限りでは火、水、風、地の四つの属性にある存在でそれに憑りつかれる、あるいは認められると魔術師は大きく成長するという。

 しかし今、陸島に憑きし者は自らを『鉄の精霊』と名乗ったのだ。


「馬鹿な……鉄の精霊は存在しないはずじゃ」


――違う。それは貴様の読んだ文献や教えに我が存在が乗っていなかっただけだ。太古より我は存在している。現に我はお前の近くにいるではないか


「……ああそうだな」


 認めるしかなった。

 少なくとも今の陸島には。


――おや?誰か来たようだな。ではしばらくは休むがよい。時が来たら我が魔術を継承する時が来る


「は?いったい何を言ってる?」


 陸島の脳からその声は消えた。

 しばらくして病室のドアにノックが入る。


(誰だ……?看護師か)


 陸島が来訪者について考えていると、またノックが入る。


「……どうぞ」


 その時の『どうぞ』という陸島の声はどこかやさぐれていた。

 ノックの音、回数。そこから看護師ではないということ。そして叩く音にはどこか優しい感じが音で何となく伝わっていた。それで誰なのか皆目見当がついた。


「陸島君。もう起き上がって大丈夫なの?」


「ああ。決闘は俺の勝ちか?」


「……うん。陸島君の勝ちで終わったよ。でもその後に陸島君倒れちゃって審判の人が医療班呼んで大慌てで運んだの。傷はたいしたことないけど目を覚まさなかったから」


 陸島は最初に聞いたのは決闘の結末。

 勝者は陸島鉄明にて決闘は終わったのだと相原は告げる。


「ならいい」


「ねえ、陸島君。聞きたいことがあるの」


 相原の顔は病室に入ってから暗いままで、さらに日が落ちたように暗さが増す。


「何か恐ろしいモノとか……例えば過去に呪いを受けていない?」


「呪い?」


 呪いという単語はそれまでの流れで意外だったのか、陸島はそれまで外に向けていた視界を相原に向けた。


「うん……五年前に襲われた時、そういう呪いとか受けていない?例えば……自分の名前を呼ばれてそれからおかしくなったとか。魔術にはそういうのがあるの。相手の真名を呼ぶことで何らかの呪いを付与させることができるの」


「それはないな」


 即答だった。

 陸島は相原の質問をすっぱりと返す。


「……ないの?」


「ああ、ありえない」


「ど、どうして?」


「五年前のあの日、俺は襲われた相手に見逃された。それだけだ」


「そうなの?」


「じゃあなんで俺は生きてるんだ?おかしいだろ」


「……うん」


 陸島の態度が不機嫌になるのを察し、相原は口を閉ざす。


「聞きたいことはそれだけか?」


「え?」


「それだけかって聞いてるんだ!」


「あ……えっと」


「学校に行け。遅刻するぞ」


「それは大丈夫。先生には伝えているから」


「じゃあ今から行ってこい。俺をサボりの口実に使う気か?」


「……じゃあこれだけでも」


 しょっぼりとする相原は持ってきたカバンの中からそれを陸島に渡した。

 渡されたのは封筒に入った紙の資料。


「……なんだこれ」


「えっと、砥成さんから。あの刀について調べたいって言ってて……それでその結果をまとめたから見てほしいって」


「そうか」


 陸島は紙を受け取るとそれではなく、相原を見た。

 その目はうっとうしい物を見る目だった。


「……あ、うん。もう行くから。じゃあまたね」


「ああ」


 陸島は目を紙に向けた。

 


(なんだ?調べたってどういうことだ?呪われてるっていうのか?)


 陸島がその紙に目を通す。

 ドアの開く音など気にせず、そのまま彼はじっと砥成からの言葉を文字と図の世界から読み取りに入っていた。


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