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「おー……鼠川君、上手くなったわねえ」
目の前で起きる太く、長い水流をじっと見て教師の早瀬は嬉しそうに笑う。
「流山さんのおかげですよ。色々コツというかそういうの教わっていたので」
「えっへん」
「そうなの。毎日?」
「休みの日以外ですね」
「なるほどなるほど。それだけべったりなら上達も早いものね」
「べ、べったりってそんなんじゃないですよ~も~」
頬を赤らめて流山はにやける早瀬に突っ込みを入れる。
「五月の頭くらいから一か月半くらいでここまでやれるのは凄いことよ?半年とかそこら……下手すると一年かかるってのもあるから」
「ええ……そんなにかかるんですか?」
疑問に思う鼠川に早瀬ではなく流山が答える。
「そーですよ。属性の魔術は四つありますけど、その中でも水って意外と難しいんです。でも治療術とかそういう貴重な魔法もあるから重宝されるんですよ」
「なるほど。でも流山さんって忍術使ってなかった?」
「ああ、あれは一族に伝わる者で一応は魔法のカテゴリではあるんですけどね。でもやっぱあれは忍術ですよ。固有の枠にしてはちょっと違うし……」
「固有?そういえば固有って何?前にも聞いたような気がするんだけど」
聞き覚えのある単語に流山が説明を始める。
「ああ、固有魔術というのは当人だけが持っている魔術ですね。ドグマっていう人もいます。四つの属性とは違ってその人、あるいはその道の人にしか使えない魔術なんですよ。例えば物を入れ替えたり、浮かせたり……凄いものだとなんでも切っちゃう魔法もあるとかで」
「なるほど。それで固有魔術か」
「そーです。ちなみに――」
説明が続こうとしていたその時、遠くから何かが光った。
「え?何今の?」
光が見えた方角を見ると、音が聞こえた。ゴロゴロとなる音。
まるで雷のような音が。
「あれ?ゲリラ雷雨でも降り出そうとしてる?」
「いや違いますね。これは……多分風の魔法かと」
「え?風の魔法?でも今の雷じゃ――」
さらにもう一度遠くの山で稲光が走る。
その場所を見て流山は気づく。
「……先生、あっちって確か風の魔法の授業をやってるはずですよね?」
「そうね。でも雷を使う予定ってあったかしら?」
「……もしや」
鼠川はふとある人物の存在を思い出した。
鴉田春一。今日から風の魔法を学び始める彼を。
「それじゃあ鴉田君。今日から始めて風の魔法を触れるようになるけど……大丈夫?」
「問題ありません。いつでもどうぞ!」
授業の舞台となる山のふもとにて、風の魔法の担当教員である凪島みどりに元気に返事を返す鴉田。
周囲に他の風の魔女が集う中で、ついに彼は魔法の授業を受けることになる。
――見て。外崎さんよ
――本当だわ。サボり魔のあの人がなぜここに?
――そりゃあウォーロックがいるんだもん。気になるんでしょ?
周囲の言葉を気にすることなく外崎菖蒲はそこにいた。
「はあ……届いた教科書はちゃんと読んだのかい?序盤の方だけでいいけど」
「おうさ。まあ見てろ」
呆れた表情で見る彼女を気にせず、鴉田は支給された杖と教科書を両手にして魔法の準備をする。
「いくぞ……はぁーっ!!」
掛け声と共に彼は独特な構えと共に、杖を振るった。
周囲は彼の奇妙な振る舞いに思わずぎょっとして固まる。そしてしばらく静かな合間が広まり……そのままだった。
「あれ?」
どんがらがっしゃーん。
今回は外崎と鴉田以外がずっこけた音になります。
「アンタ何がしたいんだよ……」
「いやあれ……おっかしーな?このページの詠唱とかその辺試そうとしたらだめでさ」
頬を赤くしてあたふたしつつ鴉田は弁明する。
「あの、そのページに書かれているのは、上級魔術だからそこからじゃなくてもっと簡単な方がいいよ?」
「そうそう。最初辺りの魔法からでいいから」
「慌てないで。ゆっくりレベルアップしましょ」
周囲の女子のアドバイスの元、そのページを開く。
「これか」
そして杖は下から上に振るわれた。
この時、彼が見ていたページは風を杖の振るった方向に起こす魔法。一番シンプルで基本中の基本の風の魔術だ。
「えっ」
だが問題があった。
この時、鴉田の正面には外崎がいた。スカートを履いた彼女が。
そして杖は下から上に振るわれていた。つまり――
「あっ」
びゅーん。
察しのいい人は気づいただろうが、つまりそういう事である。
風によって外崎のスカートが盛大に捲れ上がったのだ。瞬時の出来事に外崎は無表情から一転して頬を淡々と赤く染める。
「……いやあ何と言ったらいいのか。あの、悪気はなくてね。俺もまさかできるとは思わなかったんだよ。それに魔法って結構習得難しいって鼠川から聞いててさ。こんなあっさりうまくいくとは思わなかったのよ。だから――」
「そうかい」
「あだだだだ!!」
右手で鴉田の顔をがっしり掴む外崎の目は笑っていなかった。
「確かに計算外だったよ。だから一つ教えてあげる。風の魔法はその性質で電気を生み出せる」
「え?それって――」
「こういうこと」
その時、鴉田に文字通り電撃が走る。
「ギャアアァァァァァァァッ!!」
文字通り走った電撃に彼は絶叫した。
――外崎さん。ああいうの履くんだ。でも黙っておこう
外野の女子の一人が意外そうな顔で反応していた。
でもその事は彼女には黙ることにした。黒焦げになった鴉田のようになりたくないから。
「いやーご馳走様です。まさかおごってもらえるとは」
「いえいえ。投資のようなものですから」
「おおっと投資と来ましたか。これはしっかり食べなくては」
その頃、陸島と木下と布塚三人は近くの洋食中心のファミレスに入って食事をとっていた。
テーブルには既にハンバーグ、ピザ、ポテトフライにサラダと料理が並び始めている。
「鉄明さんもしっかり食べてください。ざる蕎麦ばかりじゃ飽きるでしょ?」
「毎日三食ざる蕎麦食ってるように見えるか?」
「ざる蕎麦?渋い趣味してるわねー。ひょっとして、ひらさきまで通ってる?」
分厚いハンバーグを口にしつつ、布塚は質問を投げる。
「ええ。知ってるんですね」
「そりゃあもちろん。あのお店、多分百年以上前からあるから」
「老舗というやつですか」
「そうそう。今の代の店長さんにはよくモンブラン作ってもらったのよねー。元気かなあ」
懐かしむ布塚の顔には遠い故郷を思う様が感じられた。
「やばい。モンブラン食いたくなってきた。あるかしら」
直後、彼女はメニュー表を開いて探し出す。
食欲旺盛な彼女を見て陸島は呟く。
「ずいぶん食べますね」
「そりゃあおごりだし」
「その分目いっぱい、動くというやつですか?」
「そういうこと」
「組織と戦うためですか?」
「そうそう。明日には死んでいるかもしれないから」
明日には死んでいるかもしれない。
その言葉は陸島に深く突き刺さった。騒ぐ子供たちや大人の話声がする空間の中にいたにも関わらず、彼には静寂が広がる。
(そうか。明日には死んでいるかもしれない。そういう世界にいるんだ。この人は。だから今、出来ることをやっている。チャラけているように見えるけど明日には死んでいる可能性のある世界の住人なんだ)
布塚に対するイメージを改めていく陸島はその際、彼女をじっと見ていた。
視線に気づいたのか、彼女はにやりと笑う。
「どうした?お姉さんが気になる?このナイスバディが」
布塚はその表情を崩さず陸島をじっと見つめ返す。
実際彼女のスタイルは良い方で、先ほどから通路を通る男性客の視線を度々つかんでいた。
「いえ。明日には死んでいるかもしれないと話していたので。それならガッツリ食べている理由がよくわかりました」
「もーそんなんじゃモテないわよ?」
「結構です。それに――」
会話の最中で陸島のスマートフォンが鳴る。電話が来たようだ。
(なんだ?誰からだ?)
画面を見る。玉之江島の市長、佐藤からだった。
「これは……あ」
何かを思い出し、木下と布塚の二人に電話に出るために外に出ると伝えてから彼は席を立ってそのまま電話に出つつ、店の外に出た。




