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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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54/102

9-6

 時刻は夕方を過ぎて夜に差し掛かる頃。

 オレンジ色の世界から一転して暗い世界が広がる。


「で、鴉田は何をしているんだ?」


「ああ、風の魔術……でいいのかな?電気を生み出す修行だって」


 ラウンジにて鴉田の修行を鼠川と蛇島は少し離れてその様子を見ていた。


「電気か。確かに成長させて電撃にでもなれば心強いと思うが。そううまくいくのか?」


「さあ?電気を生み出すのはできたみたいだけど、それを持続させるのにだいぶ手間取ってるみたい。休憩挟みつつ何度かやってるみたいで最初は一分持たなかったけれど今は二分ちょいまでなら保てるみたい」


「電気を保つというのはなぜだ?そのままぶつければ良いものではないのか?」


「ああ、それは俺から説明するぜ」


 話が聞こえていたのか鴉田は席を立って二人のいる方に向かう。


「まず蛇島の言うように電気をぶつけるってのはありだ。でも今のままじゃダメージにはならない。だからまずは電気を生み出し、ダメージ足りうる電撃まで成長させる必要があるのさ」


「つまり……一ボルトを千ボルトまで引き上げるというイメージか?」


「正解!」


 蛇島の回答に鴉田は親指を立てる。

 そして再び先ほどと同じ席に着くと深呼吸をしてからまた電気をコントロールする練習を始めた。その様子を見ながら、蛇島の脳内に新たな疑問が浮かび、それを鼠川に向ける。


「もう一つ気になったが風の魔法をそのまま使う言うのはダメなのか?」


「風圧による斬撃ってこと?それはそれで魔力の消費が多いってのと普通に難しいって話だから、今は鴉田君にとってやりやすい電撃の魔法でどうにかするってさ」


「そうか。風の魔法とはずいぶん自由が利くのだな」


「でも使いこなすの難しそうだよ?」


 二人は鴉田の方を見る。


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 彼の両手の合間には電気によって起きた緑色の渦がバチバチと音を立てて巻き起こる。しかし時間が経つにつれてその流れは段々と緩やかに、そして散漫になって散っていく。


「くそ。もう一回――」


「こんばんわー……ってあら?」


 ラウンジに入ってきたのは管理人の三田川。

 風呂敷に包まれた荷物を持ってきた彼女はテーブルの上で修行をする鴉田に視線を移す。その目の色は興味に満ちていた。


「鴉田君もうそこまでできるの?早いわね~」


「いえこれ……想像以上にきついっすよ」


「でも電流が出せるのなら後はそれの出力を上げるだけじゃない?」


 持ってきた荷物を整理しつつ三田川はキッチンに向かうと自前の鍋をコンロの上に置く。


「簡単に言いますけど、これが結構難しいんすよ。まず電流の流れを安定させて魔力の出力を一定まで持ち上げる。そしたらそこからさらに出力を上げて電気の流れをよりよくして火力を上げて……とまあ単純なのにむずいんです」


「集中力というか体の魔力を安定させろってことね。それができればきっと魔術師としてワンランク上に行けるわ。ところで――」


 三田川はどや顔で鍋のフタを開く。

 そこには既に出来上がったカレーが。


「カレーは好き?」


「はい!大好きです!」


「じゃあ皆、お皿用意してー」


――わぁいカレーだぁ


 童心に帰る鴉田たち男子三人。

 三田川さんお手製のカレーライスは美味いのだ。


「あれ、そういえば陸島君は?」


「さっき昼頃に陸島君に聞いたら、二、三日後になるって。任務に出るそうよ」


「え?任務!?」


 鼠川はその説明に驚く。


「ええ。組織と戦う任務。彼の待ち望んでいたものね。私の後輩の布塚が連れ出すって言っててね。難易度もそんなに高くない任務だって言ってて。私も確認したけど、確かにハードルは低いわ。でも心配なのよね。話を聞いた感じ、確かに彼は強いけど相手は決闘とはわけが違うわ」


「そんなに違うんですか?」


「うん。……でも布塚達がいれば大丈夫かしらね」


 心配を振り払って三田川はご飯の乗った皿の上に、カレーを乗せてテーブルの上に置いていく。

 辺りには香ばしいカレーの香りが広がる。


「おお、これはまた美味しそうな……!」


 ちなみに蛇島と鴉田はこれを始めて食べる。


「すごくおいしいんだよ!本当に!陸島君も美味いって言うレベルだから!」


 一同は食卓に着き、三人は勢いよく、『いただきまーす!!』と叫ぶ。


「よし三田川さん。次、おかわりするときは俺には肉多めでオナシャス!!」


「だーめ。肉は平等よ」


 欲張る鴉田に笑ってNGを出す三田川。


「おお、美味しい!本当に美味しいぞ!!陸島が認めるだけのことはある!」


 カレーを食べる手が止まらなくなる蛇島。


「ふふふ。今日のは会心の出来ね。貴方達も高校生なんだからしっかり食べなさい」


「押忍!ごっつあんです!」


「鴉田。なんだそのノリは。あ、おかわりください」


「アハハハ……」


 夜が深まる中で、にこやかに食事の時間は過ぎていく。







「大丈夫かなあ陸島君……」


 一方、女子寮に設置された食堂にて温かいうどんを食べながら相原紫苑は任務に向かった陸島を心配していた。


「彼なら大丈夫だろう。あれだけの実力があれば死なずとも生きて帰って来るさ」


 向かいの席で萩野が同じようにうどんを食べながら相原を元気づける。


「そうだけど……でもやっぱり気になるの」


「というと?」


 相原は陸島を憂いているのか、元気のない表情で説明する。


「確かに陸島君の魔術の腕前は高いと思う。でもそれで任務が遂行できるかと言うと違う気がするの。相手は非道たる組織の魔女や眷属。それらを相手に戦うとしたら決闘とは違うわ。相手を倒す決闘とは違って敵は皆、彼を殺しにかかる。そこが不安なの」


「それはつまり……相手の気迫や姿勢との違いで彼がもしかしたらケガするかもってことかい?」


「うん」


 説明を終えて、うどんをを口に運ぶ相原。


「一理ある。でも彼だって魔術師だ。相手がどう出てくるかはある程度見積もっているはず。それならば――」


「怖いの」


「え?」


 萩野の言葉に対し、相原は泣きそうになりながら答える。


「いなくなっちゃうかもしれないの。十年前ほど前のお父さんみたいに」


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