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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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31/123

5-3

「お、なんじゃ?」


「これは……」


 鴉田、蛇島の二人はそれぞれスマートフォンを手に取って画面を見る。


「……ああ、パートナーのお知らせか」


「こっちもだ。……って燦央院さんが?」


「え!?マジ!?あの美人で華奢でグラマラスのお嬢様が!?お前の彼女!?」


「だから違うだろ!パートナーだろ」


 はしゃぐ鴉田に怒る蛇島。蛇島の頬は赤く染まっていた。


「なんかすごそうな人だっけ?燦央院さんって」


「おう。この島に来る前に出会ったんだよ。政府の関係者らしい人と一緒でさ、いきなり魔女だのどうだのと……都市伝説だと思ってたんだけどなあ」


「確かに。魔女の存在というのは教科書でいうところの魔女狩りだの創作での魔法少女だのでしか知らんかったからな」


「ところで魔女で思い出したんだが、魔法少女って作品によってはやらしいよな?」


「貴様は黙っていろ鴉田」


「えー」


「えーではない。貴様も誰かついたのだろう?このままだと愛想尽かされるぞ?」


「そうでなくても初対面でダメそうだと思う」


 蛇島に続く鼠川のダメ出しに鴉田、ショックを受ける。

 そしてこう返す。


「鼠川、お前冷たくないか?童顔のくせに」


「童顔のくせにってなんだよ!気にしてんだよ!」


「何言ってんだ。その方がモテるぞ」


「やだよ!普通にモテたいよ!!」


 ギャーギャーとわめく鼠川とそれをからかう鴉田。

 ところで普通にモテるってどうやったらできるのでしょうか?


「あーはいはいそこまで。鼠川君もほどほどに。鴉田。お前は人をおちょくるのをいい加減に――」


「黙れむっつりスケベ」


「なんだとこのやろー!!」


 加熱しました。

 騒がしいラウンジに誰かさんが来ました。陸島でした。


「なんだ一体?」


「え?ああ、明日から一緒に登校する二人。えーっと眼鏡かけてる方が蛇島君でかけてない方が鴉田君だよ」


「なんだその紹介!?」


 鴉田は鼠川の雑な説明の仕方にツッコミを入れる。

 実際間違ってはいない。


「そうか。明日からか」


(こっちは動じてねえ―)


「ああ、蛇島だ。えっと……名前は?」


「陸島だ」


 陸島は自分の名字を伝えると、その場を去って自分の部屋に戻っていく。

 その去り際に鴉田はぽかんとする。


「彼……人間嫌いなのかね?」


 蛇島は陸島について鼠川に問う。


「うーん……そうだと思うんだけど。その……過去に色々あったみたいで」


「過去?っていうとあれか?中学二年の時に自作ソングを文化祭で披露したとか給食の時間にメタル系の曲流したとかか?」


「全然違うよ。あのね――」


 鼠川はある日の記憶を二人に話した。

 二週間以上前、陸島と鼠川が玉之江島の案内を受けた時の事である。






「み、皆殺しって……一体何が!?」


 夕暮れが闇を生み出す前、鼠川は目を大きくしてその話を聞いた。

 鼠川、流山、相原は陸島の過去について運転手にして陸島の関係者である木下から聞かされていた。陸島が家族同然に慕っていた人たちを失った事件を。


「その日、彼らは遊びに出掛けた帰り道でした。帰りの途中の道で彼らが乗っていた車が何者かに襲われたのです。魔女も、手練れの眷属もいたその車を。彼らは応戦したようですが、抵抗むなしく殺されて最後に鉄明さんがその場に残りました」


「な、なんでそんなことに?アイツはどうして生きてたんです?」


 冷や汗を垂らしながら流山は事件についてさらに問う。


「わかりません。事件のショックなのか鉄明さんは当時の記憶をあまり覚えていないのです。我々が駆け付けた時には三人は死んでいて、その場で血だらけになって泣いている幼い鉄明さんが一番慕っていた牙谷の亡骸にしがみついて泣いていたのです」


「……そんな事が」


 悲しみに暮れる木下に相原は茫然としていた。


「それからしばらくふさぎ込んでいたのですがね。ある時に何かが吹っ切れたように小学校で暴れてしまって。これは相手が悪いと思っているのですが……とにかくそれからあの人は力を求めるようになった。復讐のための力を。最初のころは警官とか自衛隊に入るって言って聞かなかったのですが、しばらくして魔女の適性があるという知らせが届いたんです。それを聞いた時は本当に驚きましたよ。まさかあの『ウォーロック』だったなんて」


「でもどーして他人とのかかわりを避けるのですか?」


「恐らくはその過去に起因してるのでしょうね。あの頃は本当に彼にとってひどい年だった。それまでもそれからも。それからは力を手に入れるためにトレーニングやらなにやらに手を伸ばしていたようですが……いずれにしろ彼にとってウォーロックになったというのは僥倖でしょうね」


 木下は運転席に乗り込むと三人に『どうぞお乗りください』と声をかける。

 乗り込む三人に木下はこう語る。


「相原さん。嫌になりましたらパートナーの件、解消してくれて構いません。これ以上彼についていくのは危険です。彼は……今の鉄明さんは危険ですから」


「危険?どういうことです?」


「言葉のまんまですよ。あれは死にに行こうとしている人の目だ。すべてが終わったら死ぬ。そうでなくても死なばもろともの精神で彼は戦いに赴く。私にはわかるんですよ。眷属として組織やら危ない存在と戦った日々の中で私の目にはわかるんですよ。まともな人とそうでない人の違いが……」






「……そういう話を聞いたんだ。もちろん僕も陸島君の全部を知っているわけじゃない。だけどこれはどうなんだって思ってさ」


 暗く縮こまる鼠川からの一連の話を聞いて鴉田と蛇島は口を開けて固まる。


「……そんな事があったのかね。それは……なんというか気の毒というか」


「流石にそれは茶化せねえな。っていうか茶化しちゃだめだ」


「うん。しばらくすれば落ち着くかなと思ってたけど、多分無理だと思ってる」


 重い空気の中、しばらく沈黙が走る。

 そんな折、鴉田が手を挙げる。


「じゃあこうしよう。アイツに関しては俺らはとげの立たないように接する。でもアイツが度を越えたら俺らで力づくでも抑えようぜ」


「ああ、それでいい。女子にやらせるのはいささか酷というものだ」


「うん。ボクもそれでいいと思う」


 その提案に男子三人の意思が合致した。






「お話というのは何ですの?」


 さて、時は少し戻って放課後。陸島は燦央院のいる学校の屋上にいた。

 夕日が差し込み始めるその場所に陸島と燦央院以外、人はいなかった。


「なんで屋上なんだ?場所どこでもいいだろ?」


「ええ、ですからここにしたのです。何か問題でも?」


「……まあいい。聞きたいのは組織と戦っているという点についてだ」


「組織と?ええまあ確かに戦ってますが」


「組織と戦うにあたって調べていたことがある」


 陸島は手に取ったスマートフォンを操作して画面を見せる。


「これだ。魔女機関に所属するにはどこかのクランやらギルドとかに入って実績を上げる必要があると。どのグループが良いか。有名だという燦央院家のアンタの意見を参考にしたい」


「なるほどなるほど。であれば良い提案をしましょう。我が燦央院家に招待します。我が家は家柄、実力ともに保障されていますので」


「へえ。そりゃあいい」


「ただし――」


 びしっとした人差し指を陸島に差し向け、燦央院は陸島に先ほどとは違った口調で説明をする。


「貴方にその資格があるのか……試させてくださいな」


「試す?どうやって?」


「簡単ですわ。決闘です。この私と」


「決闘だと?」


 陸島は眉を潜める。


「あら?怖いのですか?」


「まさか。楽でいいと思っただけだ。あんたを倒すだけでいいのなら楽でいい」


「へえ?この私を倒すのが楽だと?」


 陸島の言葉に燦央院の全身に気が張り詰める。

 空気は一気に張り詰めた。まるで一本の糸が引っ張られてまっすぐに伸びたかのように。


「そこまで言うのなら決闘を受けて立ちましょう。舞台は、貴方が以前戦った闘技場でよろしくて?」


「知ってたのか?」


「ええ。お話はある程度聞いてましたので。それでどうなのです?」


「構わねえ。いつだ?」


「来週でよろしいかしら?気の抜ける話かもしれませんが予約だの準備だのがいるので」


「ああ。それでいい」


 陸島はにやりと笑った。


「ところで一つ質問なのですが」


「なんだ?」


 打って変わって燦央院は陸島にその質問を投げる。


「竹月組は……貴方の家ならば別に燦央院家でなくてもよいのでは?コネクションに人数と明らかにそっちの方がよいと思いますが何故です?」


「俺のやりたいことには力は多い方が良いと思っただけだ」


 竹を割ったかのようなシンプルな回答に燦央院はしんと静まる。

 表情も真顔になり、陸島は怪訝な目を向ける。


「なんだ?俺が狂ってるとでも言いたいのか?」


「いいえ。強欲であるのは悪くはありませんわね」


 彼のそのシンプルな回答が燦央院に称賛を含んだ笑みを作らせる。それとは対照的に、静かに夜が訪れ始める。

 新しき朝の為に。新しき日の為に。

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