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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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59/134

10-5

(さて、こうしちゃいられないな)


 陸島の負傷の知らせが届く中でも鴉田が魔術道具売りの二川から言われたタイムリミットは刻々と迫っていた。その間に鴉田は黙々と自身の目的を果たさんと日々魔術の修行と魔術道具の勉学に励む。

 今、自分にできるすべての可能性を模索するために。陸島鉄明に打ち勝つために。

 そして、その日は来る。


「で、何が欲しいか決まったかい?」


 放課後、ビルの一室にある二川不動産にて。

 鴉田春一は魔術道具売りの老婆、二川と椅子に座って向かい合っていた。二川はやれやれという感じであったが鴉田の方はまっすぐな目で二川をじっと見ていた。


「ええ、決まりましたよ。俺が欲しいのは結晶です。風の魔力が込められている結晶を指定したサイズで頂きたい」


「へえ。何をするをつもりだい?」


「こちらをご覧ください」


 鴉田は鞄からノートパソコンを取り出して開き、操作の後にそれを二川に見せた。


「これは……」


 二川は画面の内容をじっくりと見つめる。そしてしばらくして笑みを浮かべる。


「どうです婆様?これがアイツを倒すための計画書なんですがね……それで俺は結晶を欲しがってんですよ。ありますよね?これくらいのサイズなら」


「ああ、確かにウチに置いてあるねぇ」


 画面に映った鴉田曰く、陸島を倒すための計画書。

 それは魔術道具を長年やってきた二川に強い関心を示させる。


「面白い計画じゃないか。気に入ったよ。結晶ならこの計画の中で要求されている大きさでいいんだね?」


「はい。お願いします」


「じゃあちょっと待ってな」


 老婆はすっと立ち上がってオフィスの戸棚から指定されたいくつかの結晶をテーブルの上に置く。

 指定された結晶は縦に長く拳ほどの太さを持ち、いずれも紋様が刻まれていた。加えてエメラルドのような緑色の光を放っていた。


「これが魔術結晶……」


 鴉田はそれをじっと見つめる。

 瞳には好奇心が宿り、自然と彼の手は伸びて結晶の内の一つを手に取った。


「実物は初めてかい?」


「ええ、まあ」


「計画の方はうまくいくかい?」


「恐らくは。事前にテストというかシミュレーションはやってますので。あとは結晶を通してそれができれば万事オッケーかと」


「ほう。面白いねえ、お前さん」


「いえいえ。それじゃあこれらを受け取ったら今日は失礼しま――」


「二十万」


「へ?」


 突然言われた数字に鴉田は固まる。


「二十万だね。この量と大きさだと」


「そ、そんなにするんですか?学割とかは?」


「ないよ」


「な、なぜですか?」


「そりゃあ結晶ってのは作るのは簡単だよ。でもねえ、このサイズだとそのくらいはするのさ」


「……嘘でしょ」


 鴉田はその額に体が固まる。

 老婆はニカニカ笑っていた。


「計画は面白いと思ったよ。でもこれじゃあダメだ。何せ予算がかかる。というか道具に金がかかるって予想してなかったのかい?」


「あー……じゃあクレカとか使えます?」


「ああ、使えるよ」


 老婆はオフィスの机の上にある手持ちの会計用の端末を操作してそれをテーブルの上に置く。

 鴉田は財布からカードを一枚取り出す。


「一括でいいです」


「ほらよ」


 ぴっ……ぴぴっ。

 会計は滞りなく済んだ。


「いやちょっと待てぇ!!」


 二川は唐突にパニック気味に叫んだ。


「なんです婆様?どうかしたんです?」


「いやどうかしたじゃなくて!そのカード親のヤツじゃないだろうね!?」


「何言ってるんですか。自分のですよ」


 鴉田はカードの名前の書かれている個所を指さし、同時にスマートフォンにて自身の情報を老婆に見せる。

 それらを確認し、二川は鴉田の持っているクレジットカードが自身のものであると理解した。


「……こ、こりゃあ驚いたね。でもいいのかい?来月大変だよ?」


「問題ないですよ」


 鴉田はきっぱりと言って見せた。

 その折、クレカに刻まれていた名前とそのデザインを見て老婆はハッとする。


「まさかお前さん、あのベルウィンググループ先々代の社長の孫かい……!?」


「ああ、まあそういう事です。これはあのろくでなしの親からもらったもんですがね。まさかこんな形で役立つとは思いませんでしたが」


 どこか寂しそうに笑って鴉田はそのカードを見る。

 全体的に黒く、金色のデザインが施され、大きく羽ばたく鳥の絵が刻まれている自分の名前が入っているそのカードを。







「検査だと?」


「ええ。魔女機関が調べたいと申しておりまして」


 鴉田が目的の品物を手に入れている一方でベッドの上で体を起こしている陸島と椅子に座っている木下は陸島自身が入院している病室にて互いに目を細くして会話をしていた。陸島の頭部には白い包帯が巻かれている。

 時刻は既に夕方。病室に重い雰囲気が立ち込める中で、オレンジ色の世界が窓の外より見えていた。


「検査ってなんだ?」


「それが……精霊に憑かれているのではないかと話が持ち上がりまして。この機会にと機関がやろうとしているのですよ」


「精霊?」


「ええ。流山さんや燦央院さんを倒し、今回の任務でも遺憾なく発揮された実力――」


「任務の話はするな。腑に落ちない結果なんだからさ」


 不機嫌に陸島は木下の言葉を遮る。


「申し訳ございません。私がついていながら……」


「もういいさ。……それで機関は俺に何する気だ?」


「多分、魔力の流れとか魔術の使った時の反応を調べる気でしょうね。もしそれで機関の目に留まるようなことがあれば……」


「あれば?」


「しばらくは検査漬けでしょうね。向こうも貴重なウォーロック保護の名目で動くでしょう」


「そうなるとしばらくはシャバの空気が吸えないってか?」


「……はい」


 椅子に座っている木下は縮こまって苦々しい顔で答える。


「親父さんが手をまわしてると思いますが、それで向こうがあきらめるかどうか」


「面倒だな。こっちも何か策を考えないと……」


 陸島はしばらくベッドの上で考える。


――聞こえるか?我が選びし者よ


(ん?)


 陸島と木下しかいない病室で第三者の声が陸島に届いた。

 それは陸島に憑きし者の声。


――そのままでいい。聞け。恐らく機関の調査の目的は我だ


(何だと?ならどうする?)


――案ずるな。それならば対応はこちらで出来る。我を信じ、今は体を休めておけ


(休めておけってお前な……)


「どうしました?鉄明さん」


「……なんでもない」


 木下の声に引き戻されるような感覚を味わいながら、陸島は答える。


「検査なら多分どうにでもなるさ。もし俺がその検査に引っかかるようならその時はその時だ。それより、頼みがある」


「なんでしょうか?」


「コンビニとかで何か味の濃いものを買ってきてくれ。病院食、思ったより味が薄い」


「親父さんも似たようなこと言ってましたね。もしかして似てきましたかね?」


「それはない。血の繋がりもないのに」


 即座に返す。

 一つの事実と共に。それは木下の心に重い錨を下すが、すぐに彼は陸島に向き合う。


「……そうですね。鉄明さんくらいの年頃ならもっと味の濃いものが欲しいでしょうね。わかりました。買ってきましょう」


「頼んだぞ」


 木下は笑っていた。

 そして椅子から立ち上がって陸島にお辞儀をすると病室を後にした。


(ったくこうしている合間にも腕は落ちるというのに……はあ)


――仕方あるまい。あのような事態、我でも予想は難しいぞ?


(そうか。明日は信じていいんだな?)


――無論だ。お前は魔術の腕が落ちる心配をしているようだが、一週間であれば大丈夫だろう。休今は休みつつ、魔術書でも読みふけると良い


(だな。やみくもに動いても他のスタッフと患者に迷惑だ)


 近くの鞄から本を取り出し、目を通し始める。

 静養の最中でも彼は自分を磨くことを止める気はなかった。

 


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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