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その日は朝礼後、午前のみの授業で終わった。
授業といってもその日は教科書や資料などといった今後の授業内で使う道具の受け取りで終わったが。
なお、帰りのホームルームにて陸島は質問攻めにあった。
――ねえ、陸島君の家族には魔女はいるの?
――それ私も気になった!どうなの?
――ウォーロックって普通の魔女より強いって聞いたけど何か魔法が使えるようになって変わったことは?
――まだこれといってないでしょ
――陸島君は同性に興味持つタイプ?
(なんなんだよ一体……さっき変な質問混じってなかったか?)
うるさい質問の波が終わって、疲れを感じながら辺りを見渡す。なお、質問に関しては『知らない』と『わからない』で基本通した。
(普通の高校生活じゃないのは確かだが……)
自分以外が全員女子高生というのはどうにも精神的に何か参るものを感じられずにはいられなかったが。
(つっても高校生活そのものが初めてだから何が普通なのかって言われてもわからないんだよな)
席を立ち、荷物を纏めている最中に一人の少女が近づく。相原だ。
「あの……陸島君。今日この後なんだけど一緒に食事とか――」
「一人で食うからいい」
荷物を纏め終えると、陸島はその場からそそくさと立ち去った。
「あ――」
去っていくその姿を相原はただ見ているだけだった。
「むー。いくら何でも冷たいですよ」
先ほどのやり取りを見て流山が細めていた。
「……やっぱりこれだけ女の子多いと緊張とかしてるのかな?」
「いーや。それはないですよ。苛立ってるだけです」
「苛立ってる?」
「そーです。環境がどうこうといいますけどそれにしたって冷たすぎです」
「陸島君……孤立しないといいけど」
「そうならないためにアナタがいるんでしょ?話聞きましたよ。男性の魔法使いについてパートナー決めるって話。右も左もわからない彼に教えるとしたら、魔法が上手で優しい相原さんしかいないって先生方が職員室で言ってました」
「……うん」
しょんぼりとする相原にはっとなって流山が優しく声をかける。
「ダイジョーブです。私もしっかり支えますから」
「ありがとう。ツバキちゃん」
「えっへん」
一方、陸島は通学路の道を思い出しながら自転車にて帰り道についていた。
魔道学園に通う生徒は自転車を貸し出してもらうことができる。帰りに手続きをし、その自転車で帰路についていた。
(さて、夕飯を買いに行かなくては……)
スーパーに向かう途中、正面の方から一台の車が通る。日の光によって輝いている黒塗りの車。内側をなにも見せないブラインドの窓も合わさって、陸島の目から見てもそれが高級車であると瞬時に理解できた。
「な……っ!?」
その時だった。否応なしに自らの心臓の鼓動を強く感じたのは。
(なんだ……今のは?あの車に何かやばいやつでも乗ってるのか?)
すれ違って去っていく一台の車。方角からしてそれが高校に向かっていることは見て取れた。
「……今はいいか。多分強い魔女が乗っているのだろうけど」
流れた冷や汗を拭い、再び自転車を走らせて彼はスーパーを目指す。
食品を買って彼は寮への帰路に戻った。
その日の夕方。陸島が寮にて包丁片手に夕飯の支度をしていた時の事である。
「お邪魔するね」
「おいなんだいきなり――」
陸島の静止も聞かず、男子寮の共有リビングに女子が三人が入ってきた。
「ちゃんとした自己紹介がまだだったね。私は萩野玲。よろしくね」
自己紹介をした女学生は黒く長い髪をなびかせた同年代の女子から見れば背丈の高い学生、萩野玲。
残る二人は先ほど出会ったツインテールに髪を結んだ相原と小柄な女子の流山。
「あ、料理してるのですか?意外ですね……」
「ツバキちゃん、最近は動画とかで勉強してる人もいるんだから割と普通で――」
「文句あるなら帰ってくれないか?」
陸島の思わぬ怒りに女子三人はびくりと体を震わせる。
「な、なんですかいきなり――」
「待った。今のは椿ちゃんが悪い。でも陸島君もそんなに怒らないでほしい」
「じゃあ帰ってくれ。今すぐに!」
台所に拳を叩きつける陸島に相原は思わず縮こまってしまう。
「ふふ。女の子をいじめるのは感心しませんね」
陸島の後ろにベージュのスーツを着た老婆が立っている。
「なっ!?」
――バカな。いつの間に!?どうやって入った!?
逆手に包丁を構えた陸島は冷や汗を流す。
本当に瞬時に来たその者の存在に心臓の鼓動が否応なしに轟く。
「大丈夫ですよ。そんなに身構えなくても」
「こ、ここ……校長先生じゃないですかー!?」
やんわりとした態度を見せる校長の近くで素っ頓狂な声を部屋に響かせたのは流山。
陸島はその人を朝の集会で見たことを思い出す。
(校長……ああ、さっきの人か)
「ど、どうして……ここに?」
いつの間にかいた校長に相原も驚かずにはいられなかった。
「心配だったからです」
「心配?それは私たちがですか?」
萩野の問いに校長は首を横に振った。
「どちらかといえば陸島君ですよ。私も男の魔法使いを見るのは初めてですから」
「おい、どういう意味だ?心配ってなんだ――」
「陸島君」
突っかかる陸島に校長は静かに呼びかけて止める。
「今日だけは一緒に食事をしてあげられませんか?これからの苦楽を共にする仲間です。ここに来て色々と肩身の狭い思いやらをしてるでしょ?でもそれじゃあ貴方の目標にはたどり着けませんよ?」
「なんだと……?」
怒りに満ちた陸島の目つきに微かに揺らぎが見えた。校長はそっと近づくと彼に耳打ちをする。
「今日だけでいいです。後は貴方の気分次第でいいから。人を探してるんですよね?」
「何?」
「ええ。こちらでも探しているんです。三田川さんから話は聞いてますよ」
耳に届いた言葉はゆるやかに彼の怒りを抑えていく。
「……本当だな?それは」
「ええ。貴方の親しい人からも頼まれておりまして」
親しい人。
その言葉に女学生三人は顔を顰め、こっそりと会話を始める。
「どう思います?今の」
「うーん……いるとは思うよ。彼だって何かワケアリみたいだし。ねえ相原君?」
「……そうだと思う」
ぎゅっと手を握って相原は静かになった陸島の顔を見つめる。しばらくして陸島は三人の方に顔を向けた。
「いいぜ。そこのどこかの席に座れ」
「……うん」
認めた陸島にほっとして相原は首を縦に振った。
食事の時間は淡々と進んだ。陸島はスーパーで買った牛肉と野菜を炒めた物を白米と一緒に黙々と食べていた。先ほどのピリピリとした状況もあってか相原、萩野、流山は持ってきた弁当をこれまた静かに口に運んでいた。校長はというとやはり同じようにスーパーの弁当を食べていた。
「……なんか……静まり返ってます」
「ああ、もしかしたら陸島君は食事は静かに取りたいタイプの人なのかもね」
流山がリビング全体の静けさと淡々とした食事の風景に静かにぼやく。
萩野は陸島の食事をじっと見ていた。一方、相原は買ってきた鮭弁当を黙々と食べていた。
「シオンちゃん。いいの?何か話したいことあるんじゃ?」
「今はいいよ。ツバキちゃんも今は静かに食べてて」
「……うん」
――なんでこの男にあわせないといけないのだろう
テレビも点けられることもなく、ただただ静かな空間の中で流山椿はどうにもそれが気に食わなかった。
十数分後。食事を終えた五名のうち、女学生三人は寮に戻った。校長と陸島だけがリビングに残った。




