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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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9-1 一足お先に

「え?陸島君が本土に向かった?」


 その日の朝、教室にて相原紫苑は思わず大きな声を上げた。

 外は梅雨らしく雨が降り出していた。


「うん。なんでも親族の方が倒れたとかどうとかで……」


 鼠川は今朝の状況について説明した。

 朝の七時半ごろ、陸島は着替えを済ませて男子寮の入り口に来た木下が運転する車に乗ってそのまま港まで向かったとのこと。帰ってくるとすれば早くて夕方、遅くとも明日になるとの事である。


「へー。あいつにも誰かを心配する心ってのがあるんですねー」


「ツバキちゃん。そういう言い方はよくないよ……」


 鼠川の説明を流山は信じていなかったのか呆れた声で語る。


(親族ってことは、橘樹家の人かな?嫌々向かったとかそういうのなければいいけど……。でも家族なら木下さんのように普通に話していたし大丈夫かな?)


 相原は見舞いに行った陸島を気にかけていた。


「まあ最低一日はアイツの顔を見なくて済むのならいいですよ」


「本当に嫌いなんだね……」


「そーですよ!こんなにシオンちゃんが心配してるっていうのに……もー!!」


「ツ、ツバキちゃん。それ以上はいいから……ね?」


 膨れた面の流山をなだめるように相原は慌てつつも丁寧に彼女の頭をなでる。段々と流山の表情が緩くなっていく。


「まーあいつがしばらく来ないのならそれはそれでありですね!」


 流山は自分の座席につく。

 よく見れば足をパタパタと振っている。


――かわいい


 鼠川は思わず心にきゅんと来た。


「おはよう諸君」


 その中に割り入ってきた男、鴉田春一。

 よく見れば目の下にはクマが出来ている。


「あ、鴉田君。どうしたのその目のクマ?大丈夫?」


「心配しなくていいぞ相原さん。今の俺は遠足前夜の小学生くらい興奮してる」


「え?でも遠足って今週あったっけ?」


「いやそういう事じゃなくてね!?」


 相原の天然に思わず鴉田はツッコミを入れる。


「風の魔法の教科書読んでたらさ、こりゃすげえってのが多くてよ。そしたら深夜三時になっててさ……まいったねこりゃ」


「習得できそうなの?風の魔法って僕が学んでる水の魔法とどう違うのかわからないけど……」


「いけるさ。でないと俺がモテなくて困る」


「どんな理屈!?」


「はあ。男子ってたまにこういう頭がゆるいやついますよね……シオンちゃんも気を付けて」


「ハハハ。気にするなツバキガール。こんなのよくあることさ」


「変な呼び名付けんなこんにゃろー!!」


 流山、渾身の掌底による一撃。

 結果、地面に崩れる鴉田。


(本当にこれが陸島を倒す可能性を持つんですかね……?)


 流山は地面に崩れて苦しむ鴉田を、ウォーロックを見て疑問に思った。

 朝のホームルーム開始のチャイムはその直後になった。







 一方、少し時が経過して、陸島と木下は病院内に設置されたカフェにいた。

 周囲には見舞客が数人いる中で木下は胸を撫でおろし、陸島は深くため息をつく。


「ったく隼人のやつ、親父が倒れたって言ってめちゃくちゃ焦った様子だったから何事かと思っていってみればただのぎっくり腰ってどういう事だよ」


「仕方ありませんよ。親父さんも七十超えてるんですから。それと陸島さん。ぎっくり腰をなめたらいけません。あれは魔女の一撃とも言われる結構危険な症状なんですよ」


 これはマジです。


「いや部下を使えって話だ。何のために橘樹家の……竹月組の代紋背負ってんだか」


「まあ確かにそうですけど……二週間は安静とお医者さんは言ってましたね」


 苦笑いで木下はコーヒーを飲みつつ、陸島と話をする。


「そういえば親父さん、気になること言ってましたね」


「ああ、あれか?」


 会話の最中で陸島はその気になることを思い出す。


――鉄明。七月の終わりに俺のところに来い。牙谷からお前宛に預かっているもんがある。しかもそれはお前がウォーロックだった時に渡してほしいもんだと言ってたもんだ。いいか、絶対に忘れるなよ?


「預かりもの……か。なんだ一体?」


「さあ?でもそれ引っかかりますね」


「引っかかる?何がだ?」


 陸島は眉を潜める。


「ウォーロックだった時って言ったことです。まるで牙谷さんが鉄明さんが将来ウォーロックになるって予言してたみたいじゃないですか?」


「……確かにそうだな」


 木下の説明に陸島は納得していた。


(俺がウォーロックになるとわかっていた……?もしそうなら、どうやってそれを予知した?その方法や手段があるとすればやはり俺とアイツは――)


「あ、木下さんみっけー」


 ふと遠くから声がした。

 陸島と木下はその方角を向く。


「おや貴方は……」


「どうもーお久です」


 二人の前に現れたのは薄い黒シャツの上に青い上着を着こなし、青のジーンズを履いた女性。

 陸島から見たところ、年は二十代後半に見えた。


(なんだこいつは?家にこんなやついたか?)


「どうもお久しぶりです布塚さん」


「布塚?」


 気軽に話しかけてきた女性に陸島は警戒していた。

 自分の家の事。親父と呼んでいる橘樹龍弦たちばなりゅうげんの入院。見知らぬ女。全てが彼を警戒たらしめる。


「ん?君だーれ?」


 布塚と呼ばれた女性は陸島の方を向く。


「そうですね。布塚さんは今日ここまでどうやって?」


「タクシー。皆は別のところにいますよ」


「そうですか。鉄明さん。一旦車に戻りませんか?」


「なんだ一体?この人は誰だ?」


「ですから車に戻るのですよ」


 木下の目つきが変わった。

 にこやかな表情から真剣な瞳を映す。


(……なるほど。魔女か)


 納得したのか陸島は『わかった』と言って立ち上がり、コーヒーカップを片してその場を後にした。

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