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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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32/102

5-4

 そして翌日。


 その日は朝から雨が降って、空は澱んでいた。


「蛇島君はいるかしら?」


 ホームルーム前の教室。

 燦央院は教室に入って蛇島を探す。


「なんだい?何か用かね?」


「今日の放課後、うちに来なさいな」


 そのお誘いに周囲の女生徒は驚愕の声を上げた。


――男の人が燦央院家に!?しかも眷属でもなく?


――うそでしょ!?あのムッツリが!?


――あれが家に入ったら大変なんじゃ?


「誰だ僕の事を馬鹿にしているのは!?」


「気にしたら負けよ」


「しかしだな――」


「私はもうあの日の夜の件については許したから大丈夫よ」


「ええーっ!?」


 素っ頓狂な声が教室に響く。

 声の出どころは燦央院の取り巻きの一人。


「あの日の夜って……まさか燦央院様、このけだものに襲われたんですの!?」


「違う違う。いいから気にしないで」


「そ、そうだぞ。言いがかりもほどほどに……」


「そうだそうだー。襲ってなんてないぞー」


 蛇島に向けて、外野からの支援砲撃が入る。

 鴉田からだった。


「ちょっとこういうことがあっただけだ。では回想スタート。ほわんほわんほわんほわ~ん」


「なんか始まった!?」


 鼠川のツッコミをよそに話は蛇島と鴉田の二人が燦央院と出会った時に戻る。






「僕たちが……魔法使いだって?」


「冗談だろ?」


「いいえ。冗談ではありませんわよ」


 彼らが島に来る二週間以上前のこと。

 某所のレンタルオフィスにある会議室にてその会話は行われていた。

 休日の昼間、教室とは違ってシックな風景で学生が入るには少々重い室内に三人は蛇島・鴉田と燦央院が複数枚の説明用の資料が散らばるテーブルを挟んで向かい合って座っている。


「さて、あなた達には近いうちに魔女の住む島に来てもらいます。その日になりましたら指定された場所で指定された乗り物に乗って向かってくださいな。ああそうそう。親御さんにはすでに伝わっていますので後は出発前までには準備を整えてくださいまし」


「ハイ質問」


 そう言って手を挙げたのは鴉田。


「あら、なんですの?」


「魔女の島……でいいのか?その場所に入ったらもう出てこれないのか?」


「いいえ。しばらくは出れませんが出入りが自由になる時が来ますの。それまでにあなた達には魔法技術やこちら側の世界の常識や慣習などを学んでもらいます。それから――」


 彼女の説明は続いている。

 内容は島に移住してからその後どうなるのかについて。はきはきとした喋りに鴉田はふむふむと頷きながら、手に取った資料にメモを書き加えて取っていた。


(凄いな。セーラー服を着ているとはいえ、まるで学校の教師のような……燦央院さんだっけ?何者なんだ?)


 一方で蛇島は同い年でてきぱきと説明を繰り出す彼女の姿をじっと見ていた。

 綺麗にまっすぐに伸びて艶のある髪。

 しわ一つ見えない黒のセーラー服。

 スカートはやや長いひざ下まで伸ばしており、そこから少し見える足はキュッと引き締まっている。またその服の上からでもわかる彼女のスタイルの良さ。たまに机の上の資料を取る際に屈む姿勢を見るとより鮮明なのだ。黒いセーラー服の布地が直立でも押されているのを見るに明らかである。それら全てを見るに同じ世代から見ても抜群のスタイルだろうとわかる。まさしく高嶺の花というにふさわしく――


「ちょっと貴方。さっきからどこ見てますの?資料見なさい資料!」


「……え?ああすまない。なんというか眉唾な話が続いていてな。どうにも疲れてしまって――」


 燦央院の指摘に慌てる蛇島。

 それを見て、にやけるのは鴉田。


「えぇ~?本当?視線が胸の方ばっかだったのに~?」


「ば、馬鹿なことを言うな!」


「はあ……気づかないとでも思っているのですか?」


「いやだから――」


 瞬間、男子二人の合間を何かが遮った。威圧と共に繰り出されたのは燃え盛る炎。


「へ?」


「な……!?」


「お話続けてもよろしいでしょうか?」


 にっこりと笑っているが笑っていない。

 そう感じ取ったのは蛇島。説明が難しいのだが彼女は笑っていた。だが内心は絶対に怒りに満ちている。そんな状態だった。


「……どうなんですの?」


「大変申し訳ございませんでした」


「よろしい」


 淀みなき二つの土下座にて怒りは静まる。

 そんな出来事のあったある日のお話。






「以上回想終了。ほわんほわんほわんほーん」


「なんなのそれ……」


 鴉田独特のかき乱すようなペースに終始困惑していた鼠川であったが、ある程度聞いて段々と納得していた。


「いやまあ、スタイルいいなって思ったけどそれでもむっつりっていうにはちょっと無理があるんじゃない?」


「いやいや。本題は此処からだ」


 きりっとした目つきで鴉田は口を開く。


「俺はな、これでも他人の目の動きに敏感なのさ。だからコイツが終始何を見ていたのかを――」


「ええ加減にせんかー!!」


「ばべっ!」


 堂々炸裂、ドロップキック。

 転がるボケナス、静まる教室。


「な……なんでだ」


「もう一発行くか?」


「わ、わかった。許してくれ。お前のスマホに今流行りののグラビアアイドルの写真が入ってることだけは話す気はないから」


「何で知ってる貴様?!」


 突然の暴露に辺りは静まり返った。


「……あ」


 一瞬で顔をリンゴのように赤くした蛇島。

 女生徒の多い周囲からは嫌悪の目を向けられる。


――えー本当にむっつりでしたの?


――まあ男の子ですもんね


――汚らわしい。鼠川君を襲わないか心配になりますわね


「待って!?今なんか変なの混じってなかった?!」


「気にしたら負けだぜ童顔ボウイ」


「あの……そろそろホームルームだよ?」


 そっと来た早瀬先生はホームルーム開始を告げる。


「あ、すみません。この馬鹿ちんがやらかしましてね」


「僕が!?お前だろ!?」


――本当になんだこいつら


 騒がしい者たちの輪の外側で陸島は呆れた表情で見ていた。

 黒い雨雲が立ち込める外。まだ雨が降る気配はなかった。

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