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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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6/134

1-5

 食事を終えて休憩をはさみ、両者が雑談をしつつゆったりとしてしばらくの時が流れる。

 玉之江島内の街は月明かりに照らされていた。


「さっきの時間、女の子たちと何か話をすればよかったのに」


「それはいいから情報を頂けませんか?」


「あらあら……それじゃ、お茶でも飲みながら話をさせてください」


「いいですよ」


 待ちに待った時が来たとにやけた陸島の顔は物語っていた。

 校長はリビングのキッチンにて紅茶の準備をしていた。


――ついに事件に近づける。あいつらを殺した連中の情報が


 テーブルの対面に座った校長の前で陸島はわなわなと震えていた。

 辺りには紅茶、アールグレイの香りが立ち込めだす。


「ところで、どうですか?到着して二日目じゃこの島には流石にまだ慣れませんよね?」


「ええ。色々と」


 その時、リビングに甲高い音色が響く。黒電話の着信音だった。


「なんだ?」


「ごめんなさい。私の電話ですね。ちょっと失礼しますね」


「どうぞ」


 陸島は校長に電話に出たほうが良いと促す。スマートフォンを手に彼女は電話に出た。


「もしもし……えっ!?今、なんて……そう――」


 驚きの声を上げ、校長はしばらく話し込むと電話を切った。


「何かトラブルですか?」


「そうみたい。……ごめんなさい。資料は後日データか紙媒体で渡してもいいかしら?」


「いいですよ。約束してくれるのなら、急ぎはしませんので」


「ありがとう。それじゃあごめんなさい。それと――」


 去り際、校長は陸島にこう言った。


「逆奈義家には気を付けてください。関わるのはおすすめしません。もし近づいてきたら逃げることをお勧めします」


 そう告げた後、校長は申し訳なさそうにその場を去っていった。

 一人残った陸島は校長が用意した紅茶を飲んで溜息を吐く。


(お預け……か。まあいい。急ぎ手に入れたとしても、この島にいる以上は何かができるとは思えないしな)


 空っぽになったティーカップの底を見つめ、思案を続ける。

 近くを通る車の音が聞こえ、陸島は窓から道路の方を見た。


「魔女と警察が手を組んで捜査して……未解決となっているというのなら尚更だよな」


 窓の外の暗闇に目をやる。既に時刻は夜の九時を過ぎ、さらに夜の闇が広がろうとしていた。


(門限まで時間はあるし……アレでもやるか)


 すっと立ち上がると彼は自室に向かい、二つを手に取った。

 一つは日本刀。もう一つは十手。


(この十手は……まあいいか。お守りにはちょっと大きいが持ってると落ち着くというか……)


 十手をカバンに入れて、日本刀は紺の竹刀ケースにしまうと彼は外に出て山の方に向かって歩き出した。


「部屋で振るうには狭いし……道を覚える意味でも今日は裏山に行ってみるか」


 寮の隣には道があり、それは片方は街へ、もう片方は山の方に通じている。

 陸島は山の方へ足を向ける。


「こっちか?」


 校長のとのやり取りの合間に聞いた話をもとに、陸島は寮の裏手にある山へ登る。


――広い場所ですか?それならこの男子寮の裏手の山ですかね。そこに祠があるのですが。ええ。道なりに歩いていけば階段があるのでそこを上った先ですね


 外は既に真っ暗闇ではあったが、点々と設置された街路灯のおかげである程度の視界は確保されており、山の頂上への道は灰色のコンクリートでうねる蛇のように舗装されていた。


(多分この先だろうが……どこだ?)


 その道を歩き始めて右に左に曲がって上ると、一台の車を陸島は視界に捉える。


「あれは?」


 まっすぐに車に駆け寄る。車に黒く塗られているも街灯によって輝きを見せる。

 辺りに人の気配はない。


(なんだこれ?誰かいるのか――)


 車の止められていた近くには上り階段が設置されていた。

 階段の向こうからは淡い閃光が見え、陸島の耳は何かがぶつかる音を拾った。


(今のは?)


 片手に握っていた刀に自然と力が入る。

 強く脈打つ心臓の鼓動。


――この奥で何が起きている?なんだ?


 疑問と鼓動が足を動かして一段、また一段と階段を上る。

 階段を上ったその先に……数人はいた。


(あれは……確かさっきの三人の中にいた一人か?)


 陸島の視線の先にいたのは黒髪のツインテールの少女、相原紫苑。


(なんだ?あの集団に追われてるのか?)


 相原紫苑は息を切らしながらもその手に木製の杖を握りしめていた。

 向けた先には一人の少女。黒のセーラー服を身に包んだ相原と同じくらいの背丈で黒髪の少女がいた。

 その周囲には黒いスーツを着た大人が数人。女性もいれば男性もいた。


(囲っている周囲の連中は……何者だ?)


 構えた大人たちの中心で二人の少女が話を始める。


「もういいでしょう?お姉さま。私の……いえ、我が家の魔女として勤めていただけませんか?」


「それは……できないの。逆奈義さんの家には行かないって決めた」


「どうして?」


「貴方は私の友達を傷つけるから」


「私とその仲間たちが新しい友達になってあげるってさっきから言ってるじゃないですか」


「ダメ。そんな人の家には行かないって決めてる」


「……へえ」


 黒髪の少女の黒い瞳には力があった。魔術的なものじゃない。純粋な威圧を込めた瞳だった。


「あ、陸島君!?なんでここに!?」


「あら?」


 陸島以外の全員が陸島に視線を向けた。

 その瞬間に陸島は肌身で圧を感じ取った。


(こいつら……普通じゃないな?堅気ではないのか?)


 その集団は相原とその前にいた一人の少女を除いて全員が成人のスーツを着た男女で構成されており、陸島から見てそれが表の人間じゃないと理解できた。


(逆奈義……ああ、こいつらが噂の)


 陸島は校長の話を思い出した。


――逆奈義家には気を付けてください。関わるのはおすすめしません。もし近づいてきたら逃げることをお勧めします


 その逆奈義家が目の前にいたのだ。

 危険な者達との遭遇の最中、陸島の覚醒の時が静かに近づいていることを周りの人間は知らなかった。


「どなたですか?今はお取込み中です。後にしていただけます?」


「お嬢様。恐らくは例のウォーロックかと。黒の学ランを着ているのは現状この島で一人だけです」


 青空のように青い髪をした黒服の女性の一人が黒髪の少女に、逆奈義と呼ばれた少女に説明する。


「まあ……ウォーロックとは。汚らわしい」


「ずいぶんな物言いだな。男嫌いか?」


「そうじゃありません。貴方、何も知らないでしょう?魔女の事も、島の事も、私の事も」


「ああ、知らんな。お前が逆奈義って名前以外」


「貴様……」


 生意気な回答に澄み切った青空のような髪色をした女性が静かに怒りを見せる。


「別にいいわよ鈴井。こいつは……あなたに任せるわ」


「やろうってのか?」


 陸島は手に持った刀を居合の型に沿って持ち直す。

 その間に銃声が響く。


「な……!?」


 驚愕する陸島は否応なしに力の抜ける感覚を自らの流れゆく血と共に味わう。


「あっ……!?」


 本当に一瞬だった。陸島も相原も驚くしかなかった。

 鈴井の放った銃弾が彼の腹を貫いた。銃より硝煙の煙が静かに上る。


「ぐ……くそが……」


「大丈夫ですよ」


 ひざを折って痛みにこらえる陸島は逆奈義は笑いながら言う。


「私に逆らうとどうなるか、私に生意気向けるとどうなるか。教えてあげるというのよ。死にはしないわ。これでも私の家系、治療術に自信はあるから」


「そうかい……」


 息が荒れだすも、彼はその目から怒りが消えることはなく――


「どうせ元気になるならうれしいねえ!」


 うずくまった体制から地面を蹴り上げ、まっすぐに逆奈義のいる場所へと抜刀を繰り出さんとしていた。


「させるか!!」


 しかし逆奈義家の家来である黒服の男が斬りかかる陸島を後方から手際よく抑え込む。


「ふふ……そのまま抑えてて。死んでしまえば元も子もないから」


「やめて!彼は関係ないわ!!放して!!」


「じゃあお姉さま。私にお願いして。私のパートナーになるって。私の傍にいてくれるって」


 逆奈義の顔はにやりと笑っていた。薄く開いた瞳、大きく歪む口元。

 陸島は抑え込めながら呻き声を吐き出す。


「さあ!さあ!!私のモノになるって!そうしないとこの男、死にますわよ!!」


 悦に浸るその表情は陸島からも見えていた。

 彼の胸中に走るのは不快以外に何もなかった。はずだった。


――我の声が聞こえているな?

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