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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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30/112

5-2

 体育館にはすでに多くの生徒が集まっていた。

 昼休みの終わりの時間帯あたりに集会が起きるというのは珍しいようで辺りはざわついていた。


「あ、ツバキちゃん。こっちこっち」


 流山に気づいた相原が手を振って呼びかける。クラスごとに並んでいた列に流山と鼠川の二人が駆け寄り、合流。


「げ」


 そこには陸島もいた。

 流山は嫌な顔をしたが全員集合の周回なので、当然と言えば当然である。


「げ、って……まあしょうがないよ流山さん」


「まあそうですけど何でこいつシオンちゃんの隣にいるんですか」


「私が呼びに行ったから。ひらさきまで行ってたの」


「ひらさき?随分遠くないですか?」


「流山さん、ひらさきって何?」


「確か、和食中心の定食屋です。ざるそばがおいしいとかで有名な」


「うん。ほぼ毎日足を運んでるって店長さん嬉しそうに言ってた」


「文句あるか?」


「ないよ。店長さん凄い嬉しそうだったよ。外崎さん以外にも学生さん来るんだって」


 外崎という聞きなれない単語に陸島は目を細める。


「外崎?誰だそれ?」


「えっとね――」


「はい皆さん。そろそろ始まりますよー」


 手を叩いて呼びかける早瀬の声にざわつきは少しづつ小さくなっていく。

 生徒たちの視線はやがて体育館壇上に向かう。


「皆さん、こんにちは。突然の集会ですが早速始めたいと思います」


 壇上からマイクを通して校長先生が声をかける。


「さて……皆さんに集まってもらったのは他でもありません」


 校長先生は一呼吸をおいて告げた。


「なんとまた転入生のウォーロックが来ました。しかも二人です」


「ええぇーっ!?」


 女子生徒たちは一斉に驚愕の声をあげる。

 陸島たちの四人を、先に知らされた者たち以外。


「僕の時もそうだったけど……まあ、そうなるよね」


「ですです。まさかまさかの二名ですもんね」


 事前に知らされていた鼠川と流山が小声で会話をする。

 一方で陸島と相原もざわつきを見て会話をしていた。


「さてと……どんな奴だか」


「強い人だと嬉しい?」


「さあな。敵じゃなきゃいい」


「大丈夫だよ。きっと。変な人じゃなきゃ」


 その予想、当たるか否か。

 壇上横よりついにその二人は姿を現した。


「おー……本当に女子しかいねえ」


「待て。あっちの端に男子がいる。二人だ」


「おーほんとほんと」


 壇上の中心に立つと、校長からマイクを受け取ったのは先ほど潜水艦にて落ち着きのない様子だった少年の方。


「あー、あー。マイクのテスト、マイクのテスト。あー、あー」


「やる意味ないだろ。今、校長先生が使ってたやつだぞ?」


「黙れ。このデビューに今後の俺がかかってんだよ。最悪の場合、お前は死ぬ」


「重くないか?……え!?僕が!?」


 二人のやり取りに並んでいる生徒たちからクスクスと笑い声が聞こえだす。

 二人の近くにいた校長先生も笑っていた。


「あー……というわけで今日からこの学校に転校してきました鴉田春一からすだ はるいちって言います。一年A組に入ります。仲良くしてくれたら嬉しいですね。よろしくお願いしまーす!!」


 鴉田は元気に挨拶する。

 生徒たちからは拍手が送られる。


「じゃあ次は僕が――」


「で、こいつは蛇島光へびしま ひかるって言います」


「おい待て。自己紹介くらい僕の方でやるから」


 蛇島が鴉田の手からマイクを取り上げようとしたその時だった。


「絶賛彼女募集中との事なので誰か立候補してあげてくださいねー!」


「ちょ、おま――」


 鴉田の余計な気遣いが炸裂。


――アハハ。なにそれー?


――彼女って……馬鹿馬鹿しい


――でもなんか男子っぽいよね~


――わかるわ~


 体育館にツッコミと爆笑の渦が引きおこる。


「な、なんですかあいつ……」


「さ、さあ。多分ネタだと思うけど」


 ひきつった顔で流山は鴉田のノリについていけなかった。

 鼠川も十中八九ネタだろうとは信じている。


「ああ、ちなみに三人まで募集してるって――」


「やめんかーー!!」


「ゴッファ!!」


 渾身の


 右ストレート


 響く梅雨


「はぁ……やれやれですわね」


 宙に飛んで転がっていく鴉田を見て、陸島たちの近くにいた燦央院は頭を抱える。

 アホな男子というのはこんなものなのかと。


「へえ、いいわねあの二人。捗るわ……!」


「な、何がですの……?」


「お気になさらず……ウフフ」


 さらに隣にいた鎖野が不敵な笑みで壇上の男子二人を見ていた。

 濃くなる笑みに燦央院はそっと距離を取る。


「ああえっと、自分から自己紹介させてください。蛇島光です。一年生でA組に入ります。そうですね……正直魔法とかよくわからないので色々教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」


「なにその自己紹介。新社会人かお前は」


「よくわからん例えをするな」


「ああ、そうそう。三人はさすがに多いと思うぞ?」


「三人も募集しとらんわ!二人でもアウトだばかもん!!」


「じゃあ俺はお前の先を行く」


「は?どういう意味だ?」


 間を置いて鴉田はじっと蛇島を見つめる。

 その真剣な目つきに蛇島は『こいつ何を言い出す気なんだ』と体を引かせる。


「俺の彼女は……そうだな」


 一呼吸の間を置かれる。

 体育館の空間はドン引きと期待と何かで満ちていた。


「九人でいい。謙虚だろ?」


 どんがらがっしゃーん。

 ハーレム願望丸出しのソレに、体育館にいた一同が盛大にずっこけた。


「どこか謙虚じゃああぁーーーー!!」


「ぶべらっ!」


 蛇島渾身のグーパンによって再度宙に浮く鴉田。

 その光景を多くの生徒は忘れないだろう。多分。






「というわけでよろしく」


「あ、うん。よろしく」


 放課後が過ぎて夕方。男子寮。

 一階のラウンジには鼠川と鴉田がテーブルの席についていた。


「ええっと……鴉田君だっけ?」


「そうそう。鼠川だっけ?これから三年間よろしくな!」


「うん。よろしく。ところで蛇島君は?」


「さあ?部屋にこもったきり出てこないな。何か嫌なことでもあったんじゃね?」


――きみのせいだとおもうよ


 鼠川、心の中で突っ込む。

 事実、放課後に他の女子たちに蛇島は彼女三人は多いよと突っ込まれたりいじられたとか。


「そういや魔法なんだが……鼠川は何が使えるんだ?口からトランプか?」


「それはどっちかというと手品じゃない?僕は水の魔法かな。勉強中だけど」


「へえ、水か。ってことはいつでもどこでも女子を濡らせるわけだな」


「言い方が最悪だよ」


「何言ってんだ。最悪ってのはこの場合――」


「言わせてたまるか」


 テーブルをバンと叩いて自分の存在をアピールしつつ、ふんぞり返るように鼠川の隣に座ったのは蛇島。


「おや?もういいのかな?手はちゃんと拭いたかい?匂いは?」


「僕が部屋で何をしていたと思っている!?殴っていいか貴様!」


「ねえ、どうして鴉田君は蛇島君にそんな態度振るうの?」


「いやだってこいつ顔がむっつりだぞ?これはつまりアレだ。助兵衛だ」


「フンッ!!」


 またも吹っ飛ばされる鴉田。


「まったくこいつは……出会って間もないのにここまで言うか」


「あはは……まあだんだん懲りてくると思うよ」


「だといいがな。ああそうだ。さっきも言ったが蛇島だ。これからよろしく」


「うん。そういえば二人は魔法の適正……四属性だとなんだった?」


「俺?俺は風だ。名前に鴉って入ってるからかねえ」


「僕は炎だ」


「そうなんだ。じゃあパートナーも近いうちに来るかもね」


「パートナー?」


「うん。先生曰く、魔法に慣れてない人とかで高校から入ってきた人向けの……規則とかじゃないよ?なんというかそういう風習とかに近いのかな?ようは一対一で勉強に付き添ってくれるって話だよ」


「マジで!?じゃあ実質彼女じゃね!?」


「なんでそうなるのかね。第一そう簡単に見つかるわけが――」


 会話に割り込んできたのはだれか……ではなくスマートフォンの振動。

 しかも蛇島と鴉田が持っているスマートフォンが同時に震えて鳴りだしたのだ。

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