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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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40/118

7-2

(決闘まで時間はない。他に行うべきことは……)


 陸島は『ひらさき』にて食事を終えると、そのまま教室に戻らずに屋上にいた。

 屋上には他に数名の女子が陣取って食事をしているなかで陸島はフェンスの向こうから見える街をじっと見て次の燦央院との戦いに備え、思案を巡らせている。


(基本的な戦い方は問題ないだろう。相手は既に本土で数多の依頼をこなしているという燦央院だ。戦いには慣れているはず。前のチビとは違う。肉弾戦も魔術戦も一回りも二回りも違うだろう。今ある自分の手札をもう一度整理して――)


「あら、ここにおりましたの」


 思案する陸島の後ろにその女はいた。

 燦央院百合香。次の陸島の決闘の相手である。


「……何しにきた」


「あら、別にいいじゃありませんか。私だってこの風景を見たいときはありますわよ」


 周囲がざわつく中で燦央院は気にもせずにフェンスに近づき、街の風景を見る。


「貴方はこの決闘に……いえ、未来に何を見ておりますの?」


「さあな。決闘は通過点だと思ってる」


 通過点という言葉に燦央院は陸島の方を見る。

 その目はまっすぐだった。


「……ほう。この私との戦いを通過点扱いですか」


「文句あるか?」


 きっぱりとした陸島の切り返しに燦央院はたまらず笑った。


「ウフフフ……いいえ。それでこそ倒しがいがあるというものです。もしあなたが勝ったのならあなたの復讐とやらに手を貸してあげなくもないですわ」


「あ?役に立つのか?」


「我が燦央院家は家が成り立って以来、三百年以上の歴史がありますの。私の魔法はその家より代々受け継がれてきた。貴方くらい倒すのは造作もありませんわ」


「そりゃあいい。期待してるぜ」


 陸島は目の前にいる燦央院にまるでお目当ての商品を見つけたかのように笑って、その場を後にした。

 去っていく彼を見ている中、一人の女性が燦央院の近くによる。


「良いのですか?あのままで。陸島という男、調べでは橘樹の家の関係者のようですが……」


「彼の復讐劇に家が消極的なのかそれとも家と何かあったのか……そこを見極める必要がありますわね」


 雨が今一度降り始めようとしていた。

 曇りだす空に二人は一度その場を離れる。


 決闘前夜。

 燦央院百合香は自分の家が島に持つ豪邸の一室にて作業をしていた。作業内容は機関や自分の家の部下たちからの報告書を読み上げ、承認や確認をするというものである。


「ふう。今日は多いですわね……」


 彼女の座る机の前には、書類の束が綺麗に置かれていた。

 彼女は齢十五にして燦央院家の三番目にある立場であり、同時に家にある仕事に対しある程度の裁量を両親より振るわれていた。全ては将来、この家を継ぐために。


「お嬢様、そろそろ眠りになった方がよいのでは?明日は決闘ですし……」


 心配そうな目で吉川が燦央院に作業の終了を提案する。


「そうね。私もそろそろ眠りに着こうかしら?まあ私にとっては明日の決闘など単なる『通過点』ですわ」


「……ひょっとして今日の事、根に持ってます?自分の事を小さくみられているとかで」


「まさか。あれは、あの目は間違いなくこちらを討とうとする本気の目でしたわ。彼は気づいていないようでしたけれど……。でもああいった者を止めるのもこの家を継ぐものとしての使命かもしれませんわね」


 昼に見た陸島の目を彼女は思い出す。

 獲物を見つけ、殺そうとする人の……否、ぎらつく獣の目を。


「吉川、万が一もし何かあったらしばらくは貴方に代行を任せるわ。いいわね」


「……心得ました」


 吉川は首を縦に振って了承した。

 彼女の心には一抹の不安がよぎっていた。

 そしてその時は来た。

 決闘の日、晴れた空。闘技場に二人の魔術師が並ぶ。

 さらにその周囲に設置された座席には観客として女生徒や島の住人が座っていた。


「さて……お覚悟はよろしいでしょうか?」


「それはこっちのセリフだ……ところでそれはなんだ?」


 陸島の視界には燦央院の隣にある細長い鉄製のケースが見えていた。


「ああ、これですか。これはですね――」


 ケースを開き、中身を取り出す。

 そこより姿を現すのは一本の武器。


「そいつは……ハルベルトか?」


「ええ。特注品で軽く、そして硬い。感謝なさい。今日の為に私が用意した新品なのですから」


 笑みを浮かべ、その特注品を陸島に向ける。

 ハルベルト。それは槍の穂先に斧頭、反対側に突起のついた長いリーチを誇る武器。

 特徴としては『切る』、『突く』、『叩く』などの様々攻撃手段が可能であり、そのためのリーチも備えているという万能さが魅力だ。

 この日、燦央院が用意したのは平均よりやや短い全長百八十センチメートルで燦央院が扱いやすい長さに調整された代物。銀色に輝くそれは燦央院の輝きを示すかのようで、彼女はそれを振りまわすと、太陽光に当てられてさらにその輝きを示す。


「おお、そりゃあありがたい!潰しがいがあるってもんだ!」


「フフフ……大口叩くのも今のうちでしてよ!」


 互いに武器を手に取る。

 片方は日本刀。片方はハルベルト。

 決戦の火ぶたは切って落とされようとしていた。


「わぁ……はじまりそうだけどこれどうなるんだろう」


「少なくとも燦央院さんがあの陰険をコテンパンにして終わりってことくらいしかわかりませんね」


「そうだといいけど……陸島君もなんか得体が知れないというか……」


 観客席にて隣り合って鼠川と流山が試合を見ていた。

 鼠川にとって魔女の戦いというのはこれが初めて見るもので一方で流山は負けた陸島に対し、『ちゃっちゃと負けろ』と手のひらを両手共に広げて念を送っていた。


「すげえ。こんなアニメみたいな光景あるんだ」


「例えがチープ」


「チープ!?割と俺の中じゃ高い方なんだけど!?」


 鼠川たちの近くには鴉田と外崎もいた。

 さらにその近くには相原と蛇島もいる。


(陸島君……燦央院さん。互いにひどいけがをしないといいけど)


「心配かね?二人が?」


「え?ああうん。陸島君、戦い方がこう乱暴というか意外というか……」


「ら、乱暴で意外?どういう意味だねそれは?」


 相原の説明に困惑する蛇島。するとそこに外崎が説明をする。


「アイツの戦い方、前に見たことあるよ。あれは武術とかそういうのをどこかで学んだんだろうね。動きが洗練されてたよ。しかも魔法もしっかりと使いこなしてる。それで流山を倒してた。……でもあの叫びは勘弁してほしいね」


「はあ。それで流山さんを下したのか」


「けっ。運が良かっただけですよ。あんな乱暴な戦い、魔術師らしくもない。ゴリラが魔法覚えて振るってるようなもんですよ」


「じゃあ流山はゴリラを振るう魔法に負けた訳か」


「うるせーですよ鴉田。……今何か言葉がおかしくなかったですか!?」


 気のせいです。多分。


「あ、始まるみたいだよ。審判の人が来た」


 鼠川が戦う二人の合間にスーツを身にまとった女性が入ってくるのを確認する。

 審判の女性は二人を離れさせて所定の位置に着かせる。


「それでは準備はよろしいでしょうか?」


「いいぜ」


「こちらも構いませんわよ」


「それでは……はじめ!」


 開始の合図と同時に、陸島が手を振った。燦央院の足に大量の蔦が絡む。


「ほう。いきなりこう来ますか……」


「行くぞ!!」


 絡む蔦。飛び込む陸島。


――何してくるかわからないが、こういう場合は先手必勝。大きな獲物も振り回せなければ


 抜刀に際し、彼女を絡めとる蔦をさらに増やし、今度は両手に絡ませる。

 猪がごとき突撃にて、今にも彼は斬りかかろうとしていた。


「呆れましてよ」


 その時だった。燦央院の周囲を熱が、燃え盛る炎が覆ったのは。


(何だ!?)


 陸島がそれを理解するよりも早く、絡まっていた蔦は焼き切れ、そして燦央院の周囲に炎が舞う。

 理解したときには陸島の足は止まっていた。


「さあ、お覚悟はよろしくて?陸島鉄明!大地のウォーロックよ!」


 舞う炎の中心にてハルベルトを突き付け、真っすぐ陸島を見る気高き瞳。

 燦央院百合香の炎はそう消せはしない。

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