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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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53/102

9-5

 バリバリバリバリ――


「何この音!?」


 鼠川は音の鳴った方を見る。

 するとそこには見えないボールを持っているかのような両手の合間に電気の流れを生み出している鴉田がいた。そばには風の魔術に関する教科書が開かれている。


「か、鴉田君?何をしてるの?」


「何って電流」


「何故に突然!?」


「いや今日の授業で風の魔法っていうのは電気を生み出すことができるって書いてあってさ。それで試してるんだけど……思ったより行けるもんだな」


 仰天する鼠川の前で彼の両手にある電気は渦を巻いてまるで竜巻のようになる。


「教科書通りなら試しにベクトルを、要は方向性を――」


「待った」


 鴉田の両手首を外崎は掴む。


「ほえ?」


 自分の両腕の手首を同時に掴まれる機会などそうそうなく、さらにそれが女性ときたもので。

 正面に見える外崎のクールな表情がいつもより近いせいで変な声が出てしまった鴉田君。


「それ、そのままで五分はいける?」


「ご、五分?それなら余裕だろ。鼠川、カウントよろしく」


「え?ああうん」


 軽いパニックになっている彼に言われるまま、鼠川はカウントを開始した。


 手を離した外崎の前で行われる電流円環継続試験。そして――


「ハァ、ハァ……ごめん……もう無理」


「早!?まだ四十秒しかたってないよ!?」


 鴉田の両手の合間に会った電気の渦は小さくなって消え失せた。

 同時に彼は息を切らす。


「ていうか、バテてませんかコイツ?」


 マラソンを終えた選手のように息を切らす彼に流山は不思議に見た。


「電気の操作は思ったより集中力や魔力、加えて体力も消費するからね。もしそれが五分出来たら戦えるかも」


「ま、まじか……きついぜ」


「まあ頑張んな。今日はもう休んでいい」


 そう言って外崎は教室をそそくさと後にした。


「……どう思います?鼠川君?」


「電気でしょ?ひょっとしたらとは思うけどいけるんじゃない?」


 流山と鼠川は机にもたれかかってぐったりする鴉田を見る。

 その表情は疲れ切っている……のではなく笑っていた。


(まさかもう電気を生み出せるとはね。呑み込みが早いのか素質があるのか……)


 女子寮までの帰り道。

 先ほどの鴉田の魔術を見て外崎は思案にふける。


(電気を生み出すってのは案外難しいものなんだけど……風の魔法がしっかりとできるからなのかウォーロックだからなのか。今日の授業を見た感じは多分後者だろうね。鴉田春一……あと数日でコツが掴めるのなら陸島に勝つ糸口は見えるだろうね。アタシの使うマギア・ブレードか、それとも他の魔術道具を手にするのか)


 鴉田の意外な成長に内心驚きつつも彼女はニヤリと笑う。


「さて、明日には何を掴むのやら」







「俺が任務にですか?」


「そうそう。うちらのグループにやっていることに興味あるなら」


 その頃、陸島は昼食を終えて近くのショッピングモールにいた。

 目的は橘樹龍弦の見舞いの品を追加で購入することと、布塚の所属するグループ、トパーズ・グラスの任務を共に行うという提案について相談を受けたからである。


「布塚さん、先ほどの話ですが、やはり鉄明さんには少々早い気がするんですよね」


「あらそうかしら?燦央院さんを倒したのなら最低限の任務なら連れ出してもいいんじゃない?」


「何をするんです?その最低限の任務って?」


 会話をしつつ周囲から人の気配が少ない通りを抜けて、駐車場に入って見舞いの品を車に詰めて乗り込む。


「戦闘任務ってところかしら。相手はできれば基本は生け捕りなんだけど。今受け持っているのは人数も実力もかなり低いやつよ」


「殺した方が得じゃないですか?」


「これがそうも言ってられないのよ」


 布塚は陸島の極端な提案に溜息を吐いて否定する。


「組織の魔女にしろ眷属にしろ、情報を少なからず持ってるの。機関はそれを欲しがってて、できうる限りで捕縛を命じるわ。それで捕まえた奴らから情報を聞き出すために色々やるのよ。魔法とか拷問とかね」


「警察が聞いたら倒れそうな内容ですね」


「そうねえ。で、やる?」


 助手席に座っていた布塚は後ろに座っていた陸島の方を向いて真剣なまなざしで問いかける。

 陸島はその任務について参加するか考え込む。


――どうする?普通に考えれば参加するのが俺にとって正しいはずだ。なぜなら俺は将来は復讐のために機関から任務を受けてターゲットを追い詰めて殺す。これのためには今戦おうとしてる敵の正体を少しでも見るべきだろう。だが何故だ。妙に胸がざわつくのは。恐れているのか?俺が任務で死ぬかもしれないと?


「鉄明さん。無理に参加する必要なないですよ」


 答えを出そうとする陸島に運転席に座っている木下が優しく話しかける。


「そうね。最低限とはいえ命の保証はないわ。怖いなら無理に参加する必要なんてないのよ?」


(……怖いだと?)


 五年前の惨劇が脳裏に浮かぶ。

 叫びながら死んでいった者たちの光景が。身体を引き裂かれ、穴をあけられ、じわじわと死んでいった者たちの声は今でも彼の脳裏に残っている。


(ふざけるな。怖いってなんだよ。もしそうならそれは俺にとって間違いだ!恐怖があるなら超えていく。そうしないといつまでも奴に……あの時皆を殺した奴に刃が届かなくなる。だったら――)


 意は決した。陸島は答える。


「すみません。その任務に俺を参加させてもらってもよろしいでしょうか?」


「あら。やる気?」


 眉を動かし、目を見開く誘った本人の布塚。

 一方で木下は『えっ』と声を上げる。


「鉄明さん。決闘じゃないんですよ?下手うてば死にますよ」


「死なない。アイツらの仇取るまでは絶対にな」


「ほほう。決意は固いと見た。なら今日の夜に作戦を開始するわ。任務の詳細は……そうね、敵が潜伏しているエリアの近くでしてあげるわ」


「ありがとうございます」


 陸島は頭を下げて布塚に感謝の意を伝える。


「もう……どうなっても知りませんよ?」


「だったら木下さんも来ればいいじゃない。彼が心配なんでしょ?」


「いや、木下はとりあえず家に戻っててくれ。俺と布塚さんのグループでどうにかするさ」


「いえいえ。心配ですので私もついていきますよ」


「はい?」


 はあ、と息を吐いて木下は陸島の方を見る。


「こうなる日が来るのは予想していませんでしたが、安心してください。これでも組織とは戦っている身です」


「大丈夫なのか?」


「心配ないわよ。木下さんはこう見えて『羅刹』の二つ名を持ってるからめっちゃ強いわよ?」


「……マジか?」


「マジです。ね?木下さん?」


「はてそう言われた日もあったような……」


 布塚のフォローに正直信じられないという顔で陸島は木下を見る。

 木下は相も変わらず優しい表情を浮かべるばかりだった。


「……わかった。じゃあ時間があるから連れてってほしいところがある」


「どこです?」


「皆の墓。今からなら間に合うだろ?」


「承知しました。布塚さんはどうします?」


「同行させて。任務手伝ってくれるというのならお墓掃除、手伝うから」


「ありがとうございます。三人も喜ぶかと」


「わかったわ。木下さん。安全運転よろしく」


「はい」


 車はショッピングモールを抜けて陸島がかつて世話になった者たちの墓へと向かう。


(いよいよか。これが俺が目的を果たすための第一歩になるんだ。待ってろよ……仇は必ず取る!!)


 その時の陸島の表情は真剣だった。ふと見たその日の夕日は輝いて見えていた。


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