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鉄(くろがね)ウォーロック  作者: 峰川康人
第一部

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5-1 あたらしきものたち

「いやあすげえなあ……この潜水艦。どうやったら客室なんて電車みたいなスペース作れるんだ?」


 本土から魔女たちの住む玉之江島を目指し、一つの潜水艦が海中を静かに力強く泳いでいる。


「ふむ……そうなのかね?」


 ある日の午前。

 現在、客室と呼ばれた空間にある複数用意されたボックス席の一つ二人の少年が向かい合って座っていた。一人は興奮気味でもう一人は冷静で眼鏡を掛けていた。

 興奮気味の逆立った短い髪をした少年は潜水艦に乗り込んでからしばらくのこと、席に座っている時間より立って辺りを見渡している時間の方が多かった。

 一方で冷静にスマートフォンを手にして動画を見ていたのは眼鏡の少年。先ほどから落ち着きのない少年に対し、やれやれという視線を向けている。


「まあ確かに僕も驚いているがそろそろ座ったままの方がいいんじゃないのか?何時着くのかはわからないが」


「そりゃあまあそうだけどよ。でも凄いんだってこの潜水艦。Wi-Fi完備に広い空間。そうそう乗り込めるもんじゃないよこれ!」


「……君は乗り物に詳しいのかい?」


「いや全然」


「違うんかい!」


「そんな大声で突っ込むことか?まあいいじゃねえか細かいことは。ところでさっきから何見てんだ?エロ動画?」


「そんなわけないだろ」


「即答?ってことは……スケベ本か?いや画像か?」


「なんでだ」


 くだらないやりとりの中、潜水艦は特に不調もなく島に近づく。


「あ、そーいやさ」


 落ち着きのない少年は何かを思い出したように気が付く。


「なんだね?また下らない話か?」


「違う違う。なんだやらしい話したいんか?」


「ち、違うわ!!……で、なんだ一体?」


「ウォーロックだよ」


 落ち着きのない少年は真剣な目つきで語り始める。


「今から行く島ってのは魔女の島にして若い魔女候補生や魔女がいる島だ。ってことは俺らハーレム築けるんじゃね?」


「本当にそうか?」


「何故だ?」


 眼鏡の少年は考え込んで自分の意見を述べる。


「いいか?今から行くのはあの燦央院さん曰く、長い歴史を持つという島だ。それに島には魔女の眷属として男性もいる。何より相手は魔女だ。男を手に取るなんてきっと難しくないだろう。そう簡単にハーレムとやらが築けるとは思えんぞ?」


 眼鏡の少年の憶測に対し、細い目からの視線を落ち着きのない少年は向ける。


「……なんだ一体?何か言いたいことがあるのかね?」


「その言い方、まるですでにハーレム築けるかもって考えていたようだな」


「ち、違うわばかもん!!」


 若いやつらのトークを遠くから聞いていた老人は笑っていた。


――こりゃあ愉快な連中がきたもんじゃな






 同日、朝。教室にて。

 その日も教室はいつもの日常が朝のホームルームから始まろうとしていたのだが――


「あ、燦央院さんお帰りなさい!!」


 教室に入った一人の女子生徒の視線はクラスの真ん中にある座席に座っていた生徒に向くと、嬉しそうに向かっていった。足の先には一人の女生徒を中心に人だかりができており、雰囲気は歓迎一色であった。


「おはようございます皆さん。お久しぶりですわね」


 中心にいた女生徒はにこやかに挨拶をしていた。


「……なんだあの人だかり?」


 教室に入った陸島も最初にその群れに目を向けた。


 人だかりの中心には黒く長い艶のあるストレートの髪に皆と同じセーラー服を着用し、まっすぐ伸ばしたニーハイソックスを履いている学生。背丈はその場の生徒の平均よりやや高く、体つきも年にしては良い方だった。


「おはよう……これは?」


 続いて教室に入ったのは鼠川。

 やはり中心の人の集いに視線を惹かれる。


「あ、おはようございます鼠川君。彼女が前に話した燦央院さんです」


 ひょこっと姿を現して説明するのは流山。となりには相原の姿が。


「おはよう陸島君。あ……あの人が前に話していた燦央院さん」


「へえ」


 陸島は人だかりの中に目を向ける。


「……あら?貴方たちがもしかして噂の?」


 中心にいたお淑やかな女学生は陸島と鼠川に気づくとそちらに足を向けて歩く。


「こんにちは。わたくし、燦央院百合香って言います。よろしくお願いしますね」


 にこやかな笑みで長い髪をなびかせて男子二人に丁寧な挨拶をみせる。


(おお……すごいお嬢様みたいだ)


 一連の動作に淑女として、貴族らしいふるまいを見たのか鼠川は思わず『おお』という声とともに感心した。


 なお、彼女はお嬢様です。


「ああ……燦央院様、素敵!」


「本当、男にはもったいなわね!」


「ああでも鼠川君ならいいかも」


「何が!?」


 周囲の女学生はうっとりしながら彼女を、燦央院を見ていた。


――本当にこいつが燦央院か?


 一方、陸島はしかめた顔で燦央院を見ていた。


「どうしたの陸島君?」


「いや……」


 相原は陸島が燦央院に向ける視線にどこか不安を覚える。


「あら、こっちが陸島鉄明さんですの?こんにちは」


「本土で組織と戦っているってのは本当か?」


 その質問に辺りの空気は変わった。

 静かに、それでいて怪訝な視線が陸島に集まる。


「まあ、いきなりですわね。でもそうですわね。まだまだ向こうでは見習いですが、色々な任務に参加しておりますの。良ければ聞きますか?」


「そうだな。例えば――」


 二人の会話を遮るようにチャイムが鳴った。


「あらら……続きは放課後でよろしいかしら?」


「放課後?まあいいが」


「うふふ……」


 燦央院はいたずらに笑う。

 その表情は何かを隠しているようにも見えた。

 そして昼休み。


「そういえば朝のホームルームで集会あるって言ってたね。昼休み終わった後に」


「そういえば……あ!」


 鼠川と流山は朝のホームルームにて早瀬先生より昼休みの終わり頃に体育館に集合するようにと話があったのを思い出す。


「……こないだから二週間経過してない?」


「ってことは来るんですか?ウォーロックが?!」


「多分ね。とにかく行ってみよう」


 教室を抜けて同じく体育館に向かう生徒の群れに紛れて二人はドキドキしつつ、体育館を目指す。

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