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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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58/107

10-4

「っていうのは冗談だ」


「紛らわしいわバカもん!」


 突如真顔になって返す鴉田に蛇島は怒りのツッコミ&鉄拳。

 転がる鴉田を鼠川は怪訝そうな目で見ていた。そんな時に突如怒りの気配を別方向から察知する。


「ったく何が任せておけだか……布塚のヤツ、次会ったら説教だなこりゃ」


 乱暴な口調でぼやいたのは三田川。

 そこには普段優しい姿はどこにもなかった。


――顔が絶対に説教で終わらせないって語ってる!怖い、圧倒的に怖い!!


 男子三人恐怖に震えました。

 ついでに何かヤバイオーラみたいなものを見えたと鼠川は語る。







「入院!?そんなに酷いんですか!?」


「ああ、そんなに心配しないで。念のための検査だから」


 陸島負傷の知らせはその日のうちに、パートナーの相原にも入る。

 電話越しに相原は三田川と会話をしていた。


「け、検査って……?」


「そうねえ。怪我の詳細が入ってきてないから何とも言えないけど……少なくとも命にかかわるものじゃないわね。詳細はまた明日以降にでも送られてくると思うからもう少し待ってほしいわ」


「……はい」


「ここだけの話、一週間くらいは安静にした方がいいって話だけどね……怪我自体は二、三日で治るわ」


「じゃあどうして一週間も?」


「うーん……これ言ったほうがいいかしら?」


 電話越しの向こうにいる三田川が悩みながらある事実について語ろうとしていた。


「教えてください。パートナーとしてどうしても聞きたいんです。というより聞かないといけない気がするんです」


 相原の脳裏に浮かんだのは四月の出来事。

 陸島が逆奈義未来と揉め事を起こし、果てに彼女の腕を切り落としたという事件。


「陸島君ねえ……もしかしたら精霊に憑かれているかもしれないのよ」


「精霊……なんの精霊ですか?」


「多分、適性から見て大地の精霊かなって。彼の特性からしたらそうじゃないかって言われてて、ついでにそのあたりについて調べたいって機関の一部の人間が言い出してるのよ。もしそうなら一週間で済むのかわからないけど……」


 精霊。

 それは四属性において唱えられる存在。全て、あるいは一つとされるもの。

 憑かれている者は精霊憑きと呼ばれその属性の加護を受け、力を大幅に上昇させることができるといわれる。相原が中学時代で聞いた限りでは、現在国内の魔女にもその加護を受けている者がいるらしく、いずれもかなりの実力者と言われている。


「それ……本当なんですか?」


 あの日の出来事を思い返す。

 何か悍ましい気配とともに抜刀した陸島、そして振るわれた鉄の魔法。切り落された腕。

 一番印象に残っていたのは覚醒した最初に見た彼の血のように赤い瞳。


「それにしても精霊ねえ。憑依されているのならあれだけの魔法が使えるのも、決闘で勝っていられるのも合点は行くけど……」


「どうかしたんですか?」


「いやあのねえ。私にはそうは見えないのよ。もし精霊に取りつかれているのなら彼はもうちょい優しいというかさ。ほら、昔から精霊って心穏やかなものに憑りついているって言われてるのよ。彼はその……まあなんというか」


 三田川の口は段々と閉じる。

 多分陸島が優しくないと言いたいのだろうが、パートナーの彼女にそういう言い方はあまりしない方が良いだろうと気を使っているのだろう。


「気にはしませんよ。陸島君、誰に対しても冷たいというか……時折嫌になるんです」


「そうなの?じゃあパートナーやめたら?」


「えっ、それは……」


「冗談よ。私も今の旦那さんが時折嫌になる時があるのよ。水だしっぱとか早食いとか私が懸命に作った料理に調味料いきなり使うとかさ……こないだだって――」


 しばらく三田川の愚痴は続いた。

 でもどこか楽しそうに聞こえた。


(これが夫婦なのかな?)


 ふとそんな風に思えた。

 そして陸島の精霊憑きに関する疑惑は相原の胸の内に依然残っていた。


「どうしたんですか一体?心配そうだったり、楽しそうだったりで」


 部屋にいた流山椿が電話を終えた相原に声をかける。


「あ、それがね――」


 相原は流山に電話での話を一通りした。

 陸島の負傷、彼の精霊憑き疑惑、そして三田川の旦那の愚痴。


「あーなるほどなるほど。確かに懸命に料理したご飯にいきなり調味料はダメですね」


「やっぱり?さすがに最初はそのまま食べてほしいよね?」


「ですです」


 三田川との電話での内容を笑いながら二人で話し合った。


「それにしてもあの陰険が負傷とは……やはり組織との戦いは油断できませんね」


「大丈夫かなあ……」


「まあ大丈夫でしょう。問題は精霊憑きの件です」


「精霊憑き?それが何か問題でも?」


「もしそうなら彼は帰ってこないかと思いますよ。機関で検査してそれからは多分ずっと機関の持つ施設で保護とか観察のための処理になるかと」


「え?そうなの?!」


「そうだったらの話ですよ。でもアイツのような陰険に精霊が付くなんて思えません。精霊と言うのは古来より心清らかなものに憑くって言われてますかね」


 流山は説明しつつ、冷蔵庫にあったグレープジュースを取り出してグイっと飲む。

 相原は今の説明に不安を走らせる。


(精霊……もし陸島君についていたとしたら……あの鉄の魔法が使えるのも納得がいく。でも鉄の精霊って実在するの?教科書には精霊は四つしかいないって言われているし。それに清らかな心……陸島君が?)


 そんな時に相原の心に現れ出でたのがこちら。


――やあ、相原さん!今日もきれいだね!!


 とかぬかす、きれいな陸島鉄明。


「……っ!ふふ」


「どーしたんですシオンちゃん?」


「なんでもない。陸島君、何事もなければいいけど」


「どーでしょうね。ベストなのは二度と帰ってこないことですけど」


「そんなことばっかり言ってると小さいままだよ?」


「え゛」


 人間性が小さいイコール身長が小さい。

 たぶん相原はそう言いたかったのでしょう。でも身長と言うのは伸びる奴は伸びて、伸びない奴は伸びない。

 悲しい事なのですが、そういうモノなのです。


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