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「とまあそんなことがあったわけよ。因みに食事代は学生だったから無料だったぜ。いやあまさかあんな所に美味しい和食の料理屋があったとはね。しかしおごると言っておきながらあのお店もタダだったから、お兄ちゃん恥ずかしい」
「外崎さん……ねえ。流山さんなら何か知ってるかも」
外が暗闇に満ちた午後十時。
べらべらとしゃべる鴉田が慌ただしく身振り手振りを振るう中で気になった最低限の情報のみを抽出して鼠川は誰だろうと考える。
男子寮のラウンジにて鴉田と鼠川がその日の出来事を話していた。
「そういやお前はどうなんだい?あの流山さんだっけ?自称、忍者の末裔だとかって」
「いいや、マジで忍者だよ」
しばしの沈黙の後、鴉田はわくわくした表情で鼠川に迫る。
「マジで!?じゃあアレとかできるの!?お色気の術とかさ!」
「……それはできないと思うよ」
「なるほど。お前から見て流山さんには魅力がないと」
「違うって!魅力はあるとは思うけど、本人そういうの嫌がりそうだし!!」
「だろうな。ああいうのは普通に斬ったり焼いたりが得意そうだもんな。あとは蝋燭やら釘やら持ち出して拷問を仕掛けたりとか――」
「怖いよ!!」
「なんだね騒がしい」
騒がしいラウンジに蛇島が入る。ジャージを着て、髪の毛についていた水気をタオルで拭き取っていた。
「あー……俺もそろそろ風呂、入らんとな」
「ところで何の話をしていたんだ?」
「今日の出来事だよ。鴉田君、なんでも外崎さんって人がパートナーらしくて」
「外崎……聞かない名前だな。入ったばかりだからというのもあるが」
「でしょ?鴉田君の話からして多分サボり魔……なのかも」
「うーむ。曲者のようだなそれは。まあ貴様のような奴にはお似合いかもな」
「ほう。俺がダウナーで短髪で実は巨乳な女子が好きだとなぜわかった?」
「そこまで言っておらんわ。で、仲良くなれそうか?」
「多分な」
鴉田は手にもったスマートフォンを操作すると、何かを見せつける。
「なんだねそれは?」
「猫の人形だ。猫が好きな女子は多いはずだ。まずはこれを軸に会話を切り出していけばいい」
「好きな物の話題ってことか。いいかもね」
「ああ、そして猫カフェに行ってより話題に没頭して修行も一緒にして二人の時間を増やしていってそしてそして――」
「おい、顔が気持ち悪いぞ。元からかもしれんが」
「なんだと!?女子の前で二度半裸さらしたお前に言われたくはないわ!!」
「どっから聞いた貴様!?」
「あーもう二人とも落ち着いて――」
喧嘩待ったなしの状況。
喧噪に火が付きそうなその瞬間、ラウンジのドアが勢いよく開いた。
「へ――」
手に刀を持った陸島が鬼の形相でラウンジに入る。
気迫迫るその表情に思わず蛇島が声を上げる。
「ちょ、ちょっと待て。僕たちまだ何も悪いことしてないぞ?」
「あ?なんだそりゃ?」
陸島は彼らに呆れたように返すと設置された冷蔵庫を開き、中にある食材を吟味し調理を始めた。
「あれ?今からご飯?」
「ああ、動いているとどうにも腹が減る」
「ということは魔法の修行かね?勤勉だな」
「悪いか?」
「……いいえ全く」
黙々と調理を開始する陸島をよそに三人は小声で会話を始める。
「……アイツだけ世界観違くない?何というかこう……戦闘狂というかさ。貝料理を貝殻ごと食いそうというか」
「戦闘狂って……過去の出来事もあるがあれで目的が達成できるとは思わんぞ?あと貝殻は食わないタイプだろうさすがに」
貝殻を食べるのはやめましょう。
「ぼくもそう思う。でも先生たちは何も言ってこないんじゃない?」
「というと?」
鼠川はしばらく考え込んで二人に話す。
「もし本当に問題だというのなら今頃先生たちからの修正が入っていると思う」
ここで鼠川が言う修正というのは軍隊における懲罰に近いものを指す。
「でもそうはなっていない。これは彼の行動がそこまで問題じゃないってことだと思うんだ。一緒に練習していた流山さんは『なんで放置なの』とぼやいてたけど」
「はあ。そういうもんなのかね?」
「多分ね。そろそろ修正とかが起きるとは思っているけど」
「修正……か。やっぱアイツの目的は復讐か?鼠川の話通りなら多分そのために力をつけてるんだろうな」
三人が陸島についてあれやこれや話している一方で当の本人は料理を作り続ける。
数十分後、料理が終わって食器に盛り付けるとそのまま食事を始める。ちなみに作っていたのは肉じゃが。さらによそった白飯にお味噌汁。
(意外と普通だ!)
思ったより家庭的な料理が出てきたもんで鴉田は目を丸くした。
色合いも悪くなく、否応なしに届く匂いに満たしたはずの三人の腹が鳴りかける。
「……なんだお前ら。やらんぞ?」
「いえいえ欲しいだなんてこれっぽっちも言ってないゾ」
鴉田必死の弁明。
しかし鴉田の腹は鳴った。
「……かぷめん開けるー」
ここで鴉田が言うかぷめんというのはカップ麺の事。
種類豊富にてお湯を注ぐだけで様々な美味しい味が楽しめちゃう現代っ子の必需品(?)なのだ。急ぎ部屋に戻り、買い込んでいたカップ麺を取りにいった。
「育ち盛りだもんね。鴉田君は」
「いやいや君もだぞ?鼠川」
鼠川、蛇島も買い込んでたカップ麺を取りに戻る。
間もなく夜のラウンジに濃い香りが広がる。醤油、味噌、豚骨の香りが。
夜も更けていくその頃、二番街にある女子寮の一室にて。
一人の少女が机の上で本を手にとって並ぶ文字の海に目を泳がせている。
「くかー……すぴー……」
ベッドで眠りについているのは相原のルームメイトの流山椿。
本を手に読んでいるのは淡いピンク色のパジャマに身を包んだ相原紫苑。
(うーん……。やはり実践してみないと。でもこんな深夜に出歩くのもなあ)
書物は島にある図書館から干木と一緒に探した大地に関する魔術の本。
基本的な蔦の召喚からさらに応用までを網羅し、わかりやすくまとまっていたもので相原はそれらについての知識を深めようとしていた。
(やっぱり魔法は振るわないと駄目だよね?陸島君、こんな夜遅くでも出歩いて修行してるって鼠川君言ってたし。魔術に関しても多分ウォーロックなのか上達が早かった。これじゃあ差が開いちゃう――)
などと考え込んでいると突如、部屋の明かりが灯る。
「あれ?」
「目を悪くしちゃいますよ?」
明かりをつけたのは流山。
心配そうな目で相原を見つめる。
「ああ、ごめんねツバキちゃん。ちょっとどうしても読みたくて」
「なら明かりは付けたままでいいですよ。これでも寝れますから」
親指を立てて流山はそのままベッドに飛び込んだ。
しばらくしてまた先ほどのように寝息が聞こえだす。
(ごめんねツバキちゃん。もう少ししたら私も寝るから)
視線を再び本に向ける。
内容を脳裏に取り入れるように。
「やー……だからどりょくのー……天才が一番だって――」
「……何の話なの?」
流山のよくわからない寝言に困惑しながらも彼女は魔術の知識を深める。
いつか彼に認めてもらうために。




