12-5
「おばあさま?急にどうしたのですか?」
「いいから。多分あのオールバック坊や、暴走してる」
「ぼ、暴走ですって!?」
思わず大きな声を上げた。
「怒りか何か知らないけど――」
二川が状況を解説しようとしたその刹那、画面の向こうで次のシーンが展開される。
「ウオオオオオッ!!」
両手を下し、膝を曲げたままの陸島は突如大声を上げると勢いよく、鴉田に突撃した。
そして――
「があっ!?」
陸島は鴉田に近づき、勢いよく攻撃を仕掛けた。
(こいつ……熊とかサルみたいに引っかきやがった!)
その攻撃方法は意外にもひっかき。
右手に込めた大地の魔力で出来上がった尖った爪で、鴉田の胴を勢いよく引き裂く。
「な……なにこれ」
鼠川は画面の、その向こうで起きている事態を呑み込めずにいた。
その攻撃で鴉田が大事に至ることはなかった。
「あ、あぶねえ……」
とっさの回避行動で傷は浅く、しかしてひっかかれた場所より熱さと痛みが走る。
攻撃によってできた傷口より血は流れる。
「あいつどうなっている!?正気じゃないぞ!?」
「だから言ったろ。あれは精霊か何かよくないのに憑かれている。下手すりゃ死ぬよ。審判は何をしてんだい」
慌てる蛇島に二川は冷静に答える。
(あれは……まさかあの時の。精霊に憑かれていたの!?じゃあ陸島君が鉄の魔術を行使できるのはあの精霊のせいなの?)
その一方で相原は震え怯えていた。
四月にあった逆奈義未来の一見。その時の出来事がフラッシュバックする。
切り落とされる右腕、悪意に満ちた笑みを見せた陸島。
「シオンちゃん。大丈夫ですか?」
「え?あ、うん。それよりこの試合止めないと」
「審判連中はなにやってんだい!」
老婆の大声が響く。審判の女性が駆け付ける。
「それがどうやら先ほどの叫びで近くの審判がダメージを追ったらしく……今、ほとんどのメンバーで向かっております」
「そうかい。ウォーロックってのはどうやら予想以上に危険なようだね」
二川は溜息をつく。
その言葉に蛇島と鼠川は下にうつむく。戦いは続いていた。
(なんだ。どうなってる!?)
鴉田は目の前にいる陸島に驚いていた。
右足、左足に魔力を込めているのか踏んだ地面にひびが入る。
(こいつの最大の長所はタフさだと思ってた。執念が体に力を送っている……それでタフさがあった。でも今は違う。執念で体を動かしているんじゃない。執念が体を動かしているんだ。執念に振り回されている、そう見えるぞ)
陸島はゆっくりと近づきながら彼は落ちていた刀を手に取り、そして鴉田に笑みを向ける。獲物を捕らえ、引き裂こうとする悪意ある意思の笑みを。
「……仕方ねえか」
折れた刀。使えそうにない銃。使った最後の手札。
状況は彼を一つの方角へと導く。
「ここで限界超えて勝つ。それ以外に道はねえ!」
垂れ行く血の流れがより大地に向きつつも、鴉田は戦う構えを止めはしなかった。
「行くぜ陸島……これで本当に終わりだ!!」
全身に力を籠める。
辺りにバチバチと電気の流れが走る。
「はあああぁっ……!」
――全部のエネルギーをぶち込んで倒す。それ以外に勝機はねえ!
「アイツ何やってんの?死にたいの?」
魔力を集中させ始めた鴉田に外崎は目を離せずにいた。上ずった声で最悪の結末を想像しながら。
「まだ何か手札が残ってるんじゃないんですか?」
「ないない。多分さっきのドローン突撃が最後。後はアイツの魔力だけ。それでもあの状態の陸島を倒せるとは思えない」
「確かに殺しても死ななそうですもんね……」
画面の向こうにいる怪物を見ながら流山と外崎は汗を流す。
ウォーロック対ウォーロック、その最後の瞬間がついに訪れる。
「いくぜ!!」
鴉田の作戦はいたってシンプル。
陸島に向かって勢いよく突撃するだけ。ただし全身に電撃を纏って。
恐れずに果敢に彼は獅子のように獲物に向けて突っ込む。
「うおおおおおっ!」
周囲に土煙を上げながら雷鳴を轟かせて彼は陸島に突っ込む。
陸島は刀を納刀。居合の構えを取る。
――あれじゃ確実に負ける
外崎は最悪の未来に自らが突っ込んでいると確信した。
――これなら絶対に勝てる
鴉田は勝利の未来に自分が突っ込んでいると確信した。
「ハアァッ!!」
そしてその時はきた。陸島は勢いよく刀を振るう。
「たあっ!」
鴉田はその瞬間に空中に飛んだ。
「ええ!?飛んじゃいましたよ!?せっかくの電撃が」
「……そういうことか」
鴉田の行動を理解した。
「あいつ、電気と風を同時にやってる。それが本当に出せる奥の手ってことだね」
「へ?それさらっと凄いことじゃ?」
「ああ、凄いよ」
二つの属性を同時に放つ。雷と風は兄弟のようなものであるがそれでも魔術を習い始めてから一か月近くでそこまでの腕になるのはそうそうあり得ない。
上空に飛び、鴉田は右手に集中させた電撃を陸島に向ける。
(これで……終わりだ!)
それを放つ。
決着はそこで着くはずだった。
(……あ、あれ?力が入らない)
集中させた電撃が轟くことはなかった。ただ静かに消えていった。
鮮血の雨が陸島に模様をつけるように注がれる。浴びる陸島は血の雨の中でも動じず、そっと刀を納刀する。
(あ――)
いつの間にか抜刀どころか、納刀する陸島を見て鴉田は腹部の熱さに気づいた。
先ほど、静かに斬撃が振るわれていた。
そしてその斬撃は届いていた。
それが鴉田の限界を呼んだ。
――ああ、畜生。負けたぜ
上空にて何者にも触れられず、されど何者も彼を助けず。
鴉田は勢いよく地面に転がり、そのまま止まった。
「あ……ああ」
蛇島はその結末に愕然としていた。
一人の人間の最期を見る羽目になるとは思っていなかった。
陸島は後ろを振り返り、その場に転がる鴉田に近づく。
「お前の負けだ。いいな」
陸島の目は相も変わらず、冷たい。
先ほど悲しむと言っていたそのセリフを吐いた者とは思えない威圧を彼に与えていた。
「……そうかい」
――なんだ?コイツどうなってる?別人みたいで……
薄れゆく意識の中、何が起こっていたのかを最後まで理解する前に鴉田は気を失った。
「いた!こっちだ!」
一人の声のもと、近くに集まった審判と医療班が鴉田に近づく。
「おい、しっかりしろ!!」
「応急処置急いで!!」
「大丈夫だ。君は助かる!」
あわただしくも丁寧な応急処置を施すと医療班は彼を搬送。
陸島はその場に一人静かに佇んで笑っていた。
「な、なんてやつですか……。切り捨てて笑っているなんて」
「信じられませんわね。さっきのといい。陸島鉄明、一体貴方は何者なんですの……!?」
画面の向こうにいる陸島に信じられないものを見る目で流山と燦央院が見つめる。
陸島はそのままばたりと倒れた。
「え?」
相原は何が起こったのかわからなかった。
本当に糸の切れたマリオネットのようにばたんと倒れてしまったのだ。
「陸島君!?」
立ち上がって画面の向こうの彼に叫ぶ。
届くことのない声が響くだけだった。
――よし。鋳造は進んでいる。継承は近いぞ
そして闇の中にて薄ら笑いを浮かべる者がいた。
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