8-1 魔術道具を求めて
(勝てた……あの女に。組織と戦っているという女に)
闘技場の決闘エリアから抜けて通路を抜けた先、陸島鉄明は医務室に向かった。
そこで燦央院に今回の決闘で勝利し、報酬として組織に関する情報の提供を求めた。
(多少てこずったが……どうにか下せた。後は情報を貰っていつも通り修行に励むだけだ――)
伝えたいことを伝え、彼は男子寮にある自分の部屋に帰ろうとしていた。だがその足取りは段々、重くなっていった。体中に痛みが走る。
「くそ……あの女、思った以上に強かったな……」
痛みを堪え、引きずるように体を前に前に進めながら彼は闘技場の通路を歩く。
(部屋に戻って休めば落ち着くはずだ……今はとにかく体を動かせ。でないと――)
脳裏に突如、フラッシュバックが走る。
いつも通り、五年前の惨劇が。血にまみれた大切な、かけがえのない者たちの死体。その向こうであざける何者かの姿。
彼にとっては最悪の日常茶飯事。
(動け、動け……!でないと死が……俺を……)
陸島は決闘が終わった後でも、まるでその後に戦いがあるかのように必死だった。
息も絶え絶えになりつつ全身を動かすもついに膝を折る。辺りを見渡し、近くにある椅子に座る。
「畜生……まだ足りねえか……」
椅子にはもたれるように着いた。
荒れる息に消耗を感じつつも彼は笑っていた。
(前には進めてはいるんだ。小さくとも。今はそれでよしとするしかない……ああ。もっと余裕をもって勝ちたい。そのためには力を。圧倒的な力をこの身に――)
「陸島君!!」
消耗し、疲れている陸島に一人の少女が息を切らしながら心配そうに駆け寄る。
黒髪のツインテールの少女、相原紫苑だった。
「なんだ……お前か」
「大丈夫なの?傷は?痛いところは?」
「うるさい」
「うるさいって……じゃあ待ってて――」
そう言うと相原は杖を取り出して陸島に向ける。
「やめろ」
「やめろって……いつまでもそんな体じゃ危ないよ」
「いいから口を閉じてろ」
陸島は学ランの内ポケットにしまっていた十手を取り出す。
深呼吸を一つして、彼は魔法を繰り出すために十手をまっすぐに構えて握り、集中を始めた。
「あ……」
相原はその過程を見ていた。
大地の魔法による肉体の活性、すなわち治療の魔法が行われる瞬間を。陸島の体中を纏うのは大地の魔力の流れ。それは陸島の傷跡に深く染み込むと、その傷に働きかける。傷の周囲の細胞に活性を促し、傷を治すために。
(凄い……傷の修復までできるの?)
相原はその光景に驚かずにはいられなった。
傷の治療というのは本来、魔女として経験をそれなりに積まないと不可能でありその年数も一年かそれ以上かかるという。傷を治す魔力を生み出すための集中力、さらにその魔力を傷跡へ送るための制御。若干高度な技術が求められるが陸島はこれを魔術師見習いとして二か月以上でやってみせているのだ。だが――
「ぐ……!」
彼の手より十手が零れる。十手が地面にぶつかって、高い音が周囲に響く。
どうやら痛みに耐えかね、集中力と制御がままならなかったようだ。ひざを折ってしゃがむその様子に驚き、相原もしゃがみこんで彼の容体を伺う。
「大丈夫!?ちょっと待ってて。私が――」
「だからいいつってんだろ!!」
怒鳴り声をあげて陸島は十手を拾って、立ち上がる。
その声に思わず相原はびくりと体を震えさせる。そしてその場から、相原から距離を取って立ち去った。
足取りは決して良くなかったが、先ほどの治療前に比べれば多少はマシになっていた。
「待って……待ってよ――」
しゃがんでいた相原は急ぎ立ち上がろうとした。
その時、慌てていたせいか彼女の足はふらつきその場に倒れこむ。
「きゃっ」
去っていく彼がこちらを見ることはなく、紫苑はその場に倒れてしまった。
「いたた……どうしてなの?」
「もういいでしょうツバキちゃん」
立ち上がる相原の後ろから声がした。
流山と鼠川がそこにいた。
「あいつはそーいうやつなんです。一人で何でもできてしまう。一人で全てをこなそうとする。だから他人なんてどうだっていい。悔しいけどアイツは魔術師としては確かに頭一つ抜けてる。今日の燦央院さんとの戦いで分かったんですよ。あいつは……強い。だから同時にあんな風に他人を邪険にできるんです」
「うん……駆け出しの僕にもわかる。陸島君は確かに強いよ。性格はちょっとひどいかもしれないけど。今の彼には多分、何を言っても無理だと思う」
「そんな……」
がっくりとうなだれる相原に流山は心配そうな目で見つめる。
「今、結構冷たいこと言いましたけどそれでもシオンちゃんがアイツをどうにかしたいというのはわかりますよ。今日の決闘で燦央院さんが勝てば何かが変わったかもしれない。でもそうはならなかった。もし彼に手を差し伸べたいのならアイツからこっちに声を掛けてくれるのを、助けを求めるその時まで待つしかないんです」
「でも陸島君、このままだと私に声を掛けてくれないかもしれない……死んでしまうかもしれないの」
相原の心配する声はどこか震えていた。
彼女の目から涙がこぼれる。
「あ……シオンちゃん!」
流山はポケットからハンカチを取り出して彼女の頬に当てる。
「ありがとう。ごめんね」
「気にしないで下さい。このくらいとーぜんです」
「優しいね。流山さんは」
「だ、だから当然だって……それより問題はあいつですよ。一体どうすべきか――」
頬を赤くする流山。
陸島の他人への当たり方に対する対策を考えていたその時だった。
「話は聞かせてもらったぜ!俺にいい考えがある!!」
三人の元に一人の男が近づく。
その男は、鴉田春一。風の魔法に適性のあるウォーロックだった。
「か、鴉田君……?」
鼠川は怪訝そうな目で彼を見る。
なにせこの男は登場から今までそのマイペースさと奇天烈な言動で周囲をいろんな意味でにぎわせている所謂、問題児なのだ。




