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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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63/123

11-4

――随分と腕を上げているな。あの日から


「なに?」


 世界の方から置き去りにされたような感覚が胸に残りながら、陸島は辺りを見る。

 昼の太陽が昇る、そこは森の中に作られた車くらいなら通れる一本道の真ん中。


「いつの間にこんなところに――」


 はっとした。

 その風景には見覚えがあった。

 大切な人たちと別れることになったその場所を。


――思い出したようだな


「……何の真似だ」


「お前の腕を褒めているだけだ」


 前方に黒く、線のように細い群れが人影を陸島の前に作る。


「さて、腕はあるようだがお前はそれで真実にたどり着けるかな?」


「何が言いたい。回りくどいのはもうごめんだ」


 いつの間にか、手に握っていた刀を抜刀してゆらめく影に向ける。

 陸島はその間、掴めない好機に苛立つようだった。


「ああ、そうだな。初めて我がお前に火を、覚醒の火を焚べた時から見てお前は魔術を行使できるようになった。それは確かだ。いずれお前は我が魔術を受け継ぐものなのだ」


「我が魔術……?」


「そうだ。鉄の魔法だ」


 影は笑いながら答える。

 陸島は鉄の魔法という単語に思案を巡らせる。


(鉄の魔法……?聞いたことあるような気がするが。そうだ思い出した)


――鉄の魔法というのがあります。これは昔から属性魔法の一つなのですが、今は学校では教えておりません。というか使える人がいないのです。呪われている魔術で行使するとなれば当事者に多大な負担、それどころか死んでしまう可能性を秘めているのです。なのでもし使う機会があったとしても使ってはいけませんよ?まあ、使うにしろ方法がないのであれば使えませんが


 大地の魔術の担当教師である谷崎が以前授業中に語った鉄の魔法に関する内容。

 使う人間を狂わせ、殺すというロクでもない魔術。陸島がその概要を聞いた時、興味と落胆の入り混じった感情に支配されていた。


「ああ、そう怪訝そうな顔をするな。お前にとって悪い魔法ではない。資格ある者が少ない魔術でな。ウォーロックであるお前なら制御が可能だ」


「本当か?」


「本当だとも。鉄の魔法はいずれお前にとって役に立つ」


 影の声はどこか暗い雰囲気があった。


「それを身に宿し、悲しみを断ち切ってほしい」


「……お前、俺に何を望んでいる?」


 都合のいい話。

 それが陸島が影との会話のやりとりで感じた一番の感想。


「望みがあるのなら、まずお前を苦しめる過去の悲しみを断ち切り……そして全ての悲しみを断ち切る。それが望みだ。人の闇を、悲しみを一番に知るウォーロックであるお前にしかそれはできないのだ。お前の力と成長に期待している。どうか鍛錬を止めないでほしい」







「……あれ?」


 むくりとベッドから起き上がる。

 陸島が首を回して周囲を見ると、そこは男子寮にある自分の部屋。


(またか……アイツは結局誰なんだ?たまにあーだこーだ言って消えやがる)


――全ての悲しみを断ち切ってほしい


(あの言葉……どういう意味だ?)


 机の上に向かい、そこにあるプリント群を手に取る。

 それは組織に関する資料。陸島の予想ではここに大事な人たちを殺したヤツが潜んでいる……そう睨んでいるのだ。


(これ読んでたせいで遅くまで起きてたんだっけか。全部を読めたわけじゃないが、多分ここにいるはずだ。家の事と言い、魔術といい。あの日の事をもう少し思い出せれば――)


 ふと視線を時計にやる。

 時刻は午前八時を回ろうとしていた。


「……やばい!!」


 遅刻になりかけている状況に気付くと何か強い打撃で殴られたかのような衝撃が頭に走る。

 すぐに寝間着から制服の学ランに着替え、荷物を整理して部屋を出る。

 既にほかの三人は出ているようだった。


「珍しいこともあるもんだ。俺としたことが……!」


 寮の玄関を出て学校に向かう。

 足取りはいつも通りだったが焦りが見えた。







「珍しいなーアイツがまだ来てないなんて」


「変なのに絡まれたのではないかね?性格があれだし」


 一方、鴉田と蛇島の二人は八時を過ぎても姿を見せない陸島に珍しさを覚えていた。


「何があったかはわからんが、これってもしや異変の前兆?」


「かもしれんな」


 蛇島は机の上で手に本を持って、本から視線を動かすことなく蛇島と会話する。


「何読んでんだ?官能モンか?」


「魔術の本だ。ぶんなぐるぞ」


「へいへい。決闘の日は近そうですね」


「いや、まだだ。戦いのイロハをしっかり身に付けなくては。ヤツは手ごわい。それは間違いないんだ」


 視線はそのままに蛇島は会話を続ける。

 声色はずっと硬いままで。


「そういや昨日陸島に渡したあの茶封筒、何?」


「あれは俺じゃなくて吉川さんが渡したものだ。中身は……多分組織関係だろう。彼の復讐に関係しているらしいが、詳しくは知らん」


「組織ねえ。どんな連中なんだろうな。お色気全開だったらお前勝ち目ないぞ?」


「よしわかった。一発行くぞ!」


 遠くから、蛇島が宙に浮くさまを見て外崎と流山はやれやれとという目で見ていた。


「アイツはあれがデフォルトなのかい?こないだの稽古も終始あんな感じだったし」


「うえー……外崎さんびんぼーくじって奴ですよそれ。アタシだったら三回は潰してます」


「三回で済むのかい?」


「……やっぱ五回で。それであのアホウはどうなんです?」


 陸島とは違うベクトルで関わりたくないオーラをむき出しにしている流山。

 それに対し、顔色を変えずに外崎は鴉田の魔術修行について語る。


「呑み込みが早い。魔術道具もいい感じだね」


「ほほーう。腕前は確かってことですか。ところで魔術道具って何買ったんです?というか買えました?」


「それは内緒。近いうちに披露するさ」


 がらりと教室のドアが開く。

 汗をかいた陸島が教室に入り込んできた。時計の針は朝のホームルーム開始一分前。


「ケッ。来やがりましたか」


「珍しいね。いつもはもういるのに」


 周囲の奇異な視線を感じながら陸島は自分の座席に着く。


「もう大丈夫なの?」


 陸島の近くに座っている相原が声を掛ける。


「ああ」


 その言葉だけを陸島は返す。


「任務は……大変だった?」


「ホームルーム始まるぞ」


「あ、うん」


 時間のせいか今日の会話はあまり続かなかった。

 しかし相原はどこか笑っていた。余裕が本当に少しだけだができ始めていた。


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