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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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33/102

6-1 Heat&Cool

 さて、今朝は色々ありましたけれど、とりあえずあの煩いのがいなければ大丈夫そうですわね」


 先ほどのホームルーム前から時間は進んで放課後、燦央院と蛇島の二人は学校の空き教室にいた。

 規則正しく並んだ学習机も教壇もない本当に空っぽの教室にいた。


「ああ。アイツだったら帰り際まであんな様子で懲りなかったから腹に一発打ち込んだら動かなくなったが……」


「だいたい鴉田が悪いのわかりますけど……あなた、なんでそれが出来たんですの?」


「……まあなんというか。気合いだ」


「気合い!?」


「まあ何と言うか……僕はこれでも護身術や空手などを父や学校から教わっていてね。あとはトレーニングなどを少々やってる。それだけさ」


「にしても随分なれてましたね。貴方何者ですの?」


「何者って……事前情報とかはないのか?」


「刑事の息子ってことくらいしか聞いてませんわね」


「そうだ。確かに僕は刑事の息子だ。父さん、僕が魔法使いになる素質あるって言ったら頭を抱えて唸ってたの覚えてるよ。あの武骨で厳しい父さんがね」


「あら。そうでしたの」


 燦央院は自分のカバンから何かを取り出し、それを蛇島に手渡す。


「それならば貴方には立派な魔法使いになってもらわないといけませんわね。授業は明日以降ですが、先に予習も兼ねて勉強しておきましょうか」


「これは?」


「パートナーである貴方の為に作った杖ですわ。最初はここから始めていきましょう」


 燦央院が蛇島に渡したのは一振りの杖。

 成人男性の腕より一回り小さく、チョークより一回り太い。

 全体的な長さの三割が持ち手で構築された木製の杖であった。


「うむ。それで父の仕事に、治安維持に貢献できるというのなら良いさ」


「ええ。それじゃあ始めましょうか。教科書はもうお読みになられました?」


「ああ。冒頭の部分は。最初は何を?」


「まずは杖の先端に炎を灯してごらんなさいな」


「ああ、じゃあやってみよう」


 蛇島は教科書の手順に沿って呪文を詠唱し、杖の先端にエネルギーを込めるように両手に力を込めた。


「はあああ……」


(……なんか違うような)


 魔術に慣れた燦央院からしてみれば違和感のあるその仕草。

 燦央院からしてそれは魔法を使うというよりは、それはどちらかといえば武術における気合を込めるように見えた。

 そして違和感は結果を生む。


――バリィッ!


「え?」


 蛇島は驚愕した。

 魔法を使おうとした途端、自分の着ていた学ランのシャツが盛大に破れる。


「……燦央院さん、これは一体――」


「イヤアァァァァッ!!」


 ばちこーん。


「ぶはぁっ!」


 勢いのあるビンタが半裸の男を吹き飛ばす。

 なお、彼は故意にそうなったわけではない。


「……で、どういうことなんだ。これは?」


「お、恐らくは魔力の暴走でしょう」


 頬を真っ赤にしながら燦央院は事の詳細を説明する。

 ちなみに服は予備のが保健室にあったのでそれを貰いました。


「貴方は魔力が制御できていなかった。それだけですの」


「暴走?そんなことあるのかね?」


「あり得ます」


 怒りのこもった視線を燦央院が向ける。蛇島はそれに思わず目を背ける。


「あ、ああえっと……とにかく次から気を付けるよ」


 慌てながら彼はもう一度杖を握りしめ、集中する。先ほどの魔法を発動する姿勢とは打って変わって今度は動作を小さく、弱々しくして蛇島は魔力を込め始めた。


(しかし……あり得ませんわね)


 蛇島の練習をじっと見つめながら燦央院は考える。


(魔力が暴走するというのはケースとしては魔術道具を作成時に魔力を込める際にその流れが大きすぎる、入れ方が間違っているとかであり得るもの。でも今のは違う。小さな魔法を発現しようとしての失敗。杖自体は普通。それでいてこの結果。これが意味するところは蛇島君の魔力が強いという事。それもかなりの――)


「できたぞ!」


 思案を遮ったのは蛇島の成功の叫び。

 杖の先端に生まれた炎は蝋燭のように淡く揺らめく……わけでもなく何かを炙ろうとするバーナーの如き炎がうごめいていた。


「……もう少し弱くできませんの?」


「え?ああ――こうか」


――バリィ!


 再び蛇島の服が先ほどと同じようにはじけ飛ぶ。


「だから何でそうなりますのー!?」


 蛇島の修行は困難になりつつあった。

 とりあえず、またビンタが一つ炸裂したのは事実である。


「俺のパートナーはあんたかいお嬢ちゃん?」


 一方そのころ、鴉田春一は玉之江島北側にある森の中に作られた公園にいた。

 時刻は夕方過ぎ。さらに暗くなりだした頃なのか人の気配は鴉田とその目の前にいる一人の学生以外にはいなかった。


「気障なのあんた?」


 鴉田がお嬢ちゃんと呼んだ女学生は背丈はお嬢ちゃんと呼ぶにはやや高い。

 鴉田の身長が百七十後半に対し、彼女は百六十半ば。体つきは胸元はそれなりに出ており、すらっとした腰つき。服装は夏もあってか、半袖のベストにYシャツとミニスカート。そしてニーハイソックス。


「……一応自己紹介。外崎菖蒲そとざきあやめ。よろしく」


「よろしく。ところでセーラー服じゃないの?」


「似合わないからこっち着てる。何か?」


「滅相もございません。ニーハイソックスといい大変よく似合ってますよ」


「キモ」


「褒めたのに!?」


「……で、あんたが鴉田?」


「はい。ワタクシこそ稀代のウォーロック、鴉田春一でございます」


「四人いるけどね。ウォーロック」


 手に持ったスマートフォンを気だるげにいじりながら外崎は突っ込む。


「そんなに珍しいか?男の魔法使いっての」


「珍しいって言うか……そもそも今年になって初めて見た。四人もいるっていうのが信じられないって先生たちは言ってたけど」


「ほほー。そうですかー……ところで君、今日いた?学校に」


「来てないけど」


「何故?」


「疲れてたから」


 気だるげな態度を取り続けながら、外崎は会話をする。

 何かに気づいたのか鴉田はバツの悪そうな顔をした。


「そっかー……そりゃあ悪いことしたね。どうだい?今夜はパートナーとして今後も仲良くやっていきたいし、八番街にあるっていう夜景の素敵なホテルで食事でも――」


 鴉田が提案した瞬間、彼の首には冷たく光る刃が向けられていた。外崎が左手に持っていたのは西洋の剣士が握っているのを思わせるデザインの片手剣。その刃は刀のように細く、刃渡りは脇差ほど。


「なんで!?食事に誘っただけじゃん!?しかもあのホテルのローストビーフ絶対うまいって!!だから刃下ろして!!」


「ホテルって言った時点でね。あとあんたの話は萩野から聞いてる。随分とまあ思春期真っ盛りみたいで」


「だって思春期……あの、刃を近づけるのやめてもらえます?」


「場所変えて。でないと斬る」


「……じゃあ、あなたのリクエストで」


 泣きそうな声で震えながら鴉田は答える。

 本当に怖いから仕方ないよね。


「ならひらさき」


「へ?」


「ひらさき。場所は案内する」


「ハイ。オゴラセテイタダキマス」


 主従関係が決まり、二人はその場を離れる。

 目的地は定食屋『ひらさき』。外崎菖蒲のお気に入りの場所である。

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