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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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4/123

1-3

(セーラー服を着てる女子……ってことはあれも魔女……なのか?)


 じっと視線の先にいる少女を見る。

 あどけなさの残る顔を持つ彼女の容姿は黒い髪を二つの白いリボンで結んでツインテールを作り、新品の紺のセーラー服を身にまとっていた。

 その服にはしわ一つなく、新品に見えたことから恐らく高校一年生ではないかと陸島は予想する。


(魔女というには管理人や先生と比べると弱弱しく幼いというか……まあいいか――)


 何より高校生にしてはどこか幼さがあった。

 そこまで見ていた時、じろじろ見るのもどうかと思って陸島は三田川の乗る車に戻った。


「あ、あの……」


「ん?」


 セーラー服の少女が陸島に近寄る。

 少女は怪訝そうな顔で陸島を見る。


「ひょっとして……転校生?」


「ああ。だったらなんだ?」


 陸島の返しには意図していなかった威圧があった。

 それに思わず少女は体をびくりとさせる。


「え、ええっと……明日でいいの。それじゃあね」


 少女はぺこりと陸島にお辞儀をしてそそくさと去っていく。


(なんだあいつ……?あれでも魔女なんだよな……?)


 不思議に思ったが陸島だったがその背中を最後まで見送ることなく、陸島は車に戻った。

 その後、陸島と三田川は男子寮に戻って作りたてのざるそばと天ぷらを口にした。


 時刻は既に午後八時半。

 三田川は『何かあったらいつでも駆けつける』と言って挨拶を済ませると車で自分が住んでいる家に帰っていった。夜の寮というのは静かで、その広さに反して一人きりというのはどうにも冷たいものである。


「……静かだ」


 寮の中の静寂が存在感を陸島に示す。一方で陸島は段ボールの群れのうちでまだ明けてない段ボールに手を伸ばす。


(護身用とお守りとしてこれを持ち出したのは……まあいいか。どうせ刀はいずれ蔵の中でホコリ被ってそうだし)


 開いた段ボールから二つを取り出す。

 一つは日本刀。刀は脇差ほどの長さを持ち、刀身は日々陸島が手入れをしていたのか錆一つなかった。


「こっちは……どうして持ってきたんだっけか」


 もう一つは十手で昔の日本、江戸時代にて権威ある役職が持っていた道具。

 十手を手に取って眺める。鉄製のそれは長さ五十センチほどで重さはそれなりにあり、鉤の部分に至るまで錆はなかった。持ち手には黒い紐がぐるぐると巻かれており、紐は切れかかっているというよりは擦り切れている個所が所々にあった。


(こいつが皆から最後に貰ったプレゼントだっけ。なぜ俺はこれを欲しがったんだろ?)


 十手というのは武器ではない。というと語弊がある。鉤状の部分に刀を受け止めさせて攻撃を流すという役割がある。最も陸島はその形状を見て、そんなことできるわけないとは思っているようだが。


「まあいいか。飾るにしろ、お守りにはちょうどいい」


 筆記用具、ノート数冊と一緒に通学カバンの中に十手を入れる。


(……俺ももう高校生か)


 立ち上がって机の上に飾った一枚の写真を手に取る。


「俺、高校生になったよ。女子高みたいなところだけど。だから男子は俺一人でさ――」


 陸島は椅子に腰かけながら写真の向こうにいる人物たちに話をする。


「ああそうだ。次の大型連休もちゃんと墓参り行くから」


 そっと写真立てを置き、彼は再び部屋の整理に戻る。


(どんな高校なんだ?中高一貫でもあるって聞いたけど。いやそもそも魔女ってなんだ?本当にいるのか?俺は本当に魔法が使えるのか?)


 整理している最中、彼の心中は不安と疑問に渦巻いてあったがしばらくして部屋の整理作業とともに消え、そのままベッドに眠りについた。

 そして夜が更けて朝が来る。


「昨日はよく眠れた?」


「ええ。ぐっすりと」


 教師の早瀬が運転する軽自動車に乗って学校までの道中。

 他愛のない会話が車内に聞こえる。


「手続きとかはある程度住んでるからこの後に全校集会。皆、驚くと思うわよ?」


「そうですかね?」


「まあ噂はある程度は流れてるんだけど。なんかすごい転校生が高校の方に来るとかで」


「男だって知ったら驚かれますかね?」


「ええ。もう私は十分に驚いたけどあの子たちならもっと驚くんじゃない?奇声とかあげそうで」


「動物扱いですか?」


「そんなんじゃないわよ」


 陸島の呆れるように吐いた言葉に早瀬は渋い顔を浮かべる。

 曲がり角を抜けた先、その場所はついに見えた。


「国立魔道学園。それも高校の方ね。ちなみに中学校が少し離れたところにあるわ」


 車は校舎に入り、駐車場に止まる。

 陸島と早瀬はそのまま校舎に。周りには警備員の男性以外に人の気配はなかった。


「あれ?生徒は?」


「体育館よ。今集会やってるから」


「集会?」


「恒例のヤツよ。入学式終えた後は新学期だしまあ諸注意とかそういうの。さ、行きましょう」


 陸島は職員室にて手続きを済ませると、その足で体育館まで向かう。


(これは……思ったより緊張するな)


 体育館のドアの前に立つ。近くには早瀬先生がいた。

 そして一呼吸をおいてドアを開く。

 体育館の中は数百人の生徒が立ったまま並んでおり、その両脇に教師陣が陣取っていた。

 そしてステージの上では、年老いた女性が話をしていた。


「……さて入学してからまだ日も浅いですが、皆さんにお知らせがあります」


 その言葉に後ろを振り向いた一人の女学生は『あ』と声を上げて陸島を見た。

 それに続いて他の女学生も一斉に振り向く。


――え?えぇーっ!?


――うそでしょ?本当に?!


――でも意外といけてない?顔つき怖いけど


――サイアク。男で魔女とか


(まあそうなるな)


 どよめきはある程度予想はしていた。

 早瀬先生に導かれ、陸島の足取りはやがてステージ近くまで進む。


「珍しいでしょう。本国では珍しいウォーロック……男性の魔法使いですね。記録でも最後に確認されたのは遥か昔で皆さんはある種幸運だと思いますよ?こんなに若くて――」


「先生」


 嬉しそうに語る校長の早瀬の遮る声。校長先生は早瀬のあきれた瞳に自分を戒める。


「すみません皆さん。何分本当に珍しいことなので」


 年甲斐もなくはしゃぐ老婆の態度に教師陣、生徒達ともに笑い声が聞こえだす。


「えーっと……それじゃあ自己紹介をお願いします」


 校長の呼びかけに応じ、陸島は首を縦に振ってステージ上に上り、校長が使ったマイクの前に立つ。その間やはりというべきか、騒ぎ声が聞こえる。


「今日からこの高校に転校してきた陸島鉄明です。よろしくお願いします」


 そういってお辞儀をすると彼はそそくさとステージから降りる。

 『え?おわり?』というあっけなさに思わず声を漏らした女子生徒の声が響いた。


「ありがとうございます。それじゃあ陸島君はA組ですから、後のことは早瀬先生から聞いてください」


「わかりました」


 校長先生にそう言われた後、その後の朝礼は何事もなく終わった。

 一同は教室に戻っていった。陸島はその間にカバンを持って教室に入ってあたりを見渡す。


「座席、あそこだと思う」


 不意に後ろから声がした。


(……ん?こいつは確か、あの時の)


 スーパーに買い出しに出た時に見た黒髪のツインテールの少女がそこにいた。


「こんにちは。私、相島紫苑。よろしくね」


「ああ」


 挨拶をそっけない態度で返すとそのまま椅子に座る。


「あ、そういえば陸島君は自分の魔法適正ってわかる?」


「こっち来る前に大地の適性がどうこうってのは聞いてる」


「本当?じゃあ私と一緒だね」


 声が少し大きくなって嬉しそうに彼女は会話を弾ませようとする。


「それで何かあるのか?」


「え、ええっと……その……」


「もーっ!なんですか貴方は本当に!」


 二人の会話に何者かが割り込む。


「あ……ツバキちゃん」


 そこにいたのはウェーブのかかった長い茶髪の子。膨れた面が怒りをあらわにしていた。


「アナタもアナタです!もっと愛想よくできないんですか!!」


「愛想だぁ……?」


「あ、わかりました。アナタは所謂、根暗ですね?わかっちゃいましたよワタシ!」


 ぎゃあぎゃあと喚くツバキと呼ばれた彼女を見て陸島が一言。


「小さいくせによく吠える」


「なんですとー!?」


 実際間違ってはいない。彼女の身長は百四十センチ前後と彼女自身のコンプレックスにもなるほどの小ささ。

 でも人が気にしていることをバカにしてはいけませんよ。


「ツバキちゃん。もういいのよ。陸島君もそんなにカリカリしないで――」


「もーおこりましたよー!?こうなったら――」


「はいそこまで」


 さらに割って入ったのは教師の早瀬。


「流山さん。気持ちはわかりますがいちいち相手にしてたら疲れちゃいますよ?陸島君ももうちっと愛想よくしてね?女子ばっかで肩身が狭いとかあるかもしれないけど……大丈夫。精一杯サポートするから」


「そうですか。どうも」


 各々が席に着き、早瀬も教壇の前に立つ。


「さて皆さん。入学式が終わってこれからは中学と一緒で授業の一部に魔法が入ります。しかし陸島君はまだその辺り理解できてないと思いますのでそこは私たちと……そうね。席の近い相原さんがいいかも。魔法適正が同じというのもあるしね」


 早瀬の言葉に周囲がざわつく。


――じゃああの男のパートナー、相原さんがやるかもってこと


――やあねえ。不潔というか


――でも相原さんしかいないと思うわ。このクラスで大地の魔法適正と実力とか考えると


(適正ねえ。まあなんでもいい)


 周囲の悪口に似たざわつきを気にすることなく陸島はそれを受け入れる。


(ん?ちょっと待て。その名前って確か――)


 ハッとなって、視線を相原の座っている座席に向ける。彼女もまたこっちを見ていた。

 陸島を見つめるその顔は優しい笑みであった。

 一方で相原を見る陸島の目はどこか冷たかった。

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