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「家族……ねえ。やはり、ひねくれ者の彼でも心配になるんじゃないのかな?」
「だと思う。ツバキちゃんは陸島君がサボる口実にしてるって言ってるけど……多分そんなことはないんじゃないかな?」
萩野は弁当のミートボールをつまみながら相原と陸島に関する話をしていた。
昼休み。雨の降り続く中で教室にて相原と萩野は弁当箱を広げて食事をしていた。二人の表情はしとしとと音の鳴る雨が降る外に比べて、明るい方だった。
「そうそう。珍しく外崎さんが今日来てたね。相原さん気づいた?」
「あ、そういえばそうだね」
「あいにくの雨模様だけど……どこかで修行するのかな?」
「修行するにしても学校の授業で基本を学んでからになると思う。鴉田君は凄い気合入ってたみたいだけど大丈夫かなあ……」
「うーん。サボり魔の外崎さん次第かな?あとは彼のやる気が本物かどうか。風の魔法に関しては私は詳しくないけど結果次第じゃ本当に陸島君に立ち向かえるんじゃない?」
「……やっぱり、決闘ってことだよね?」
決闘と言う言葉を口にした時、相原の食事のペースが止まる。
「うん。まあ陸島君も相当強いよ。燦央院さんを倒している以上はね。でも鴉田君もウォーロックだ。ひょっとしたらもある。相原さん、何か心配なことでも?」
萩野はじっと相原を見つめる。
相原は少し考えこんで萩野に話す。
「あ、あのね。萩野さんから見て陸島君ってどう見える?例えば普通の男の子とか」
「私から見て?そうだなあ……」
萩野は相原の質問に対して手に持っていた箸を一旦置いて、しばらく考え込む。
そして彼女は答える。
「やっぱり、クールでひねくれ者かなあ。それでいて野心が強いというか。何か間違いなく目標がある。そしてそれに対して迷いがない。こんなところでいいかな?」
「うん。ありがとう」
「何か気になったのかい?」
「いや。私、何か見落としてるんじゃないかなって思ってて」
「見落としてる……というと?」
「実はね――」
相原は陸島に関する事を一通り説明しようとした。
生まれた時に橘樹の家に預けられたこと。そこが魔女機関と関わっていること。家族のような従者たちがいたこと。そしてその人たちと死別したこと。そこから復讐の為にエネルギーをすべて注ぎ続けていると。
でもそれらを説明したとしてどうしてほしいのか。そこまで考えていた時に言葉が詰まる。
「……どうしたの?相原さん?」
「あ、えっとね。どうしたら仲良くなれるのかなって考えてたの。なにかきっかけがあればって」
「なるほど。それで見落としてる事があるのではと思ったんだね。それなら確かにあるかもしれない。彼の親戚とか家族、友達がいれば切り口になるとは思うよ」
「友達……鼠川君とか蛇島君とか?」
「そうそう。男子寮で生活してる人たちなら何か知ってるかもしれないよ?そうなると三田川さんとかもね」
「三田川さん、か」
三田川杏美。
陸島たち男子寮の管理人で普段は寮の近くの家で暮らしている。かつては組織と戦っていた魔女でもありその実力は高いと相原は耳にしている。
「でも私が言うのもなんだが、彼は手ごわいよ?」
「わかってる。何とか話ができる関係までは持っていきたいの。パートナーとしての責務というか……せっかく知り合えたんだもん。このまま放っておくのは何か違う気がして……心配なの」
「心配、か」
会話の折、萩野は何かを思い出したかのように口を開く。
「意地があるのさ、男の子には」
「え?」
「昔どこかで聞いたセリフだよ」
「意地……か」
「あそこまで行ったらもう矜持というかそういうのかもしれないけどさ。一緒にいれば何かわかるかもしれないよ?」
「うん。頑張ってみる」
「その意気だよ。相原さん」
自信を持った相原を笑って褒める萩野。
昼休み終了間際、空はいつの間にか雨が止んでいた。
「昔世話になった?親父にか?」
「ええそうよ。十年前くらいかしら?」
一方、陸島は木下と魔女の布塚と共に車に乗って病院を離れて別の場所に移動していた。
時刻は十三時を指そうとしていた。
(布塚美香。大地の魔女で組織と戦うグループの所属か)
少しばかり話を聞いた。
布塚美香は玉之江島で魔術を勉強後、そのまま組織の魔女と戦うグループに所属して今日まで部下の眷属を率いて戦っているのだという。
「さっき車に行く前に病室までグループの代表として私が見舞いに行ってきたけど……橘樹さん老けたわねえ」
「親父さんも年ですから」
運転をしながら布塚の意見に苦笑いで木下が答える。
「布塚さんが最初に出会ったのは確か十年以上前でしたっけ?任務か何かで貴方が負傷して……」
「そうそう。竹月組の人達が駆けつけなかったらやばかったわ。三田川さんにもめっちゃ心配されてさ」
「三田川?」
二人の思い出話に入り込む隙はない。そう陸島が思っていた矢先、知っている人物の名前が挙がる。
「あら、三田川さん知ってるの?」
「一応は」
「三田川さんはね。今、鉄明さん達のいるウォーロック達が住んでいる男子寮の管理人をやっているんですよ」
「え?!そうなの!?」
木下の説明に素っ頓狂な声を上げて布塚は陸島に確かめる。
「ええ。それが何か?」
「いやまあ子供を持つと人は変わるって言うけど……はあ。戦いにしか生きる道がないと言っていた人がねえ」
「あの人、人殺しだったんですか?」
「いやそんな物騒な……うーん」
布塚は言葉を詰まらせる。
「布塚さん、そこはきっかり否定しましょうよ」
「まあそうですね。あの人も若かりし頃は組織や悪い魔女と戦う人でね。今私がリーダー務めてるクランの『トパーズ・グラス』の先々代のリーダーやってたのよ」
「トパーズ・グラス?」
聞きなれない単語に陸島は反応する。
「そう。組織と戦うことが専門のグループね。ちなみに構成員はざっくり言って二十名ほど。今、魔女は私だけ」
「え?一人だけですか?」
「死んじゃったからね」
仲間の死を告げる布塚の言葉に車内に沈黙が走る。
「ああごめんごめん。暗くするつもりはなかったんだけど。でもそういう世界なの。食べていくためにも、ね」
「しかし二十人ほどで仕事できるんですか?」
「まあね。少数精鋭ってほどじゃないけど小回りは効くから。他のグループとつるんで戦うってのもあるのよ」
「なるほど。そういう手段もあるわけですか」
「竹月組みたいに数千人以上いるわけじゃないのよ」
「数千って……」
規模の違いから竹月組の大きさを陸島は改めて実感する。
「貴方の親父さん、橘樹龍弦はすごい人よ。魔女じゃないけど眷属達を束ねて的確な指示を出せるし。若い魔女達もあの人の指示や支援のお陰で助かっているの。私もその一人よ」
「へえ。じゃあ今頃は病院もにぎわっているわけだ」
「というと?」
「話が本当なら沢山の人が来るでしょうね。貴方のように代表一人でもあの組織なら結構な人数が来るだろうとそう思ったんです」
「陸島君の言うとおりね。でも魔女達も目立つのはあまり好きじゃないからそこは多分竹月組が――」
ぐー。
鳴り出した腹の虫。住んでいたのは布塚の腹の中。
「……ごめんお昼にしない?」
「これは失礼しました。鉄明さんも私も病院で軽く食べてたものでしたので」
はははと笑い声が車内に響く。
陸島は口を閉じたままだった。




