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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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42/118

7-4

「終わりにしようぜお嬢様!」


 決着を迫る陸島。

 目をまだ開けぬ燦央院。


(小癪な手を……)


 迫りくる敵意。

 まっすぐに、そして勢いよく迫る足音。その音に一切の迷いなし。


――でも甘いですわ


 燦央院は迷いなく迫る音を聞いて心を落ち着かせた。

 彼女は即座に行動を起こす。


(なんだと!?)


 陸島は驚愕した。

 その時、彼女は手に持っていたハルベルトを地面に投げ捨てたのだ。


「え?ちょ、ちょっと!?まさか、棄権……!?」


 鼠川はその行動に驚愕した。


「いえ。違います。あれは……!」


 理解した流山。

 その時、迫りくる陸島に目を閉じたままの燦央院は自ら接近。そして――


「はあっ!!」


 両手にて魔力の塊を生成。


「しまっ――」


 対応しようとする陸島。


(遅い!)


 両手の内に生まれたその塊は確かに陸島の腹部に命中。


「ぐあぁっ!!」


 勢いよく彼は突っ込んできた道へそのまま吹き飛ばされて転がる。


「な……なに今の?!」


「奥の手だ。燦央院さんの」


 驚く鼠川に冷静にそれを見極めた蛇島。

 だが蛇島の両手はぎゅっと握って震えていた。


「魔力の一番原始的な概念の……芽無と言ったか?それを固めてぶつける技だそうだ。少し前に彼女が教えてくれた。魔力の塊を物質化してぶつける技で、燦央院さん曰く奥の手だとか。なぜ奥の手なのかというと芽無をそのままぶつけるというのは魔力の多くを使うとか」


「そ、そんな魔法があるんだ……!」


 鼠川は蛇島の説明に驚く。

 一方、遠くに吹き飛ばされた陸島はあおむけに倒れていた。


「ふう。貴方、ずいぶんやりますわね」


 砂によって遮られた目を拭い、その先を見る。

 視界の先には刀から手を放し、空を見上げる陸島の姿。


(大したものですわね。私にこれを使わせるなんて。この魔術は威力はあれど距離や魔力の消費量を見るにそうそう使える者じゃない。原始的な魔力である芽無をそのまま体から瞬時にぶつけるのですから。当然残っている魔力もあまりない。このまま一気に駆け寄って倒すのが妥当でしょう)


 燦央院はハルベルトを手に取る。

 その間、陸島はこちらに何かをしてくる気はなかった。


「そろそろ限界でなくて?」


 事実、陸島は仰向けの姿勢からしばらくは手を震えた状態で動けずにいたと燦央院はそう見ていた。


(ああくそ……。焦ったか?俺としたことが)


 仰向けの姿勢で陸島は空を見る。


――ここで終わる気か?我が選びし者よ


(まだに決まってんだろ!)


 何者かの声が陸島の脳裏に響く。


――ではどうする?


「立つさ。そんで勝つ。あの女に……!」


 一度、全身に力を籠める。

 魔力を体中に押し流し、吹き出すは勝利への渇望。

 全身に流れる魔力の流れ。それが支えになって上体を震えながらもゆっくりと起こし、手と足に力を入れて立ち上がる。近くに転がっていた刀を手に取ってぎゅっと握る。それでもダメージはあったのか震えが見えた。


「こいつ……まだ!」


 周囲はざわめく。


――うそでしょ。あれを食らって立ち上がるなんて


――これがウォーロック……なんて恐ろしい執念なの


 吹き飛ばされ、地面に倒れてもなお立ち上がるその男に。ウォーロックに。


(……貴方を醜いとは言わない。でも見てられませんわ。そうまでしてこの戦いに勝ちたいというの?)


 立ち上がって呼吸を整える陸島に燦央院は憐みの目を向ける。


(あ……私としたことが。いけないわ。相手はまだ何かをしようとしている。完全に倒れるまで決闘は終わらない。ならば――)


 燦央院は陸島にハルベルトを向ける。


「いいでしょう。決着をつけましょうか!」


 一方の陸島も相手を捉える。同時に自身の心臓の脈、流れる魔力も。


「ああ、これで仕舞いにしようか。行くぞ!!」


 手に持った刀を地面に突き刺す。その時、周囲に散らばっていた岩々がぐらぐらと揺れだす。


「これは……!」


 瞬間、岩は大きく空に跳ね上がって燦央院のいる場所めがけて雨のように降り注ぐ。


「さっきの攻撃から着想を得ましたか。しかし――」


 燦央院はその場から離れ、攻撃を回避する。


「今度はこっちから――」


「まだだ!!」


 陸島は叫ぶ。その時、燦央院は動きを止めずに回避を続ける。


「悪あがきもそこまでに……っ!?」


 彼女はそれ以上の言葉を発せなかった。

 地面より浮き出た大地の塊が、彼女の腹部に勢いよく当たる。


「かはっ……」


――バカな、何故!?


 地面に落ちる岩々を見る。

 燦央院は落ちてくる岩に魔術を使ったのではと困惑する。


(ああ、違う。自由落下か。それなら別の魔法がもう使える。これはしくじりましたわね)


「ここだああああ!!」


 刀を捨て、勢いよく飛び掛かる。

 手に持った質量を捨てて彼女に少しでも早く近づけるように。


「はあぁっ!!」


 学ランの内ポケットから取り出した十手を握りしめ、気迫迫る勢いで彼女目掛けて振り下ろした。

 だがそれが彼女の頭部に命中することはなかった。


「な……!」


 十手の攻撃は鈍い音を立てて防がれる。

 陸島と燦央院の合間に何者かが割り込んでいた。


「そこまでです。この勝負、あなたの勝ちです」


 陸島の十手による打撃をトンファーによって抑えたのは吉川。

 燦央院百合香の部下である。


「なんだお前。誰……だ」


 問いかけようとしたときに陸島は膝から崩れ落ちる。

 しかし気絶しているわけではなかった。


「……申し訳ございません。お嬢様」


 燦央院の方を向いて吉川は申し訳なさそうに謝る。

 彼女は既に倒れ、気を失っていた。


「勝者、陸島鉄明!」


 審判の女性がどこからともなく現れ、此度の決闘の結果を周囲に告げた。

 第三者の介入による失格によって生まれたこの結末に、周囲はただ驚くばかり。


「嘘……でしょ」


 流山椿にはその結末は理解できなかったのか地面に倒れている燦央院から視線を動かせなった。


(ありえない。私のような見習い忍者とは違って、本土で組織と戦っている燦央院さんなら勝てるって思ってたのに……アイツ、化け物!?)


「か、勝っちゃった。あの強そうな燦央院さんに……!」


「いや、強いさ。燦央院さんは。だがあいつの方が一枚上手だった」


 鼠川も決闘の結果に驚くばかり。

 蛇島も同様。だが疑念の目を向けていた。それは口より流れる。


「だがあの戦いは何だ。砂をかけるってなんだ。姑息じゃないのか?」


「いや、理にかなってるよ。戦いにおいて視界を奪うのは上等な手段。それだけで結構なアドバンテージが生まれるよ」


 決闘中の砂をぶつける攻撃に関しての意見に外崎が答える。冷静に、そして肯定的に。


「だがこれは由緒ある決闘ではないのか?」


「決闘と言ってもそんなんじゃないよ。どっちかと言えばこの決闘って将来組織の魔女や悪い奴らと戦うための模擬戦に近いから。それだからでしょ。アイツはどんな手段でも使う気だった。相手があの燦央院百合香だから。だから陸島は持てる全てをぶつけた。そして勝利をもぎ取った。それだけでしょ。ちょっとダーティかもしれないけどさ」


「……そうだな」


 淡々と述べる外崎に蛇島は言葉を詰まらせ、彼女に同意した。


「あれ?決闘終わった?早くない?」


 重い雰囲気の中を軽い足取りで鴉田が入り込んでくる。


「か、鴉田……お前どこに行ってた?」


「トイレ。道に迷っちゃってさあ」


 どんがらがっしゃーん。


「お前なあ!!この決闘という大事な時に何してんだ!?」


「仕方ないだろ!道に迷っちゃったんだからさ!!」


「はあ……帰る」


 こんなところで鴉田のマイペースが炸裂。これには蛇島も突っ込まざるも得ない。

 その間に外崎はそそくさとその場を離れた、一方で鴉田は視線を闘技場の舞台に向ける。


「うわ。あそこまでやるか」


 鴉田の視線の先には倒れていた燦央院が吉川を始めとした部下の者たちに支えられ、その場を去っていく光景が見えた。燦央院の体はあちらこちらに傷があり、十五の乙女の怪我にしては痛々しいものだった。


「燦央院さん……くっ!」


 その姿が視界に入った時、蛇島は勢いよく駆けだしてその場を離れる。

 駆けるその姿に鼠川は目を見開く。


「あ、蛇島君……!」


「……パートナーですからね。そりゃあ心配なんでしょ」


 流山も鼠川と同じように蛇島を目で追っていく。

 その折、鴉田が何かに気付いた。


「あれ?相原さんは?」


「え?あれ?ツバキちゃん?」


 周囲から相原紫苑の姿がいつの間にか消えていた。

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