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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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61/128

11-2

「そうそう、面白いお知らせがあるのよ」


 にっかりと笑う三田川。

 顔が話したくてうずうずしていた。


「……で?なんですか一体?食事中に」


 静かに食事をしたがる陸島であったが、その表情と向ける視線が止むことはなかったので聞くことにした。


「蛇島君ね、泊まり込みで昨日から修行しているのよ。どこでだと思う?」


「さあ」


「もう、ノリが悪いわね……なんと燦央院さんの所よ!!」


 子持ちの女性である三田川であるが、その瞳を若々しくキラキラと輝かせて語りだす。


「おとといの夕方ね。燦央院さんが男子寮に突然来て蛇島君を呼びつけたの!そして荷物纏めて明日から家で修行しなさいって言いだしてきっと今頃は二人きりで修行……キャー!!」


 年甲斐もなくはしゃぐその姿に陸島は引いていた。


「僕も驚いたけどね……蛇島君、飲んでたジュース吹き出して『古典的なギャグかますな!』って鴉田君がジェラシー全開で突っ込みいれてさ。それで昨日から修行してるみたいで――」


「静かに飯食わせろ」


「……はい」


 縮こまる鼠川。

 『やれやれ』とため息を吐く三田川。陸島の食事の時間の合間、静寂が流れる。


「あーそうだ。外のプレハブ小屋見た?」


「あれですか」


 後から来た鴉田も含めた食後、しばらくリビングで休憩をしていると三田川が陸島に語り掛ける。

 ちなみに鴉田は食べ終わったのちに食器を片してプレハブ小屋に向かった。


「大したものよねえ。ああいうの用意しちゃうなんて。お金持ちの家なのかしら?」


「あれって魔術師の特権とかじゃないんですか?」


「ええ。あれどうにも自分の力と島の人たちに頼んでやったっぽいのよね。魔術結晶といい何をする気なのかしら……」


 うーんと首を傾げる三田川の近くで陸島は食後のコーヒーを自分で用意して無糖で口にする。

 鼠川は窓の向こうに見えるプレハブ小屋を見る。

 


「そういえば何か作ってましたね。護符とかかなあ」


「初歩的な魔術道具ならそういうのだけど……改杖作りかも」


「カイジョウ?なんですそれ?」


 鼠川は初めて聞いたその単語に興味を示す。


「通常の杖に刻印や護符などを仕込んで強化した杖ね。エンチャント・ステッキのほうが良いかしら?」


「うーん……魔術師とてはエンチャント・ステッキの方がいいかも」


「決闘でもする気か?馬鹿と眼鏡で」


 ぼやく陸島の言葉に鼠川と三田川は互いに視線を合わせる。


「ってことは鴉田君対蛇島君ってこと?それはそれで見物ね。何せウォーロック対ウォーロックだもの!」


「ああ、そういえば二人ともよくくだらない事でケンカしてたなあ。それに互いの修行の成果をそこで見せるんでしょうね」


 ウォーロック対ウォーロック。

 実現すれば、玉之江島史上初の戦いとなる。


(俺には正直どうでもいいことだが……あるのであれば、見学はしてみるか)


 浮かぶコーヒーの煙を見つつ、陸島はその決闘に興味を示していた。







「ほら、腕立て伏せ後二十回!!」


「あ、ああわかってるよ」


 一方、朝早くから汗水たらしてトレーニングルームで修行に励む二人の姿があった。

 一人はジャージを身に包む燦央院百合香。もう一人は汗を垂らして腕立て伏せに挑む蛇島光。

 上半身裸で右手に魔力制御の籠手をしていた。


「それが終わったら腹筋。休憩後にランニング!いいですわね!」


「わかってる……わかってるから」


 中学の頃は警察に務めている父に影響されて空手部にいた蛇島光。

 運動経験はあるものの、燦央院百合香が用意したトレーニングは想像以上に過酷だった。すでに彼の筋肉は悲鳴を上げていた。


「いいですか?強い魔法を使うにしろ、戦うにしろ体力は基本ですの!強い魔法だけ覚えていればいいなんて考えは脆弱!!肉体を磨いてこそ一流の魔術師なのですわ!!」


「ああ、そうだな」


 蛇島が燦央院家が玉之江島に持つ屋敷に入った初日。

 彼はまず今後の予定について聞かされた。昨日から日曜夕方までトレーニングを行い、その後は放課後に毎日特訓をするという。また土日が来れば今日のように修行に明け暮れるとのこと。


(自分で頼んでおいてなんだがきついぞこれは……!)


 この修行の発端はほかならぬ蛇島。

 陸島と燦央院の決闘を見て自分を鍛えたいと燦央院に告げたいと申したのがすべての始まりだった。


「貴方は魔法の制御も上手くいっていないし、体力も運動をここ最近していないからない。今必要なことは基本ですわ!」


「う……ぐう」


 二十回目の腕立て伏せが終わり、彼は息を切らして床に寝そべる。


「よし。次は腹筋!」


「あ、ああ――」


 だらりとしながら仰向けになって腹筋の構えを取る。


(待ってろ……!いずれはお前に届いてみせるぞ陸島!!)


 苦しみの中で笑みを浮かべる。

 いつか届かせるその汗ばんだ手に誓いを立てて。修行の時間は過ぎていく。


「そういえば鴉田君が何か企んでいるようですが貴方何かご存じありません?」


「え?いや特には」


 時刻は昼を迎え、二人は食堂にてテーブルの上にずらりと並んだ料理を食べていた。

 蛇島は最初その量に圧倒されたが、全部食べる必要はないと言われたので必要な分だけバイキングのように手を伸ばして食べていた。

 一方、燦央院も小名使用にテーブルの上に並んだ鶏ささみのソテー、トマトサラダ、魚の煮つけなどの様々な料理を次から次へと食べていた。


「……食べすぎじゃないかね?」


「大丈夫ですわ。しっかりとした食事はアスリートの基本と言います。それをベースにして私は体つくりに励んでますわ」


「体力……か」


「ええ。覚えておきなさい。あなたがもし組織や悪い魔女と相対することになれば体力は必要です。魔力も大切かもしれませんが結局物言うのは勝とうとする意志と体力。それなしで任務はこなせませんわ。ああ勿論、魔術もですわね」


「わかった」


 それはそれとして燦央院の食事量が気になる蛇島。

 もうすでに三人前は平らげている。


(凄いな……あれだけ食べて動けるというのか)


 肉料理、魚料理、野菜料理それぞれをしっかりとバランスよく食べつつそれでいて量も多い。その間彼女はペースが緩むこともなく、皿を空っぽにし続けていた。


「……さっきから何見てますの?」


「え?!ああいやえっと……デザートとかでも出るのかなと」


「ああ、それなら心配いりませんわ。家が製菓会社経営してますから期待しなさい!」


「お、おお……」


 とっさの出まかせで知った事実。

 そしてデザートは別腹と言うのは本当らしく、蛇島は後に出されたスイーツに舌鼓を打った。


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