12-2
「あの……陸島君は何をしたんですか?」
陸島と同じ大地の魔術を使う相原が二川に問いかける。
「ああ、見てなかったのかい?ありゃあ矢だよ。弓矢さ」
「え?弓矢って……それで?」
相原は思わぬ答えに緩やかに固まる。
「ははは。若いやつらは飛び道具と言ったら銃とか魔法とか思い浮かべるかもしれないけどね、弓も立派に強いのさ。魔女の私が、というか長年道具を仕入れている私が言うんだ。間違いないさ」
「弓矢……もしかして大地の魔法でですか?」
「だね。弦と矢は枝と葉をベースに作ってる。弦は細い蔦でそこに魔術を通しているのさ」
伊達に長く魔女として生きていない二川の言葉は周囲を納得させる。
思わぬ陸島の反撃にあっけにとられていた鼠川は画面の方に目を向ける。
「凄い……まさか弓まで扱えるなんて。しかもあんな正確に命中させてる」
「うちでは長く弓は扱ってないが、たいしたもんだねありゃ。あの高さのドローンを落としたのなら……和弓だろうね。確か二メートル以上のヤツか。弓はそんなに詳しくないが扱うにはそれなりの訓練かセンスがいるよ。でもあの坊や魔術師だから強化して矢を撃っているんだろうね」
二川の解説を聞き、蛇島も彼を認めざるを得なかった。
(機転まで効くとは。陸島め、弓道でもやっていたのか?)
「あ、待ってください。ドローンはまだ残っていますよ」
周囲が陸島の機転を認める中で流山はそれを止めるように声を出した。
それに対し外崎は首を横に振った。
「難しいね。一機じゃあ森全体をカバーできない。いや三機でできるわけないんだけださ。それでも敵の位置を把握するためには三機あった方が断然いい。一機じゃ多分無理だよ」
「そんな……」
周囲に不安が広がり始める。
陸島による反撃にて倒れる鴉田の姿がぼんやりとだが見え始めていた。
「まあ大丈夫でしょ。鴉田も伊達に修行はしちゃいない。だから一矢報いて倒れるさ」
「倒れること前提なのかい?ハッハッハ!面白いこと言うねえ、クールなお嬢ちゃん」
老婆の笑い声が周囲に響く。
戦局はもうじき終盤に差し掛かろうとしていた。
「まじかよ……まさか弓とはね」
ドローンから送られてきた撮影映像より墜落の原因が弓矢による攻撃であると鴉田も理解した。
一滴の汗が流れる。それはじめじめした六月の天候によるものではない。
(あの野郎、ここまで芸達者だとは思わなかったよ。刀の次は弓とはやりおる)
キーボードを少し打ち込むとノートパソコンを畳み、自作銃のレール・カノン二式を片手に取る。
その手は汗ばんでいたが、握る力に変わりはなかった。
「こうなったら迎え撃つしかねえ。ちょろちょろ逃げてもいいが、それじゃあ示しがつかねえってもんだ」
次に彼は銃と繋がっている魔術結晶入りの箱型デバイスにあらかじめつけていた背負うための二つの太い肩紐を両肩に通す。
(これで動ける。背負いの装置、ちょいと重いが仕方ねえ)
五キロほどあるデバイスを背負い、準備を整えて周囲を見渡す。
崖の方から森を見下ろすが、木々に覆われて鴉田の目ではさすがに何も見えない。
(この崖、上るなら後ろからの坂だ。そこから来るのならその周囲を見ていればいいはずだ)
崖の後ろにある下り坂に近づき、注意を向ける。
そこから来るであろう敵に対して。
「さあ、いつでも来やがれってんだ……!」
銃を抱えるように構え、崖を背に向けてじっと待つ。
垂れる汗は静かに地に落ちる。
(アイツの事だ。何かしでかすだろうが……さすがにこの位置ならあの場所だけ見ていればいいはずだ)
鴉田のいる位置は後ろに崖があり、前方には木々が生えた下り坂があった。
もしここに来るのなら下り坂から上ってくる方法以外は考えられないと推察する。
(こいつも後、二発が限界だ。そろそろ当てないとな……)
時間は静かに過ぎる。
鴉田の銃を握る手の力が増していく。引き金にかけた指は震えることはなかったが、前方周囲に広がる木々のどこから来るのか予想がつかなかった。
(次にこいつを撃った時、俺はモテるぜ!)
くだらない妄想は張り詰める自分を鎮めるため。
勝機を握っている自分がいることを自分に知らせるため。
しかし、いつだって死神とは不意に後ろから大鎌を振るうものである。
(あ――)
気配を感知した。
そう、既にいたのだ。後ろの崖から、振り向けばヤツはそこにいた。陸島は崖を上っていたのだ。身体に蔦を絡ませて。
――しまった!そういや流山さんが言ってた!蔦を体に絡ませて移動することができるって。それで崖から蔦を生やして上ってこれたんだ!!
「そらよ」
一本の矢が静かに放たれる。獲物を屠る一矢が。
鴉田はそれに反応するも防ぐ手はなかった。防ぐ手は。
(ちぃっ!だったら!)
エネルギーは既に溜まっていた銃の引き金にかけた指を引く。
一発の弾丸が勢いよく放たれる。それはこちらを討とうとする意志を含む矢を吹き飛ばしてそのまま陸島めがけて飛んでいく。
「そのまま落ちろ陸島!!」
しかし、弾丸が陸島に命中することはない。
何故なら彼は移動しながら矢を撃っていたのだ。どういうことかというと、崖から伸ばした彼の蔦は射撃の瞬間にもまっすぐに伸びていて、鴉田を狙う一瞬の合間の中でも止まることはなかった。鴉田の放った銃弾は彼には命中していなかった。そう、彼には。
(む、これは……)
陸島は違和感を感じ取った。何かが体から離れる感触を。
蔦は先ほどの銃撃が命中し、そのまま焼き切れていたのだ。
蔦に絡まっていた陸島はそのまま崖に着地し、鴉田の方を見る。
「ほう、こうして見れば随分立派なおもちゃじゃないか。よくもまあそんなものを作ったもんだな?」
「いいだろうこれ。お前のために作ったんだぜ。リーマンの給料二か月分ってところだ」
「すごいすごい。褒めてやるよ、おぼっちゃま」
冷却中の銃を握る鴉田の前にいる陸島の手には彼自身よりも長い弓が握られていた。
この弓は陸島が周囲の木々の枝と葉、さらに蔦を魔力によってその形と特性を構築して作成されたものである。
「それが俺のドローンを落とした武器か?古臭い武器だな」
「ああ、こんな古臭いので最新のおもちゃを落とせるとは思わなかったよ」
「ああそうだな。隠れてこそこそ、ご苦労さん」
「お前もな」
局面はついに終盤に入った。
ウォーロックとウォーロックが向き合う。互いに見下すように笑っている。
罵倒と皮肉入り混じった言い合いから口を開いたのは陸島。
「褒めてやるよ。お前の戦いぶり。ああそうそう、悲しんでやるよ。お前が無様に倒れてくたばる姿をな」
「結構だ。俺が誰かに悲しんでほしいシチュエーションがあるとしたら、女の子が俺を見てモテすぎて困って泣いてる時だけだ」
銃の冷却はいまだに終わりそうににない。
それを見て鴉田は渋い顔をする。
(どうする?この場合。銃を捨てるのが正しいか?アレを使うしかねえか?)




