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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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64/123

11-5

「陸島―!決闘しようぜー!!」


(…………はい?)


 友人を遊びに誘うような声。それは本当に突然だった。

 昼休み、校門近くに食事から戻ってきた陸島に鴉田が近づきながら声を掛けてきた。


(ええ!?本当に向かった!?さっきの話……大丈夫なのかな?)


 直前まで鴉田と会話をしていた鼠川は彼の行動に驚かされる。


「今日の放課後、どうよ?」


「なんだ一体……頭でも打ったか?」


「お?ビビってるんすか?ビビってるんすか?」


 馬鹿にしたような顔で鴉田は煽る。

 陸島はその煽りに校舎までの足取りを変えずに進む。


「俺に負けたくないからってそういうのどうかと思うぞ?」


――なんだこいつ


「やめて鴉田君。死んじゃうよ」


「そーですよ。バカな真似は止すんです!」


 声を聞きつけた相原と流山が陸島達の所に向かってくる。


「なんだ一体?何の騒ぎだ?」


「決闘がどうこうって聞こえましたけど?」


 更に蛇島、燦央院登場。

 陸島の周囲は騒がしくなる。


「で、どうなんだよ陸島さんよ?」


 スマートフォンを操作しつつ、鴉田は企みのある顔で問う。

 陸島は自分のスマートフォンが震えたのを感じて、手に取って画面を見る。


(これは……)


 気だるげにスマートフォンを操作して画面を動かす。

 内容は鴉田から送られてきた決闘の内容。しばらくそれに目を通し続ける。体はじっとその場に根を張るように固まっていた。


「……いいだろう。お前がどんな姑息な手を使おうが知った事か」


 スマートフォンから視線を鴉田に向け、陸島は笑う。

 その表情は面白いものを見て笑っている顔。鴉田は確実な一歩を踏みしめた気持ちになる。


「よしよし。じゃあ指定の場所でな」


「本当に大丈夫なの?魔術道具だってそんなに強いのを貰ったわけじゃないんでしょ?」


 近づいてきたのは鼠川。

 彼は周囲のこれからの出来事を不安視する視線の群れと同じ目の色をしていた。


「なら教えてやろう。この俺が数日間何をしていたのか。そしてこの俺は――」


 右手広げ、を高く周囲に見せるように上げる。

 その時だった。世界が答えたのは。辺りに流れが生じ、音が響く。


「これは……!?」


 鼠川はその流れを肌で感じた。

 風の音を。流れゆく風の音が大きく、そして強くなるその瞬間を。


「俺だってウォーロックだぜ。今こそ修行の成果を見せてやんよ。見ろ陸島!この風の力を!この俺の力を!!」


 強き風が横に吹く。


「これは……!」


 先ほどの態度から一転し陸島は刀を持っていなかったが、敵を撃たんとする態勢に入る。

 が、これが鴉田にとって間違いだった。


「キャアアアアア!!」


「え?」


 陸島は声の方をした方を見る。

 鴉田は吹きすさぶ風を起こした自分に酔っているのか、悲鳴には気づかない。

 で、声がした方を見るとですね、 必死にスカートを抑えている女性陣の姿が見えた訳です。


「あ、あわわ……」


 心臓をバクバクと鳴らして鼠川は目を抑える。でも頬は真っ赤。

 近くにいた蛇島も固まって顔を真っ赤にしてます。


「鴉田ァ!」


 大声で叫んだのは赤い顔した燦央院。

 内股で必死に抑えながら彼に近づいて力のこもった拳骨を叩き込む。


「あいたぁ!!」


 風は止む。

 鴉田がそして周囲の状況を理解する。


「……あ」


「さて、陸島との決闘の前に少々お覚悟を」


 指をポキポキ、オーラ全開。

 ぼろ雑巾待ったなしのこの状況。


「フロウ。おいで」


 沈んだトーンの声で静かに大蒲を呼び出す流山。

 双方ともに死体を一つ作る勢い。


「あ、ああえっとだな。今のは事故でーす!!」


 全力でその場を逃げ出す鴉田。

 死にたくない一心で彼は校庭を駆けだす。


「にがすかぁぁぁぁぁ!!」


 キレた女子二人、鬼神のごとき怒りを纏いて追跡。


「うおおーっ!!アアァァァァイッ!キャーーーン!!フラァァァァァァイッ!!」


 鴉田、天空に飛ぶ。

 全身に風のエネルギーを纏いて今、彼は自由の翼を広げたのだ!


「え!?嘘!?」


 流山は天高くイカロスのように飛ぶ鴉田の姿に衝撃を覚えた。


「ばかな……あんな芸当がもう?!」


 燦央院もまた驚きに固まる。

 彼女は風の魔術に詳しいわけではなかった。


(風の魔術は詳しくはない。でもあの魔術の、魔力のコントロールがあそこまで上手くいくものなの?)


 しかし魔術に関しては当然ある程度の知識を有しており、魔力のコントロールといういずれもの属性でも必要とされる技術からの視点より見れば高等な技を見せていると理解したのである。


「そういうわけだ。フハハハ!!」


 天高く舞う鴉田。

 追うもの達の見上げる視線に悦を覚えたのもつかの間、突然の攻撃に彼は落ちる。


「え?」


 ヒュー……ズドン!


(いたぁ!!な、なんだ今の!?攻撃なのか!?)


 全身を地面にぶつけて彼は転げ落ちる。

 体が地面に落ちたのは間違いなかった。


「さて、今の状況を説明してもらおうか?」


 ピリピリと既に戦闘態勢でその手にマギアブレードを構えて登場するのは鴉田のパートナーである外崎菖蒲。

 目が死んでいるが、全身から獲物をしとめる殺気を起こしていた。


「あ、ああいや違うんすよ!?陸島が俺の決闘受けてくれる気配無くてね!!それで――」


「問答無用」


「え?ちょっと待って。後ろの二人も。ほら、今のは事故で第一、俺が見えてなかったからノーカウントで」


「死ね!!」


 流山、フロウによる体当たり。


「ぎゃあ!」


「そこ!」


 燦央院、飛ばされた先で静かに構えてアッパー。


「ぶは!」


 宙に浮いたバカを外崎が飛んでかかと落とし。


「げはっ!!」


 こうして出来上がるのが、ボロ雑巾です。


「よし、もうワンセット」


「待ってやめギャアアアアア!」


――だめだこりゃ


 合同処刑会場を背にして去ろうとする陸島。


「待って」


 それを止めに入ったのが相原。


「なんだ。決闘なら受けるさ。止める権利は」


「今見たよね」


「……はい?」


 鴉田のアホなデモンストレーションの際、陸島は悲鳴の方を見ていたのだがこの時に相原と視線が合っていたのだ。


「見えたよね。あの場所からなら」


 リンゴのように真っ赤に染まった表情で膨れた面で陸島に怒る。


「だったらなんだ馬鹿馬鹿しい」


「むー……」


 丸くなった頬で怒る相原。


「チッ。わかったよ。今日の決闘でアイツを血だるまにしてやる。それでいいだろ」


「……グスッ」


「あーはいはいコッチガワルカッタ」


 泣き出す相原にやさぐれ状態で謝る陸島。

 無論、そんな謝罪で彼女が陸島を許すわけなく――


「バカーッ!」


 ばちこーーん。

 渾身の平手打ちが炸裂。相原は泣きながら教室に戻った。


「あだだ……ったくあの野郎」


 頬を抑えながら陸島は元凶の方を向く。

 三人の女子の足元には赤いボロ雑巾が一つ転がっていた。


「……こりゃ決闘無理だな」


 その場をそそくさと去る陸島。

 しばらくして届いたメールより。


――今日申し込んだ決闘、明日にしない?


 鴉田からだった。


――あいわかった


 陸島はこれに返信。

 かくてウォーロック対ウォーロックというまだ見ぬ対決は明日に持ち越しとなった。


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