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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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62/107

11-3

「それじゃあいよいよ魔法の練習……とその前に」


 食後、屋敷の二階にて個人授業を受ける。

 なお、講師は吉川が務める。


「炎の魔法というのは敵を燃やしたり、熱を与えたりとその名の通りに荒々しく強い力です。迫りくる悪意を根本から焼き尽くす魔術……それが炎の魔法なんですよ」


「聞いた限りでは他の三つの属性に比べて、一番危ないイメージですね」


「ええ。組織の魔女にも使うものはいます。しかし炎使いが炎を恐れるというのはお笑いというものです。蛇島さん、炎を恐れぬ覚悟はありますか?」


「はい。あります!!」


 元気のある返事に吉川は笑う。


「では講義を続けますね。教科書の――」


 しばらく授業は続いた。

 炎の魔法について。何ができるのか?どんな特性があるのかを。

 授業後、休憩を挟んで地下にある魔術の修行を行う修練場にて。


「終わったようですわね。どうでした授業は?」


「ああ、とにかく鍛錬あるのみだということかな」


「よろしい。吉川」


 燦央院は近くにいた吉川に視線を向ける。使用人の吉川は手提げかばんから何かを取り出すとそれを蛇島に手渡す。


「これは……?」


「トンファーですけど?」


「いやそうじゃなくて!何故トンファーが僕の手に!?」


「ああ、それ私が選んだんですよ」


 前に出たのは吉川。

 彼女は得意げに笑う。


「はあ……それでこれで戦えと?」


「ええ。戦いに赴くのであればそういったものは必要でしょう。素手じゃ厳しいというものです。そこで吉川に相談してそれを使っての訓練を行うと決めたのですわ」


「蛇島さんは空手の経験があると聞きました。であればトンファーは余計かもしれません。しかし――」


 吉川もまた、トンファーを握りしめていた。

 そして炎をトンファーに纏わせて、蛇島に見せる。


「このように道具として、時には盾として使えるんですよ。制圧するための使い方が主になりますね。最初は打撃や火炎による防御などが基本ですが、将来的にはもっと強い技も使えるようになりますよ」


「お、おお……すごいですね。あの、質問ですが」


「なんでしょうか?」


「この籠手の件ですが」


 蛇島はジャージの下の右手に付けられた籠手を二人に見せる。


「これは武器じゃないんですよね?」


「ええ。最初はそれを付けた状態でしばらくは稽古や練習をしてもらいます。こちらで問題ないと判断したら外していただきます。お嬢様、それでよいですよね?」


「構いませんわ」


 燦央院は頷く。


「それじゃあ基本の構えから。行きますよ?」


 横に並んだ吉川のポーズをぎこちなくマネしながら蛇島はトンファーによる戦いのレッスンを受け始める。

 日曜夕方まで蛇島は燦央院の家で修行を続けていた。行っていたことは三つ。

 一つ目に魔法に関する座学。二つ目に肉体を鍛えるための運動。三つ目には実践のための稽古である。


「いやあ、この三日間でラッキースケベイベントが一度も発生しないとは意外でしたね」


「いきなり何を言ってるんですか?」


 特訓の終わりとなった日曜夕方。

 吉川の運転する車に乗せてもらって蛇島は男子寮に向かっていた。その途中で吉川はひょうきんなことを言い出したのだ。


「考えてみてくださいよ。若い男女がひとつ屋根の下で暮らす。どう考えてもハプニング待ったなしじゃないですか」


「あったら今頃、僕は死んでますよ」


「大丈夫です。お嬢様は無益な殺生は致しません。よくて半殺しでしょう」


「半殺しって……」


「それともお嬢様ではなく私に興味津々ですか?」


「それはないです」


「即答!?」


 自分の容姿に自信はあった。しかし即答が自信を切り裂いた。

 そんなこんなで車は男子寮の近くに止まる。


「それにしても蛇島さんは呑み込み早いですね。魔法の制御と言い、稽古と言い。若いっていいですね」


「いや若いって……吉川さんも若いじゃないですか?」


「そうなんですけどね。でもそれ以上に若いっていうのは羨ましい限りなんですよ。男子高校生と自信ありげに付き合ってもいいってのが。魔女としての使命の為に、この島で女子高同然に青春を過ごした。この意味が分かります?」


 言葉から重みを感じた。吉川の表情が暗く重く刺さる。

 


「あ、ああ……そうですね」


「どうしてうちの代にはウォーロックが来てくれなかったの……ぐすん」


「そ、そのうちいいことありますよ。あ、送迎ありがとうございました」


 蛇島はお礼を言いつつ、ガチャリと車のドアを開けて男子寮に入る。

 吉川も続いて男子寮に入る。


「いや何で!?」


「何でってここの空気を吸って少しでも若い男のエネルギーを――」


「やめてください色んな意味で」


 吉川みどり、二十六歳。

 ハイスクールが舞台のラブコメディ漫画のような青春に今も憧れる大人の女。


「というのは冗談でしてね。これを届けに来たんです」


 吉川の手にはA4サイズの紙が入る茶封筒が。厚みからして十数枚の紙が入っていることがうかがえる。


「え?ああ、どうも」


「いやあなた宛てじゃないですよ?」


「え?」


「え?」


 玄関に沈黙が流れる。


「じゃあ誰あてなんですそれ?」


「俺だ」


 玄関に現れたのは、鴉田だった。


「お前か。いったい何を頼んだんだ?」


「この島で俺が交際可能な女性のリスト。範囲は十四から二十六までで、未亡人可能で調べてもらった」


「はい?」


「違いますよふふ、これはあのハハハ!」


(ツボってるー!?)


 

 鴉田の突拍子もない言葉に吉川は笑いをこらえ切れなかった。


「じゃあその封筒には何が入ってるんです?」


 返事がない。

 まだ笑っている。


「なんなんだ一体……」


「来たか」


 階段より降りてきたのは陸島。

 相も変わらず誰にも冷たいクールな表情で蛇島たちを見る。


「陸島……この封筒を頼んだのはお前か?」


「ああ」


「何が入ってるんだ?」


 鴉田は興味津々なのか会話に混ざる。


「お前らには関係ない。吉川さん。それをこっちに」


「はいどうぞ……ふふ」


「なにを笑ってるんです?」


「気にするな。鴉田がアホなこと言い出しただけだ」


「なんだと!?『俺の性癖にかなうやつリスト』の何がおかしい!!お前自分には燦央院さんと吉川さんがいるからって高みの見物決めてんじゃねえ!!」


「あーうん。そうだな」


 ばかばかしさに飽きたのか、蛇島はテキトーに返す。


「こいつ……認めやがった!」


 玄関先で始まるバカコントをスルーして陸島は封筒を手に二階に上がる。


(さて。俺の欲しい情報はあるのやら――)


 受け取った茶封筒に期待しながら彼は部屋に戻った。


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