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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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41/102

7-3

「はあぁっ!!」


 巻きおこる炎の中、燦央院は両腕を使って勢いよくハルベルトを頭上にて回転させる。

 そして地面にそれを叩きつけた。


(あ?なんだそりゃ?いったい何を――)


 一連の動きに陸島が疑問を浮かべていたその時、答えが足元より差し迫る。


「そうくるかっ!」


 バックステップでその場を離れる。

 瞬間、炎の槍が彼のいた足元より吹き出す。


「甘い!」


 さらに数本の炎の槍が所々に吹き出す。

 そのまま回避行動を陸島は続ける。


「だがこんなもんで!」


 陸島は攻撃の回避を確実にして見せた。

 何故なら炎の槍は発生から噴出までにラグがあった。足元より感じる振動から噴出までの合間に微かに時間があったのだ。


「こんなもので俺が倒せると――」


「甘いと言ったでしょう?」


「何?」


 燦央院は笑っていた。

 回避された攻撃に。陸島に。


「あっ、危ない!」


 相原は叫ぶ。陸島の頭上より降り注ぐは炎の弾による雨。

 燦央院が炎の槍を噴出させる際に追加で放った魔法。狙いは陸島とその周囲。


「ちっ、そういうことか……!」


 陸島の足元より噴出する炎の槍、周囲に降り注ぐ炎の雨。

 全ては同時に叩き込まれた。

 巻きあがる土煙に鼠川と流山は驚きを隠せずにいた。


「す、凄い……。燦央院さんってあんなに強いの?」


「え、ええ。燦央院家の跡取りって聞いてましたけどここまでとは。これであいつ、死にましたね」


「死んだの!?ってか何で笑ってるの!?」


「ケケケ……いやあだってこれはもう――」


「生きてる」


 流山の不敵な笑みを否定するように外崎は断定する。


「気配がする。というかアイツから見て左側の爆発が若干早かった」


「うそ……。死んでくれてないの?」


(流山さん、どんだけ陸島君の事嫌いなの……)


 鼠川が流山の態度に引いていると煙が晴れ、陸島が姿を見せる。

 傷も何もついてはいなかった。彼の前には何か衝撃によって砕けた土の壁の残骸が立っていた。


「あれは……?」


 蛇島はその残骸を不思議に見る。

 相原はほっとしてそれを見た。


「大地の壁。大地の魔法は地に関するものを自在に操れるの。蔦もそうだし、大地そのものも操れるわ」


「なるほど。炎の雨が着弾する瞬間に壁を張ってダメージを回避したわけか」


「うん」


 蛇島はその説明で納得した。

 一方、相原は自身のその説明で納得してはいなかった。


(確かに凄いけど、そんな瞬時にやるのであれば練習がいるはず。いつの間にそこまで……一人で)


 上達していた彼の魔術の腕前に衝撃と不安の波が広がる。


(陸島君。貴方を突き動かす憎悪はどこまで深いの?本当に貴方は死にに行こうとしているの?)


 以前出会った木下との会話で陸島の心の向かう先を知っていた。

 死へと向かう者の足取りによって締め付けられる心。それが生む痛みに思わず泣きそうになっていた。


「ふう……随分やるじゃねえか。流石お嬢様だ」


「あら。上から目線?大した言い方ですこと」


 相原の心配はお構いなしか、陸島は学ランに着いた衝撃によってついた土ぼこりを払う。


(防御は上手くいった。今の攻撃は恐らく最初に炎の槍を数本事前に指定してから振るったな。二重の詠唱はそうそうできるものではなく、魔力も集中力も求められると聞く。その後の炎の雨は多分、槍による攻撃を終えた後に油断した俺に降り注ぐことで俺を倒すことを狙ったんだろうな。最もそうはならなかったが。多分俺を試しているんだろうな。腹立つなコイツ)


 先ほどの攻撃に関して分析している時に自然と溢れてきた怒りを胸に、刀を燦央院に向けて構える。


「組織と戦っているって話、マジらしいな?」


「信じておりませんでしたの?」


「ああ、振るいだけのアマだと思ってたよ」


(コイツ……!)


 陸島の安い挑発に静かに怒る燦央院。


(攻撃は止められた。多分この男は自分を試しているのだろうと思っているのでしょう。あの連続攻撃は私が組織との戦いでも使っている手法。広範囲による攻撃で敵の仲間もろとも吹き飛ばす連続攻撃。それを初見で防ぐとは。熟練の組織の魔女ならまだしも魔術師として半年も経っていないのにそのような芸当ができるとは。これがウォーロック……!)


 先ほどの防御に関して分析している時に自然と溢れてきた驚きを胸に、ハルベルトを陸島に向けて構える。


――だがそれにしても何を企んでるこの男


 その脳裏では陸島の一手を読もうとしていた。

 挑発の裏にある何らかの一手を。彼が自分を倒すための一手を。


「ああそうそう。別にお前を煽って攻撃を誘うって気はないぜ?」


「なんですって?」


「こういうことだ。歯あ食いしばれや!」


 その時、陸島は思いっきり、右足で地面を踏んだ。

 震脚と呼ばれる動作にて地面が大きく揺らぎ衝撃を周囲に起こし、辺りを大きく揺らす。


「きゃあっ!?」


 発生源の陸島の周囲の地面が砕け、平らな地面はその衝撃によって海の波のように盛り上がり、辺りを襲う。

 観客席にもその衝撃は届く。


「うわぁっ!?」


「ひいっ!?」


 鼠川と流山は思わず声が出る。


「み、みんな大丈夫か!?」


 蛇島は周囲を見渡す。

 パニックで喚く人たち、その場にうずくまる者。


「こ、ここまでやるの……?」


 相原はおびえる。

 更なる力の成長を見せる陸島に。


「アイツ……やばいね」


 冷や汗をかいていた外崎は宙に浮いて地震の衝撃から身を守る。

 衝撃の中心にいた陸島はまっすぐに燦央院を切り裂かんと突っ込む。


「ほうらじっとしてたら死ぬぞ!」


 叫びながら斬りかかる陸島。

 燦央院も正面からくる黒い意志に迎撃せんとハルベルトを構えなおすが、姿勢が今一度整ってなかった。


「ええい、まだまだっ!」


 固まらない姿勢。

 それでも陸島の振り下ろされる斬撃にハルベルトをぶつける。ミシミシと音を立て、互いの矜持がぶつかり合う。


「はっ。どうやら飾りじゃないみたいだな」


 陸島は一度離れ、今度は別の角度から斬りかかる。

 燦央院はこれを防ぐ。さらに連続で斬りかかる陸島。しかしそれらは全て振り払われる。


「当たり前でしょっ!」


 右手でハルベルトを構えながら彼女は左手で炎を操り、陸島に向けて放つ。 

 しかしそれが届くことはなく、彼は横に飛んで回避を間に合わせた。


「ああもうめんどくせえ――」


 愚痴をこぼす陸島は不意にバランスを崩す。

 地面に左手を当てて、燦央院を見上げる。


「あら?面白い降参の構えかしら?」


 にやりと笑う燦央院。


「ほざいてろアホ!」


 不敵に笑う陸島。

 その不敵な笑みに違和感を覚える燦央院に一つの土くれが投げつけられる。


「なにをっ……!?」


 瞬間、それは飛び散った。

 砂の波が宙に、燦央院の視界を覆う。たまらず彼女は目を伏せる。


(しまった。これが狙いか……!)


 目に入った微かな砂に思わず目を閉じる。

 先ほど、バランスを崩した陸島だったがこれはわざとだった。地面にある土くれを左手でぎゅっと掴んで彼女にぶつけるためだった。


「まずい!!燦央院さん!!」


 蛇島が慌てて大声を上げる。


「あ、ああ……!」


「いけない!避けて!!」


 震える流山、叫ぶ相原。

 燦央院が慌てて目の砂を取り除こうとしたその時――


「これでどうだっ!!」


 再度、刀を持って陸島は斬りかかる。

 決着の瞬間はそこまで来ていた。

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